ハイブリッドはアリか? EVに関する読者の質問に答える
電気自動車は今後、気候変動に対処するために大きな役割を果たすことは間違いない。この記事では、充電器からハイブリッド車まで、電気自動車に関して読者の多くが抱いているであろう3つの疑問についてお答えする。 by Casey Crownhart2024.03.11
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
私は車を持っておらず、運転もしないが、それにしては車について多くのことを考えている。
私は多大な時間を費やして輸送全般について考えている。輸送は世界の二酸化炭素排出量のおよそ4分の1を占めており、気候変動に対処するためにクリーンにすべき最大分野のひとつだからだ。そして、世界の多くの地域で、通勤、通学、食料品の買い出しに使われている車は、この問題の非常に大きな部分を占めている。
MITテクノロジーレビュー[米国版]のイベントで、私は編集部の同僚と、バッテリーの未来やバッテリーに使われる材料について議論した。良い質問がたくさん出て、そのうちのいくつかにはお答えすることができた。
しかし、特に電気自動車(EV)については、取り上げられなかった質問も多かったので、そのうちのいくつかについて見てみよう。
以下の質問は読者の皆さんから寄せられたもので、短く、わかりやすくするために編集している。
Q:EVに完全に移行するまでの間、プラグイン・ハイブリッド車をもっと推進しないのはなぜですか? プラグイン・ハイブリッド車は何らかの役割を果たせるでしょうか?
ハイブリッド車はEVに関する議論の片隅に追いやられがちだが、私はハイブリッド車は語る価値があると思っている。
話に入る前に、用語について整理しておこう。ハイブリッド車はすべて、ガソリンを燃やす内燃エンジンとバッテリーの両方を使用するが、ハイブリッド車には2つのタイプがある。1つめのプラグイン・ハイブリッド車は、EV充電器を使って充電し、短い距離を電気で走ることができる。もう1つの従来型ハイブリッド車は、回収しなければ無駄になってしまうエネルギーを回収する小型バッテリーを備え、これが燃費を向上させるが、基本的には常にガソリンで走行する。
二酸化炭素排出量を直ちに削減できるテクノロジーはどんなものであれ、気候変動対策の助けとなる。従来型のハイブリッド車でも排出量を20%ほど削減できる。
個人的には、特にプラグイン・ハイブリッド車は、まだEVに踏みきれない人にとって素晴らしい選択肢だと思う。プラグイン・ハイブリッド車は多くの場合、電気で約50マイル(約80.5キロ)走行できるので、通勤距離が短ければ、運転中ほぼゼロ・エミッションで済む。
ただ、プラグイン・ハイブリッド車は完璧な解決策ではない。ひとつには、プラグイン・ハイブリッド車はEVやガソリン車よりもトラブルが多い可能性があることが挙げられる。メンテナンスも他のタイプに比べやや大変だ。さらに、プラグイン・ハイブリッド車では、電気モードが予想ほど使われず、宣伝されている排出削減効果が完全には得られない傾向があるという研究もある。
最終的には化石燃料を燃やすのを止めねばならないのだから、私たちはガソリンを使わず走る自動車に慣れなければならない。しかし、慣れるまでの間、まずは電気自動車の世界に少し足を踏み入れてみるのは、多くのドライバーにとって良い選択肢と言えるだろう。
Q:現在の充電技術でEVに対応できるのでしょうか? 過疎地域への充電器普及は、現実的に考えて可能なのでしょうか?
これらの質問は、EV普及にとって最大の壁になるかもしれない要因のひとつ、即ち充電が可能かどうか、という点に関するものである。
世界の多くの地域で、毎年新たに製造・販売されるEVはもちろん、すでに走っているEVに対応するために、充電器を増やす必要があり、このニーズは非常に大きい。人や車の密度や、家庭の充電器での充電率など、地域によってニーズは異なるが、一部の関連機関は、走行中のEV10台につき1台の公共充電器の設置を推奨している。
2022年末時点で、米国ではEVおよそ24台につき1台の充電器があるが、EUはおよそ13台につき1台、中国は最優秀国でおよそ8台につき1台である。この比率を上げていくことは、より多くのドライバーにEVを快適に使ってもらうために極めて重要である。
しかし、充電ネットワークの構築は大規模なプロジェクトであり、地域によってその様相は異なる。人口密度の高い都市部では、ガレージ付き一戸建てではなく集合住宅に住む人が多いので、家庭に設置される充電器の不足を補うために多くの公共充電器が必要になる。地方の自治体や財力に恵まれない自治体にとっては、そもそも充電器を設置すること自体が難しい。
こうしたいわゆる充電砂漠にある地域は、しばしば鶏と卵のどっちが先かというタイプの問題に悩まされる。つまり、みんながEVに乗らないから充電器の需要が小さく、充電器がないからみんなEVに乗らない、という現象が起こるのだ。
充電ネットワークを作る民間企業がやらないところを埋めるカギとなるのは公的資金である。米国では、条件に恵まれない自治体が確実に恩恵を受けられるよう、いくらかの資金が投入されている。
要するに、みんなが公平に充電器を使えるようにすることは可能だが、そこに達するには間違いなく時間も費用もかかるということだ。
Q:水素についてはどうでしょうか。水素はバッテリーの代替になり得るでしょうか?
この疑問について掘り下げて考えており、近いうちに記事をお届けする(日本版注:記事はこちら)。簡潔な回答は、水素が車の救世主となるだろうという主張に対して懐疑的になる理由はたくさんある、ということだ。
現在、水素を使って走行している車の数はごく少ない。トヨタの「MIRAI」は市場で人気のある燃料電池自動車のひとつだが、昨年の販売数はわずか数千台にとどまる。
このタイプの車の大きな魅力は、水素充填の仕方が現在のガソリン車への給油とほぼ同じで、ポンプを使って数分しかかからないことだ。充電器の場合、最速の充電器でもEVの充電には30分程度かかる。それを考えると水素の充填は一般的により速くて手軽である。
しかしさまざまな理由から、水素燃料電池車は購入コストも運転コストも割高であり、今後もその傾向は変わらないだろう。また、重工業部門で、肥料や長距離輸送向けに、水素にはもっと良い用途がある。以上のことから、長期にわたって私たちの最良の選択肢になるのはおそらくEVだろう。
MITテクノロジーレビューの関連記事
本誌が2023年に発表した「ブレークスルー・テクノロジー」のリストには電気自動車が入っている。その理由はこちら。
2022年の記事で書いたように、ハイブリッド車はしばらくは存続するだろうし、それはそれで良いことかもしれない。
大型EVは完璧にはほど遠いが、気候変動に対処するための取り組みの一部にはなりうる。
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中国がバーチャル発電所を必要とする理由
EV革命が世界のどこより速く進んでいるのは中国である。だから、中国がEVバッテリーなどのエネルギー資源をまとめて一元管理するバーチャル発電所の分野の中心地であることに不思議はない。中国がバーチャル発電所(VPP)を必要とする理由について、詳しくは本誌のヤン・ズェイ記者の最新記事を読んでいただきたい。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。