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EV向け「米国産電池」で
補助金はいくらもらえるか
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How one mine could unlock billions in EV subsidies

EV向け「米国産電池」で
補助金はいくらもらえるか

インフレ抑制法が米国経済を変革し始めている。その仕組みを理解するために、本誌は1つの鉱山から採掘されたニッケルが、サプライチェーンを流れていく過程で受けられる可能性のある税額控除の総額を計算した。 by James Temple2024.04.09

ミネソタ州タマラックの小さな町の北にある松林で、茶色のパイプの集合体が奇妙な角度で泥や生い茂った草から突き出ている。

鉱山探査会社のタロン・メタル(Talon Metals)は、これらの蓋をされたボーリング孔の下に米国で最も濃度の高いニッケル鉱床の1つを発見した。そして現在、岩盤の奥深くまでトンネルを掘り、年間数十万トンの鉱物資源に富んだ鉱石を採掘したいと考えている。

タロンの主張によると、規制当局がこの鉱山を承認すれば、ミネソタ州の大地の下にある岩盤から全国の電気自動車(EV)の電池(バッテリー)までをつなぐ、米国初の完全な国内ニッケル・サプライチェーンの出発点となる可能性がある。

米国政府は、金属精錬企業や電池製造企業、そしてそれらを動力源とする自動車やトラックの購入者に対し、数百万から数十億ドルの補助金を配布し、あらゆる段階で手厚い支援を提供しようとしている。

この1つの採掘プロジェクトから産出される原料のニッケルを使って生産される製品は、インフレ抑制法(IRA)によって創設された連邦税額控除だけで、理論上26億ドル以上の補助金を得ることができるのだ。これは、ジョンズ・ホプキンス大学の政治学准教授であり、ネット・ゼロ産業政策ラボ(Net Zero Industrial Policy Lab)の共同所長でもある ベントレー・アランがMITテクノロジーレビューと協力して実施した独自の分析による試算結果だ。

最大の受益者の1つは、タロンのニッケルを使用する電池メーカーで、80億ドル以上の税額控除を受けられる可能性がある。そのうち約半分は、電気自動車(EV)の大手メーカーであるテスラが受け取るかもしれない。テスラはすでに、この鉱山から数万トンもの金属を購入する契約を結んでいる。

しかし、全体的に見れば、最も恩恵を受けるのは、これらの電池を搭載したEVを購入する米国の消費者だろう。合計すると、消費者たちは約180億ドルもの節約を享受できる可能性がある。

インフレ抑制法が少なくとも数千億ドルの連邦政府資金を投入する可能性があることは多くの報道機関が取り上げているが、MITテクノロジーレビューは、ある1つのプロジェクトに注目し、サプライチェーンの各段階でこれらの豊富な補助金がどのように活用されるかを調べることで、インフレ抑制法が現場に与える影響をより明確に理解したいと考えた(タロンの提案とそれに対する地域社会の反応についての関連記事はこちら)。

我々はアラン准教授に相談して、潜在的にどれだけの資金が動いているのか、その資金がどこへ向かう可能性が高いのか、そして新興産業や広範な経済にとってどのような意味があるのかを分析した。

これらの計算はすべて、インフレ抑制法の可能性を最大限に評価するための高い目標値であり、サプライチェーンの各段階で利用可能なすべての税額控除について、すべての企業と顧客が適格であると仮定している。結局のところ、インフレ抑制法の多様で複雑な制限やその他の要因を考慮すると、政府がアラン准教授の計算した全額を支給することはほぼ確実にないだろう。

さらに、最近の米国内国歳入庁(IRS)の解釈によれば、まだ確定ではないものの、タロン自体はこの法律を通じて直接的に補助金を受け取ることはできない可能性がある。しかし、国産の重要鉱物に対する需要を喚起する手厚いEV購入インセンティブのおかげで、同社はインフレ抑制法から間接的にメリットを得られる立場にあるのだ。

260億ドルの税額控除は、新たな米国のニッケル・サプライチェーン全体でどのように分配されるか

インフレ抑制法は、重要鉱物の加工、電池の製造、そして主に米国内または自由貿易パートナー国で調達あるいは精製された電池材料を使用したEVの購入に対して、手厚いインセンティブを提供している。タロンが提案している鉱山から産出されるニッケルは、サプライチェーンの各段階で企業や消費者が多額の連邦補助金を獲得するのに役立つ可能性がある。

この規模の大きさから、2022年8月に法制化されたインフレ抑制法が、すでにプロジェクトを推進し、調達の仕組みを再編成し、化石燃料からの移行を加速させ始めているその経緯と理由を垣間見ることができる。

実際、複数の分析結果が示すように、この政策は企業の意思決定に大きな影響を与えている。この政策により、新しい施設や工場の建設の是非、場所、時期を検討する際の計算が大きく変わった。その結果、米国の重要鉱物資源からEVまでのサプライチェーンに、少なくとも数百億ドル規模の民間投資が呼び込まれている。

「これらの数字を5分ほど計算してみると、紙の上に書かれた結果に強い衝撃を受けるはずです。インフレ抑制法による優遇措置によって、より多くのプロジェクトが米国内で採算の取れる形で、そして競争力を持って開発されるようになるでしょう」とアラン准教授は述べている。「この法律は、米国に大きな変革をもたらすはずです」。

急ピッチの追い上げ競争

長年にわたって、米国は金属の採掘と加工という面倒な業務を着実に海外に移転し、これらの産業がしばしば引き起こす環境破壊や地域社会とのトラブルへの対処を他国に任せてきた。しかし、気候変動や中国との貿易摩擦の高まりによって、経済、環境、地政学的なリスクが高まる中、米国はこれらの分野の再活性化に向けてますます力を入れるようになっている。

リチウム、コバルト、ニッケル、銅などの重要鉱物は、新興のクリーン・エネルギー経済を支える原動力であり、太陽光パネル、風力タービン、電池、EVの製造に欠かせない。しかし、中国は数十年にわたる政府の戦略的投資と的を絞った通商政策によって、これらの製品のほとんどの原材料、部品、完成品の生産を支配している。サプライチェーンの専門情報プロバイダー「ベンチマーク・ミネラル・インテリジェンス(Benchmark Mineral Intelligence)」によると、中国は電池に使用される種類のニッケルの71%を精製し、世界の電池セルの85%以上を生産しているという。

現在、米国は必死になってこれらの材料の調達に追いつこうとしている。国内生産を増強するか、友好的な貿易相手国を通じてサプライチェーンを確保することで、これらの材料に自由にアクセスできるようにするための激しい競争を繰り広げているのだ。インフレ抑制法は、これらの産業を強化し、世界のクリーン・テクノロジーのサプライチェーンに対する中国の支配力に対抗するための、米国におけるこれまでで最大の賭けと言えるだろう。一部の試算によると、インフレ抑制法により1兆ドル以上の連邦政府のインセンティブが解き放たれる可能性があるという。

「インフレ抑制法は、米国におけるクリーン・エネルギーの普及を飛躍的に高めるのに十分な内容だと思います」。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のキンバリー・クラウジング教授(法学)は述べている。同教授は以前、財務省で税制分析を担当する副次官補を務めていた。「最も信頼できるモデルでは、インフレ抑制法によって温室効果ガスの排出量が大幅に削減され、パリ協定の目標の半分を達成できる可能性が示されています」。

インフレ抑制法は、他の補助金に加えて、重要鉱物、電極材料、電池の生産に対する税額控除を企業に提供している。これにより、企業は連邦税の納税額を大幅に減らすことができるのだ。

しかし、調達とサプライチェーンの見直しを真に促しているのは、EV購入の税額控除に含まれる、いわゆる国産部品要件だ。消費者が税額控除を最大限に活用し、EVメーカーがこの税額控除による需要増の恩恵を受けるには、電池に含まれる重要鉱物のかなりの部分を米国内で生産するか、自由貿易パートナーから調達するか、北米でリサイクルする必要がある。

そのため、タロンが所有するような鉱山から産出される重要鉱物は、米国の自動車会社にとって非常に価値が高くなっている。これらの鉱物を利用することで、自社のEVモデルと顧客がこれらの税額控除の対象となることを確実にできるからだ。

採掘と精錬

ミネソタ州で発見されたような鉱床に含まれるニッケルは、自動車業界の環境対策に特に重要だ。ニッケルは、電池のカソード(正極)に充填できるエネルギー量を増加させるため、EVの航続距離を伸ばし、トラックやセミトラックのようなより重量のあるEVの実現を可能にする。

国際エネルギー機関(IEA)によると、主にEV用電池需要は9倍の増加が見込まれることから、2040年までに世界のニッケル需要は112%増加する可 …

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