米国で相次ぐ原発の「定年延長」、いずれ100年時代突入か
米国で原子力発電所の運転期間延長が相次いでいる。平均運転年数は42年、すでに80年への延長を認められた原発もある。 by Casey Crownhart2024.04.17
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
年齢を重ねるのが恐ろしい場合もある。年を取ると、以前はできていたすべてのことができなくなるかもしれないし、時代の変化について行くのが難しくなることもある。原子炉の場合はどうだろう。
世界中の原子力発電所で、原子炉の平均運転年数が徐々に延びている。稼働中の原子炉の数が他のどの国よりも多い米国では、原子炉の平均運転年数は2023年現在で42年である。欧州では90%近くの原子炉が30年以上運転を続けている。
古い原子炉、中でも小規模の原子炉は、特に天然ガスなど他の安価な電力源を持つ地域において、経済的な圧力のせいで大量に閉鎖されてきた。しかし、古い原子炉にはまだ多くの寿命が残されている可能性がある。
最近の記事「廃炉から復活へ、米国で異例の原発再稼働に道筋」でお伝えしたように、2022年に閉鎖されたミシガン州のある原子力発電所では、新しい所有者が稼働再開に向けて動いている。再開に成功すれば、この発電所は合計で80年稼働する可能性がある。他の原子力発電所も、続々と20年の運転認可延長が決定している。既存の原子力発電所の寿命を延ばすことは、二酸化炭素排出量の削減に役立つ可能性がある。また、一般的に、新しい発電所を建造するより費用がかからない。では、原子力発電所の寿命はどれくらいと見込めるだろうか?
米国では、原子力規制委員会(NRC)が原子炉の運転寿命を40年として認可している。しかし、原子力発電所は確実にもっと長期間の運転が可能であり、実際に多くが40年以上稼働している。
40年というタイムラインは、原子力発電所の寿命に終止符を打つために作られたものではないと、非営利シンクタンク「原子力イノベーション・アライアンス(NIA)」のパトリック・ホワイト研究部長は言う。そうではなく、建造に投資された資金を回収するのに十分な期間、発電所を稼働できるようにすることが目的だったと同研究部長は話す。
NRCはこれまで、米国の既存原子力発電所の多くに20年の運転認可延長を認め、合計60年の稼働を可能にしてきた。現在、一部の事業者が、さらなる延長を申請している。フロリダ州ターキーポイントの2基など、少数の原子炉は、すでに合計80年の運転が承認されている。しかし、それらの延長認可の取得には紆余曲折も少なくない。NRCは認可後にその一部を部分的に撤回し、すでに認可済みのいくつかの発電所に対して、より新しいデータを使った追加的な環境評価を受けるよう要求している。
現在、世界で最も古くから稼働している原子炉はたった54基だけだが、それらの寿命を100年まで延ばそうとする研究がすでに始まっているとホワイト研究部長は言う。
実際のところ、原子力発電所には、本当の意味で寿命に限りのある構成要素はほとんどない。水冷システムのポンプやバルブ、熱交換器などの機器や、補助的なインフラはすべて、保守、修理、または交換が可能である。テクノロジーの進歩に伴って、発電所の発電効率向上を図るため、それらの機器はさらにアップグレードされるかもしれない。
原子力発電所を構成する2つの主要な装置である原子炉圧力容器と格納容器が発電所の寿命を決めると、マサチューセッツ工科大学(MIT)で原子力工学を指導するヤコポ・ボンジョルノ教授は話す。
- 原子炉圧力容器は原子力発電所の心臓部であり、炉心とそれに付随する冷却システムを格納している。その構造は、核燃料を漏らすことなく内部を高温高圧に保つものでなくてはならない。
- 格納容器は原子炉を囲む殻である。気密性が高く、緊急事態の際に放射性物質を閉じ込めておけるように設計されている。
どちらも原子力発電所の安全稼働には不可欠な装置であり、一般的に非常に高価であったり、交換が非常に難しかったりする。そのため、規制当局は発電所の寿命延長申請を審査する際、それらの装置の状態と寿命を最も注視すると、ボンジョルノ教授は言う。
研究者たちは、いくつかの原子力発電所を運転停止の危機に陥れてきた問題に対処するため、新たな方法を模索している。例えば、オハイオ州のある原子力発電所を2年間閉鎖に追い込んだこともある、原子炉の部品を蝕む腐食などの問題だ。原発内部の物質を監視する新たな方法や、劣化に強い新素材は、原子炉をより安全に、より長く稼働させるのに貢献する可能性がある。
原子力発電所の寿命を延ばすことは、世界がクリーン・エネルギー目標と気候目標を達成するための助けにもなるかもしれない。
場所によっては、原子力発電所の運転を止めると、その穴を埋めるために化石燃料が投入され、炭素汚染がさらに増える可能性がある。ニューヨーク州が2021年にインディアンポイント原子力発電所の運転を停止したときには、天然ガスの使用量が急増し、温室効果ガス排出量が増えた。
ドイツは2023年に国内最後の原子炉を閉鎖した。その後、同国の二酸化炭素排出量は記録的な低水準にまで減ったが、一部の専門家によれば、その減少のほとんどは、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの利用増加よりも、景気減速の影響が大きいという。
国際原子力機関(IAEA)の報告書によれば、世界の原子力発電所の寿命を10年延ばすことで、今後数十年にわたり2万6000テラワット時の低炭素電力が送電網に追加供給されるという。これは、現在の世界の電力需要のおよそ1年分に相当する。そのため、原子力発電所の寿命延長は、世界が低炭素発電能力を拡大している間、二酸化炭素排出量を削減するのに役立つ可能性がある。
したがって、送電網のクリーン化に関しては、古い原子炉を含め、年長者に敬意を払う価値があるわけだ。
MITテクノロジーレビューの関連記事
最近の記事でお伝えしたとおり、ミシガン州のある原子力発電所が、米国で初めて閉鎖後に再稼働する原子炉となるかもしれない。
数年にわたる論争の末、ドイツが2023年に国内最後の原子炉を閉鎖した。「ドイツ『脱原発』は気候変動において何を意味するか」で詳しく報告している。
次世代の原子炉は、さらに進化しつつある。「次世代原子炉、『溶融塩』が再び注目される理由」で私が報告したとおり、ケイロス・パワー(Kairos Power)は加圧水の代わりに塩で原子炉を冷却することに取り組んでいる。
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- 2人の気候ジャーナリストが、自宅で天然ガスを使うのをやめようとした。しかし、電化はかなりの冒険物語となり、建物を脱炭素化する取り組みに関する問題点がいくつか示された。(グリスト)
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。