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「考えるだけで動かせる」MIT開発のバイオニック義肢
H. Song et al.
People can move this bionic leg just by thinking about it

「考えるだけで動かせる」MIT開発のバイオニック義肢

MITの研究チームは、神経インターフェイスを装備し、装着者の思考によって動きを制御できる義肢を開発した。この義肢を装着した被験者は、通常の義肢を装着した場合よりも速く歩いたり、障害物をより機敏にかわしたりできるようになった。 by Sarah Ward2024.07.04

この記事の3つのポイント
  1. MITが下腿切断者の義肢を脳で制御できる神経インターフェイスを開発
  2. 義肢を自然に動かし、自分の体の一部だと感じられるデバイス
  3. 手術と電極の改良でさらに高度な義肢制御の実現を目指す
summarized by Claude 3

脚の一部を失った場合、義肢があれば移動が楽になる。しかし、ほとんどの義肢は静的で、扱いにくく、動かしにくい。新しい神経インターフェイスは、バイオニック義肢を大腿部の神経末端に接続することで、義肢を脳で制御できるようにしている。7月1日付けの『ネイチャー・メディシン(Nature Medicine)』によると、下腿を切断した人々は、この新しい装置を使うと、義肢が自分の体の一部であるかのように感じられるようになるという。

「自分の体を成り立たせているものは何かと患者に尋ねると、その答えに義肢は含まれません」。この論文の主執筆者の一人でマサチューセッツ工科大学(MIT)の生物物理学者であるヒュー・ハー教授は言う。ハー教授にとって、この研究は個人的な意味を持つ。ハー教授は17歳のとき、登山中の事故で両下腿を失ったのだ。脳を義肢にリンクさせることで、義肢がより自分の体の一部のように感じられるようになり、感情面でも良い影響をもたらす可能性がある、とハー教授は言う。

神経インターフェイスを義肢に接続するには、2つのステップが必要となる。まず、患者は手術を受ける。下腿切断後、すねとふくらはぎの筋肉の一部が残る。手術では、足首を上に曲げるために収縮するすねの筋肉と、この動きに対抗するふくらはぎの筋肉をつなぐ。この時点で義肢を装着することもできる。これらの残った筋肉を再びつなげることで、義肢をよりダイナミックに動かせるようになる。また、幻肢痛も軽減され、つまずいたり転んだりしにくくなる。

「この手術はそれ自体で独立したものです」と、2018年に手術を受けたパラアスリートのエイミー・ピエトラフィッタは話す。「自分の脚を取り戻したような気分です」。しかし、義肢が神経系に接続されていない場合、依然として自然な動きは制限される。

ステップ2では表面電極を取り付けて、脳からふくらはぎとすねの筋肉へ送られる、下腿を動かそうとする神経活動を測定できるようにする。バイオニック義肢に内蔵された小型コンピューターがこれらの神経信号を解読し、それに応じて脚が動き、患者はより自然に脚を動かせるようになる。

「正常な生身の脚があれば、たとえば階段を上り下りするとき、何も考えずに歩くことができます。それは無意識的なものです」とハー教授は言う。「私たちの患者も無意識にそれをできますが、彼らの脚はチタンとシリコンでできています」。

論文の著者らは、神経インターフェイスを使用した7人の患者と、手術を受けなかった患者の運動能力を比較した。神経インターフェイスを使用した患者は、41%速く歩くことができ、傾斜面や階段を登ることができた。また、障害物をより機敏にかわすことができ、バランス感覚もより優れていた。そして、義肢が単なる移動のための道具ではなく、本当に自分の体の一部のように感じると語った。

「これは非常に先進的なアプローチです」。今回の研究には参加していないケース・ウェスタン・リザーブ大学の生物医学工学者のハミド・チャルクカール研究助教授は言う。「私たちの足は、靴とは違います。体の上に履くものではありません。それは、骨、筋肉、神経を介して、私たちの体と一体化しているものです」。

しかし、限界もある。手術は切断時にも、切断から数年後に実施できるが、どの患者にも同じようにうまくいくとは限らない。たとえば、後で手術を受けた場合、大腿上部の筋肉が著しく萎縮してしまい、手術の恩恵を十分に得られなくなる人もいる。

ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院では、すねとふくらはぎの筋肉をつなぐ手術が標準的な治療となっている。しかし、足の完全な神経制御を可能にする表面電極が臨床的に実用化されるのは数年先のことである。さらに、神経インターフェイスは実験室での使用にとどまっており、実世界でどのように機能するかを見極めることが重要である。

MITのハー教授の研究チームは、義肢をさらに高度にコントロールできるようにしたいと考えている。将来的には、表面電極を、より正確に筋肉の動きを追跡できる磁性球に置き換える可能性が高い。

「私たちの目標は、本当の意味で体を再構築することです」とハー教授は話す。そして、その野望を完全に実現するため、「神経統合と具現化を長期的な目標としています」と言う。

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