気候変動「臨界点」に備え、
英政府が早期警報システム
英国の研究助成機関は、気候変動が臨界点に近づいたことを知らせる早期警報システムの開発におよそ1億ドルを拠出する。センサーの開発、観測ネットワークの構築、コンピュータモデルの構築に向けて取り組むチームを支援する。 by James Temple2024.09.09
- この記事の3つのポイント
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- グリーンランド氷床の融解と北大西洋亜寒帯循環の弱体化に関する早期警報システムに英国が着手
- 臨界点を超えた場合の影響を理解し、不確実性を低減することが目標
- 観測ネットワークの構築やAIを活用した兆候の検知などのブレークスルーが必要
英国の新たなムーンショット型研究機関が、地球が気候変動の「臨界点」を超える危険な状態に近づいた場合に警報を発する早期警報システムを開発するため、8100万ポンド(1億600万ドル)のプログラムを立ち上げた。
気候変動の臨界点とは、ある特定の生態系や惑星プロセスが、ある安定した状態から別の状態へと移行し始め、気候システムに劇的で、しばしば自己強化的な変化を引き起こす閾値を指す。
英国の高等研究発明局(ARIA:Advanced Research and Invention Agency)は9月4日に、2つの関連する気候変動の臨界点に関するシステムの開発の提案を募集することを発表した。一つは、海面を劇的に上昇させる可能性がある、グリーンランド氷床の融解の加速だ。もう一つは、グリーンランドの南を反時計回りに循環する巨大な海流であり、14世紀頃の小氷期の一因となった可能性がある北大西洋亜寒帯循環の弱体化である。
この5年間のプログラムの目標は、このような現象がいつ起こりうるのか、それが地球とそこに生息する生物種にどのような影響を与えるのか、そしてその影響がどのくらいの期間にわたって発生し、持続するのかについて、科学的な不確実性を低減することである。最終的にARIAは、早期警報システムが 「低コストで、持続可能で、正当化されるものである」ことを示す概念実証を提供したいと考えている。現在、そのような専用システムは存在しないが、上記およびその他の気候変動の臨界点を超える可能性とその影響をよりよく理解するために、多くの研究が実施されている。
おそらく今後数十年のうちに、このような臨界点を超えることで、気候変動の影響が大幅に加速し、危険が増大する可能性が過小評価されている。そう語るのは、臨界点研究プログラムのプログラム・ディレクターであるサラ・ボーンディークである。早期警報システムを開発することで、「気候変動やそれに対する備えについての人々の考え方を変えることができるかもしれません」と、ケンブリッジ大学の生物医学物理学教授でもあるボーンディークは話す。
ARIAは、3つの目標に向けて取り組むチームを支援する予定だ。1つ目は過酷な環境にも耐えてこれらのシステムの状態に関するより正確で必要なデータを提供できる低コストのセンサーを開発すること、2つ目はそうしたセンサーやその他のセンシング・テクノロジーを導入して「これらの臨界システムを監視するための観測ネットワーク」を構築すること、そして3つ目は物理法則と人工知能(AI)を活用してデータから「臨界点に向かっていることを示すわずかな初期兆候」を検知するコンピューターモデルを構築することである。
しかし、観測筋は、いずれのシステムについても正確な早期警報システムを設計することは容易なことではなく、すぐには実現できないかもしれないと強調している。科学者たちのこれらのシステムに対する理解が限定的であるだけでなく、過去にこれらのシステムがどのような挙動を示したかについてのデータは断片的でノイズが多いうえ、このような環境に大規模な観測ツールを設置するのは高価で手間がかかる。
それでも、これらのシステムと世界が直面する可能性のあるリスクについて理解を深める必要があることは広く認められている。
ブレークスルーの追求
これらのシステムのいずれかが臨界点を超えれば、地球とそこに生息する生き物に多大な影響を及ぼすことは明らかである。
ここ数十年で世界が温暖化するにつれ、グリーンランド氷床から何兆トンもの氷が溶けて消失し、北大西洋に大量の淡水が流れ込み、海面が上昇し、雪や氷による太陽熱の宇宙への反射量が減少した。
北極圏の温暖化が世界平均を上回るペースで進み、より高温の海水が陸上の氷河を支える棚氷を削り取っている …
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