トランプ政権、気候変動対策の主導国を中国に譲渡
気候変動対策を放棄する方針のトランプ政権の政策により、今後国際的リーダーシップを発揮するのは必然的に中国になる。自国第一主義とは、リーダーの座も降りることだ。 by Jamie Condliffe2017.03.30
トランプ大統領は、気候変動問題を解決するアメリカの約束に一切関心がない、と表明済みだ。したがって、温室効果ガス排出量の削減について、国際的なリーダーシップを発揮するのはアメリカ以外の国になる。
大統領選の初期段階で、トランプ陣営は気候変動に対する懸念の高まりには目を向けず、オバマ政権が定めた「雇用を破壊する」化石燃料の利用と発電所からの温室効果ガス排出に関する規制を撤廃すると公約していた。その後大統領に就任すると、早々に「米国第一エネルギー政策計画(America First Energy Policy Plan)」を打ち出した。この計画の下では気候変動に対する政策が大幅に後退することとなる。トランプ政権初の詳細な予算案はこの政策を反映した内容で、環境保護プログラムに対する大幅な予算削減を議会に提案している。この案が実現すればEPA(環境保護庁)の気候変動に対する政策は骨抜きになり、クリーン・エネルギー開発関連の政府補助金は廃止され、国連気候変動計画への米国の分担金支払いは中止される。
トランプは大統領令への署名を済ませ、オバマ政権が定めた気候変動に対するに対する新たな政策の多くを縮小しようとしている。大統領令では連邦政府機関に対し、エネルギー生産にとって「足かせ」とみなされる政策を無効化するよう指示している。とりわけ目立つのはクリーン・パワー・プランだ。
トランプ政権の主な狙いはアメリカの石炭産業を再び活性化させることだ。大統領令の署名式の間、トランプ大統領は自らの政権で「石炭に関する争いに終止符を打つ。アメリカは石炭をもっと利用することになる。本物のクリーン・コールだ」と述べた。 この主張には議論の余地があるし、石炭産業が息を吹き返す可能性は低い。
明るい見通しはあまりなく、政策全体を実行するのは本人が思うほど簡単ではない。クライメット・セントラル(米国の気候変動Webメディア)が指摘する通り、規制撤廃には、法廷闘争に時間がかかると予想される。
やや意外なことに、トランプ政権は米国がパリ環境協定から脱退すると表明する可能性まである。しかし、これまでの経緯からすると、トランプ政権が協定からの脱退を宣言することは十分あり得る話だ。可能性が非常に高いので石油大手エクソン・モービルさえ、大統領がパリ協定の破棄を強引に進めないよう勧める必要を感じるに至った 。
しかし、アメリカがもはや国際的な温室効果ガス削減努力の分野で、指導的な役割を果たせなくなったのは明らかだ。温室効果ガスを利用する火力発電所の排出量規制が緩和されたら、出来るわけがない。 フォーレン・ポリシー(米国のニュースメディア)が記事にしているとおり、政策変更により米国が2025年までに温室効果ガス排出量を26%削減し、2005年の水準を下回るとのパリ協定の最初の目標を達成するのは困難どころか、おそらく不可能になりそうな雲行きだ。
パリ協定の崩壊を避けるには、新しい実質的なリーダー国が必要だ。MIT Technology Reviewが以前記事にしたとおりパリ協定の大きな魅力のひとつは、各国が自ら目標を設定でき、定期的に見直せることだ。しかし、大幅な見直しをするにあたっては強いリーダーシップが必要で、以前は米国がリーダー役を担っていると思われていた。この座を維持するのはもはや不可能だろう。
EUが代わりになるとは考えにくい。内輪の問題で手一杯だし、加盟国それぞれは、国際的な責任を担うには国力が小さすぎる。したがって、本誌が以前提言しニューヨーク・タイムズ紙もその後同様に論じている通り、まさかと思われるかもしれないが、中国がアメリカの後継者としての役割を担うことに多分なるだろう。
意外な感じではあるが、筋は通る。中国は世界最大の温室効果ガス排出国だ。アメリカはその次だ。しかし中国は汚名を返上する決意を守る、と明確に表明してもいる。太陽エネルギーの使用比率を増やす大胆な国際公約を繰り返し打ち出している。 大気環境を浄化しクリーン・エネルギーの普及を促進するため、中国は石炭への依存度を下げ始めている。さらにここ数年の間、アメリカ同様に、 CO2排出量削減と経済成長の両立に成功している。
しかし、恐らくもっと重要な点は、この動きを継続させる明確な意思があることだ。1月に中国の習近平国家主席は「パリ協定のとりまとめは難産だった」と 述べた。さらに付け加えて、協定内容の遵守が「現代人が将来世代に対して負わなければならない責任」だとも述べた。要するに中国はトランプ大統領就任まで、アメリカも進んでいた道に踏みとどまる意思があるということだ。
したがってアメリカはかなり奇妙な立場に置かれるかもしれない。国家元首たる大統領が気候変動のスピードを押さえる努力を放棄しようとしている中、中国から粘り強く排出削減を迫られるのだ。
(関連記事:Nature, New York Times, “トランプ政権、初の予算提案で気候変動対策をぶち壊し,” “二酸化炭素排出量の削減と経済成長は両立すると米中が証明,” “How Bad Will Trump Be for Climate Policy?”)
- 人気の記事ランキング
-
- Who’s to blame for climate change? It’s surprisingly complicated. CO2排出「責任論」、単一指標では語れない複雑な現実
- Promotion MITTR Emerging Technology Nite #31 MITTR主催「再考ゲーミフィケーション」開催のご案内
- Exosomes are touted as a trendy cure-all. We don’t know if they work. 「奇跡の薬」エクソソーム、 効果不明も高額治療が横行
- Who’s to blame for climate change? It’s surprisingly complicated. CO2排出「責任論」、単一指標では語れない複雑な現実
- Exosomes are touted as a trendy cure-all. We don’t know if they work. 「奇跡の薬」エクソソーム、 効果不明も高額治療が横行
- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。