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中国EVメーカーが人型ロボットへの転換を急ぐ裏事情
Sarah Rogers/MIT Technology Review | Photos Getty, Envato
Inside China’s electric-vehicle-to-humanoid-robot pivot

中国EVメーカーが人型ロボットへの転換を急ぐ裏事情

中国で電気自動車(EV)を製造販売している企業の多くが、人型ロボット(ヒューマノイド)に投資している。EV同様に低価格で製造し、世界市場での普及を目指しているが、これはどのような意味を持つのだろうか。 by James O'Donnell2025.02.21

この記事の3つのポイント
  1. 中国のEV大手が人型ロボットの開発に巨額投資を行っている
  2. 人型ロボットのサプライチェーンの65%が中国に存在
  3. 米中のAI覇権争いにより人型ロボット業界も影響を受ける可能性も
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

政府効率化省(DOGE:Department of Government Efficiency)が連邦政府機関を閉鎖しようとする様子がワシントンからのニュースの大半を占める中、トランプ政権は国際関係でも動きを見せている。その多くは中国に関するものだ。中国から米国への輸入品に対する関税は2月4日に発効した。数週間前にディープシーク(DeepSeek)が衝撃のデビューを飾って以来、外交関係でもちょっとした騒動があった。中国はすでに電気自動車(EV)、ロボットタクシードローンで覇権を握っており、新モデルの登場により、AIもこのリストに加わることになりそうだ。これにより、米大統領と一部の議員たちは高性能半導体の新たな輸出規制が必要だと訴えており、またすでに米国内の3州がディープシークを政府機関の機器で使用することを禁止した

MITテクノロジーレビューの中国担当記者であるチェン・ツァイウェイは、中国のテック業界で進展する新たなトレンドに注目している(関連記事)。EVの主要メーカーがEVでの成功を糧に、人型ロボットの開発に莫大な額を投資しているのだ。

いま中国企業の間で何が起きているのか。ツァイウェイ記者に話を聞いた。

——ロボットの前に、ディープシークの話をしましょう。数週間前は、このAIモデルをめぐる狂騒の話題で持ちきりでした。中国のほかのAI企業から何か聞いていますか?彼らはどう反応しているのでしょう?

中国の他のAI企業は、資金や計算資源では差はなかったにもかかわらず、なぜ自分たちはディープシークに匹敵する強力なモデルを構築できなかったのかを、大慌てで突き止めようとしています。ディープシークの成功は、マネジメントスタイルについての内省を促すとともに、中国のエンジニア人材の優秀さを改めて確信させるものでした。ディープシークのモデルを基礎とした、さまざまなアプリを開発する機運も高まっています。

——あなたが書いた記事では、中国のEVメーカーが人型ロボットの開発に乗り出しているとのこと。まず、驚きのデータについて質問させてください。中国で販売される新車の53%は電気自動車あるいはハイブリッド車。一方、米国ではたった8%です。何が理由なのでしょうか。

大きな要因は価格でしょう。中国では無数のEVブランドがあらゆる価格帯で競い合っているため、低価格と高品質が実現しているのです。政府の補助金も大きな役割を果たしています。たとえば北京では、旧車からEVに乗り換えると1万人民元(約1500ドル)がもらえます。しかもこの補助金は、先日2倍に引き上げられました。さらに、米国では出先でのバッテリーの充電や交換に苦労しますが、中国の場合はずっと簡単です。

——前の記事は、数億人が視聴した中国の旧正月祝賀番組の描写から始まっています。演者として人型ロボットが登場し、踊ったりハンカチを振ったりしたとのこと。本誌は以前の記事で、人型ロボットの動画はときにミスリーディングであることを取り上げていますが、この番組ではどうでしたか。

個人的にはそこそこ感銘を受けました。ロボットは機敏に動き、音楽に合わせた動きができていました。動作は人間のダンサーのものよりも単純でしたが、ほとんどの人が感心するであろう動作がひとつありました。1本の指でつまんだハンカチを円を描くように振り、空中に放ったあと、完璧にキャッチするというものです。これは「楊子舞」の定番の動作で、私も子どものときに踊ったことがありますが、人間にとってもかなり難しい技です。中国のネット上では、この動作をどうやって実現したのか疑う憶測が飛び交い、ハンカチに磁石や糸をつけて落ちないようにする小細工がされていたのでは? と言われています。動画を何度も見返して、私もこうした意見に傾いています。

——トランプ大統領はすでに中国に関税を課し、さらに追加措置を計画しています。中国の人型ロボット業界にはどんな影響を与える可能性が考えられるでしょうか。

ユニツリー(Unitree)の「H1」モデルと「G1」モデルはすでに販売されており、今年のCESにも出展されていました。米国での大規模展開はまだ始まっていませんが、中国は生産コストを低く抑えられるので、これらのロボットは極めて高い競争力を持つでしょう。人型ロボットのサプライチェーンの65%が中国にあることを考えれば、ロボット工学が米中テック戦争の次のターゲットになったとしても私は驚きません。

——米国では人型ロボットに莫大な額の投資が集まっていますが、懐疑的な意見も少なくありません。動きがぎこちなく、使用条件にうるさく、工場環境で利用するにはあまりにも高く付く、といったものです。

中国にも懐疑的な意見はあります。ただ、私の知る限り米国よりも導入に積極的で、特に工場でそれが顕著です。来たるべき高齢化と労働力不足を前に、医療・介護への人型ロボットの応用にも関心が高まっています。

——ディープシークの登場で半導体の話題が再び盛り上がり、最高品質の半導体を誰が手にするか、米国がコントロールすべきだという主張もあります。半導体戦争は、中国の人型ロボット開発にどのように影響するのでしょうか。

現時点では、人型ロボットの訓練に、大規模言語モデルの訓練ほどの計算資源は必要ありません。ロボットに大規模に学習させるための身体運動データが不足しているためです。しかしロボットの性能が向上するにつれ、高性能半導体が必要になるでしょう。そうなれば米国の制裁が阻害要因になるはずです。中国の半導体メーカーも追い付こうとしているますが、まだ道半ばです。

詳しくは、ツァイウェイ記者による記事「中国EV大手、人型ロボットに活路 サプライチェーンが武器に」、「ディープシークだけじゃない中国AIスタートアップ最注目企業4+3社」をお読みいただきたい。


声を失った人々がAIの力で声を取り戻す

運動ニューロン疾患(MND)では、身体の筋肉にシグナルを送るニューロンが徐々に破壊される。発話に必要な筋肉も例外ではない。患者はやがて声を失う。しかし、一部の患者は声を取り戻しつつある。マイアミ在住のジュールズ・ロドリゲスはそのひとりだ。AIモデルがロドリゲスの声を録音音声から学習し、声のクローンを生成したのだ。

クローン音声を生成したイレブンラボ(ElevenLabs)は、わずか30分の録音音声からさまざまなことを実現できる。ほんの数年前と比べ、AI音声クローンの質は劇的に改善しており、このテクノロジーを利用してきた人々の日常生活に大きな恩恵をもたらす可能性がある。「これはまさに、AIのよい使い道の一例です」と、英国の運動ニューロン疾患協会(MND協会)に所属する言語聴覚士のリチャード・ケイヴ博士は語る。詳しくは、本誌のジェシカ・ヘンゼローによる記事をお読みいただきたい。

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ジェームス・オドネル [James O'Donnell]米国版 AI/ハードウェア担当記者
自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。
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