KADOKAWA Technology Review
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ロケット市場に競争の波、
世界のライバルは
スペースXの牙城を崩せるか
SpaceX/Flickr
宇宙 Insider Online限定
Rivals are rising to challenge the dominance of SpaceX

ロケット市場に競争の波、
世界のライバルは
スペースXの牙城を崩せるか

イーロン・マスクのスペースXは、ロケット打ち上げ市場で圧倒的な支配力を持っている。だがここに来て、自前のロケットで同社の牙城に挑むスタートアップ企業や航空宇宙企業が台頭しつつある。 by Ramin Skibba2025.04.07

この記事の3つのポイント
  1. スペースXは米国のロケット打ち上げ市場を独占してきた
  2. ロケット・ラボやブルーオリジン、中国企業などがスペースXに挑戦している
  3. スペースXの競合他社の出現は宇宙へのアクセス改善に役立つ可能性がある
summarized by Claude 3

スペースX(SpaceX)は、ロケット打ち上げの分野で圧倒的存在感を持つ企業だ。わずか20年の間に同社は、かつての航空宇宙大手であるボーイング(Boeing)、ロッキード(Lockheed)、ノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)を追い抜き、米国のロケット打ち上げにおいて、ほぼ独占的な地位を獲得した。スペースニュース(SpaceNews)の分析によると、2024年に米国内で実施された軌道への打ち上げの87%をスペースXが占めた。 2010年代半ば以降、同社は米国航空宇宙局(NASA)の打ち上げ契約を独占し、ペンタゴン(米国防総省)の主要請負業者に納まっている。数多くの人工衛星と民間の有人宇宙飛行を5度打ち上げた実績から、現在では商業顧客の主要な打ち上げプロバイダーにもなっており、今後もさらに多くの打ち上げを予定している。

他の宇宙開発企業も、何年にもわたって競争に奮闘している。しかし信頼性の高いロケットの開発には、時間をかけた地道な作業と莫大な予算が必要だ。現在、少なくともそのうちの数社がスペースXに追いつこうとしている。

多数の企業が、スペースXの主要な打ち上げ機に匹敵するロケットを準備している。このリストに名を連ねるのが、スペースXの主力ロケット「ファルコン(Falcon )9」に、「ニュートロン(Neutron)」ロケットで対抗することを目指すロケット・ラボ(Rocket Lab)だ。ロケット・ラボは、2025年後半に最初の打ち上げをする可能性がある。ジェフ・ベゾスが所有するブルーオリジン(Blue Origin)は、自社ロケットによる最初の宇宙飛行を最近完了しており、それがスペースXの「スターシップ(Starship)」と競り合うようになることを期待している。

こうした競合の中には、ロケットの打ち上げに取りかかったばかりの企業もある。さらに、スペースXのイーロン・マスクがトランプ政権と特に緊密な関係にあり、宇宙産業の監督機関を含む連邦規制当局に味方を持っていることは、競合にとっての異例の逆風になり得るだろう。

しかし、すべてがうまくいけば、スペースXの挑戦者たちは宇宙へのアクセスを改善する助けになる。1社が失敗したとしても、その失敗による停滞を防げる。「市場に参加するプレイヤーの増加は、競争に良い影響をもたらします」と、テキサス大学サンアントニオ校で航空宇宙エンジニアとして勤務するクリス・コムズ博士は言う。「しばらくの間、スペースXと価格で競争することは難しいままだと思います」。しかし、競合他社の存在は、スペースXそのものがより良い企業になり、宇宙へのアクセスを求める人々に幅広い選択肢を提供するのに役立つ可能性がある、とコムズ博士は指摘する。

大きな持ち上げ

スペースXが宇宙産業で地位を固めることができたのには、いくつかの理由がある。2000年代の設立後、同社はロケットの打ち上げに3度連続で失敗し、事業はそのまま失敗に終わるかのように見えた。しかし、マスクによる資金提供と、後にNASAおよび防衛関連の一連の契約を結んだことで、飛躍的に成長した。スペースXは、産業を支えるために2010年代に開発されたNASAの商業宇宙プログラムの主な受益者となっている。

「スペースXは、初期から政府との契約を獲得しています」。コロラド州ブルームフィールドにあるセキュアワールド財団(Secure World Foundation)の宇宙政策専門家、ビクトリア・サムソンは言う。「施しとまでは言いませんが、政府との契約が繰り返し大量に結ばれていなければ、スペースXは存続していなかったでしょう。商業的な顧客もいますが、今日に至るまで、彼らは政府顧客に依存し続けています」。

スペースXはまた、高度な垂直統合を効果的に成し遂げているとサムソンは指摘する。サプライチェーンの大部分を所有し、主要なハードウェア部品すべての設計、構築、試験を社内で実施し、サプライヤーの利用を最小限に抑えている。これにより、ハードウェアを管理できるだけでなく、コストを大幅に削減できる。打ち上げ契約では、価格が最優先事項になる。

同社はまた、有力な競合他社が取らないリスクも進んで受け入れた。「この業界は、非常に長い間、宇宙飛行を非常に正確で完璧でなければならないものと捉えていました。修正の余地はほとんどないと考えていたと思います」とコムズ博士は言う。「スペースXは、他社がやってこなかった方法で進んで複数のリスクを負い、失敗を受け入れてきました。億万長者の支援を受けていれば、そんな選択も容易になります」。

国際的な、そして米国を拠点とする競合他社の出現を最終的に可能にしているのは、一部の投資家からの潤沢な資金に加えて、打ち上げサービスを求める顧客基盤の成長である。

競合企業の数社は、スペースXのファルコン9に狙いを定めている。ファルコン9は20トンもの重量を軌道に運ぶことができ、複数の人工衛星や乗組員を乗せた「ドラ …

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