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筆頭著者はAI、査読、発表も——異色の学会、主催者に聞く
Stephanie Arnett/MIT TEchnology Review | Adobe Stock, Pexels, Envato
Meet the researcher hosting a scientific conference by and for AI

筆頭著者はAI、査読、発表も——異色の学会、主催者に聞く

AIが研究・執筆・査読のすべてを担う異色の学会が10月に開催される。物理学から医学までを1日で網羅し、AIが筆頭著者の論文をAI査読者が評価、テキスト音声変換で発表するという。主催者に狙いを聞いた。 by Peter Hall2025.08.26

この記事の3つのポイント
  1. スタンフォード大学のゾウ准教授が10月にAI主導の学会を開催する
  2. AIが研究から査読まで全てを担当し人間は助言役に留まる予定だ
  3. 批判的意見もあるが科学分野でのAI活用の可能性を検証する実験である
summarized by Claude 3

今年10月、他に類を見ない新しい学会が開催される予定だ。「エージェント・フォー・サイエンス(Agents4Science)」は、物理学から医学に至るまで、科学のあらゆる分野を1日で網羅するオンライン・イベントである。発表される成果のすべては、主に人工知能(AI)によって研究、執筆、査読され、テキスト音声変換技術を用いて発表される。

この学会は、スタンフォード大学のコンピューター科学者であるジェームズ・ゾウ准教授の発案によるものだ。ゾウ准教授は、人間とAIがどのように最も効果的に協働できるかを研究している。AIはすでに、物理的な合成が困難なタンパク質の構造を予測するディープマインド(DeepMind)の「AlphaFold(アルファフォールド)」など、科学者にとって有用なツールを多数提供してきた。しかし近年では、AIが科学者とほぼ同等の自律的作業をこなせるとの考えが注目されている。大規模言語モデル(LLM)や推論(reasoning)機能を備えたAIの進展により、AIは仮説の提案、シミュレーションの実行、さらには実験設計を単独で実行することが可能になりつつある。

James Zou
ジェームズ・ゾウ准教授のAgents4Scienceでは、AI研究者の成果発表に、テキスト音声変換技術を活用する。

このような構想には批判的な声もある。AIには研究に不可欠な創造的思考力が欠けており、誤りや幻覚が多く、若手研究者の機会を奪う可能性すらある、という懸念だ。

それでも、多くの科学者や政策立案者は、AI科学者の可能性に強い期待を寄せている。米国政府のAI行動計画では、「さまざまな科学分野のために自動化されたクラウド対応ラボへの投資」が必要であると述べられている。一部の研究者は、人間だけでは到達できない科学的発見を、AI科学者が実現できると信じている。ゾウ准教授にとって、その可能性は明白だ。「AIエージェントは時間に制約されません。彼らは本当に、24時間365日、会議も共同作業も可能なのです」。

先月、ゾウ准教授は自らの自律型AI研究チームによる成果をネイチャー誌に発表した。この成功を受けて彼は、他のAI科学者たち(つまりAIである研究者)がどのような成果を上げられるかを確かめたいと考えている。エージェント・フォー・サイエンスにおける優れた論文とはどのようなものか。ゾウ准教授は次のように語る。「AIが筆頭著者であり、作業の大部分を担うべきです。人間は助言役となるべきでしょう」。

AIが配置されたバーチャルラボ

2010年代初頭、ゾウ准教授はハーバード大学の博士課程に在籍していた。科学におけるAIの将来性に強い関心を抱いた彼は、計算科学の研究を1年間中断し、ゲノミクスのラボで働くことを決めた。この分野は、全ゲノムのマッピングにおいて技術の恩恵を大きく受けている。いわゆるウェットラボでの経験は、異分野の専門家と協力して研究することの難しさをゾウ准教授に教えた。「彼らとはしばしば、使う言葉がまったく違うのです」。

ゾウ准教授は、大規模言語モデルは専門分野ごとの専門用語を解読・翻訳する能力において人間よりも優れていると考えている。「彼らには非常に広範な知識があるのです」。そのため、科学の異なる分野の意見を翻訳し、一般化する能力に長けている。この発想こそが、彼が「バーチャル・ラボ」と名付けた構想を思い描くきっかけとなった。

大まかに言えば、この「バーチャル・ラボ」とは、大学に存在する実際の研究グループを模して設計されたAIエージェントのチームである。それぞれが異なる専門分野を持ち、AlphaFoldのようなさまざまなプログラムと連携できる。研究者は、単一または複数のエージェントに議題を与え、モデルを開いてエージェント間のやり取りを確認し、現実の実験でどの方向に進むべきかを判断することができる。

ゾウ准教授は、この構想を実行に移して実際の研究問題に取り組むために、(人間の)協力者を必要としていた。 そして昨年、チャン・ザッカーバーグ・バイオハブ(Chan Zuckerberg Biohub)で研究科学者を務めるジョン・E・パクに出会った。AIを科学に活かしたいと考えていたパクは、共通の興味を持つゾウと共にバーチャル・ラボを作ることに同意した。

パクは研究テーマの設定に協力する予定だったが、彼自身もゾウ准教授と同様に、バーチャル・ラボが独自に生み出すアプローチに強い関心を抱いていた。彼らが最初のプロジェクトとして選んだのは、新たな新型コロナウイルス株に対する治療法の設計である。この目標をもとに、ゾウ准教授は5つのAI科学者(中には免疫学者の役割を与えられたものや、計算生物学者、主任研究者の役割を担うものもいた)をそれぞれ異なる目的とプログラムで訓練し始めた。

これらのモデルの構築には数か月を要したが、いったんセットアップが完了すると、治療候補の設計にはさほど時間がかからなかったとパクは語る。「1日か、半日くらいだったと思います」。

ゾウ准教授によると、抗コロナナノボディを研究対象として選んだのはエージェントたちだった。ナノボディは抗体に似た分子で、はるかに小さく、自然界ではまれにしか存在しない。だがゾウが驚いたのは、その選択の理由だった。エージェントは、限られた計算リソースに対してより小さな分子の方が適していると判断したうえでナノボディを選択したのだという。「エージェントはナノボディを効率的に設計することができました。ですから、それは実際に良い判断でした」。

研究によると、エージェントが設計したナノボディは、科学における真の進歩であり、その大半が元の新型コロナウイルス変異株に結合できることが確認された。しかし、パクとゾウ准教授の両者は、自分たちの論文における最大の貢献は、この「バーチャル・ラボ」というツールそのものであると認めている。ペンシルベニア大学の薬理学者イー・シー准教授もこれに同意する。彼女はこの研究には関与していないが、バーチャル・ラボが改変した一部の基礎ナノボディを作成した人物である。彼女はこのデモンストレーションを高く評価し、「最大の新規性は自動化そのものです」と述べている。

ネイチャー誌はこの論文を受理し、速報版としてオンライン掲載した。ゾウ准教授は、AIエージェントを科学に活用することが注目を浴びていると認識しており、その試みに最初に取り組む一人になりたかったのだ。

AI科学者が学会を主催

論文を提出する際、ゾウ准教授はAIの研究への貢献に適切なクレジットを与えられないことに落胆した。多くの学会や学術誌では、AIを論文の共著者として記載することが認められていない。さらに、AIを使って論文や査読を執筆すること自体を明示的に禁止している場合もある。たとえばネイチャー誌は、説明責任、著作権、誤りの不確実性などを理由にそのような使用を禁止している。「それは窮屈な状況です」とゾウ准教授は語る。「こうしたポリシーは、研究者に対してAIの使用を隠したり、最小限にとどめたりするよう促しているのが実情です」。

ゾウ准教授はこの状況を変えるべく、「エージェント・フォー・サイエンス」を立ち上げた。この学会では、すべての投稿においてAIが筆頭著者であることが求められる。投稿された研究は他のAIエージェントによって査読され、科学的妥当性が評価される。ただし、人間が完全に関与しないわけではない。ノーベル経済学賞受賞者を含む専門家チームが、上位の論文を最終的に審査することになっている。

この学会がどのような成果を生むかについて、ゾウ准教授自身も確信は持っていない。しかし、あらゆる分野から集まるであろう何百件もの応募の中には、きらりと光る発見があることを期待している。「AIによる応募の中に、興味深い発見があるかもしれません」と彼は語る。「同時に、興味深い間違いに満ちた応募もあるかもしれません」。

ゾウ准教授によれば、この学会に対しては概ね好意的な反応が寄せられているというが、中には冷ややかな反応を示す科学者もいる。

「洞察を飛躍させるには?」
リサ・メッセリ (イェール大学准教授)

イェール大学で科学人類学を研究するリサ・メッセリ准教授は、AIが科学を査読できる能力について多くの疑問を抱いている。「どのようにして、洞察を飛躍させるのでしょうか。もし査読者のデスクに洞察の飛躍が舞い込んできたら、どう対処するのですか?」。彼女は、この学会でその疑問に対する納得のいく答えが得られるとは考えていない。

昨年、メッセリ准教授と共同研究者のモリー・クロケット准教授は、科学へのAI活用における障害について、ネイチャー誌の別の記事で論じた。彼女たちは、ゾウ准教授のナノボディ論文で示された結果を含め、AIが本当に革新的な成果を生み出せるのかについては依然として懐疑的である。

「私はコンピューター科学者ではありませんが、計算的手法を用いた研究をしているので、この種のツールの対象とされる科学者に該当すると思います」。プリンストン大学の認知科学者であるクロケット准教授は語る。「ですが、AI科学者が人間の思考のいくつかの側面をシミュレートできるという幅広い主張には、非常に懐疑的です」。

さらに2人は、もし自動化によって人間の科学者がボットを管理するために必要な専門知識を身につける機会が奪われるのであれば、科学におけるAI活用の意義そのものにも疑問があると述べている。彼女たちは、AIを科学の実行や査読に活用する前に、より幅広い分野の専門家を巻き込み、実験設計を熟慮することを提唱している。

「私たちは、認識論者、科学哲学者、科学人類学者、そして知識とは何かを真剣に考えている学者たちと対話する必要があります」(クロケット准教授)。

しかしゾウ准教授は、エージェント・フォー・サイエンスこそが、この分野を前進させるために有効な「実験」だと考えている。「AIが生み出す科学に関しては、誇大な宣伝や逸話はたくさんありますが、体系的なデータは存在しません」と彼は指摘する。エージェント・フォー・サイエンスがそのようなデータを提供できるかどうかはまだ不明だ。しかし、10月が来れば、少なくともAIエージェントたちは、自らの実力を世界に示そうとするだろう。

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MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

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