KADOKAWA Technology Review
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A Top Poker-Playing Algorithm Is Cleaning Up in China

ポーカーで磨かれる中国のAI技術

飛躍的に水準が高まっているとされる中国のAI技術で、ポーカー用のアルゴリズムが人気だ。不完全情報ゲームであるポーカーをプレイできれば、交渉や株取引も応用できる。 by Will Knight2017.04.13

Kai-Fu Lee of Sinovation Ventures and Tuomas Sandholm of CMU at the poker tournament in southern China.
シノベーション・ベンチャーズのリー・カイフー(李開復)とカーネギーメロン大学(CMU)のトゥオマス・サンドホルム(中国南部で開催されたポーカーのトーナメントで)

世界でもっとも進化したポーカー・ボットが、先週末、中国南部にある海南省で開かれたトーナメントで参加者をことごとく打ち負かした。

このボットの前のバージョンは、今年1月、ピッツバーグのカジノで数週間にわたって開かれたトーナメントで、トップレベルのプロ・プレイヤーを何人も破っていた。ボットの名は「リブレイタス」。開発したのは機械学習とゲーム理論を専門とするカーネギーメロン大学のテュオマス・サンドホルム教授と、その教え子 ノーム・ブラウンだ。

この功績が注目に値するのは、ポーカーがこれまでAI研究者が取り組んできたタイプのゲームと本質的に異なっているからだ。対戦相手のカードが見えないので、上手くプレイするには非常に複雑な戦略を構築する必要がある(「人工知能がポーカーのハッタリ勝負で人間に勝利する意味とは?」参照)。

「冷撲大師(冷たいポーカー名人)」と名付けられたCMUの新型改良版ボットは、海南省のイベントでAI研究者のチームに勝利した。参加者はプログラムに対して3万6000手のゲームをプレイした(プログラムはピッツバーグのCMUの近くに設置されたスーパーコンピューター上で動作していた)。

イベントを企画したのは、インキュベーター・ベンチャーファームのシノベーション・ベンチャーズだ。シノベーション・ベンチャーズの李開復(リー・カイフー)最高経営責任者(CEO)は、人工知能に対する一般の関心を惹くだけではなく、人工知能を支えるテクノロジーを商業化する方法を探るのが目的だったという。

「リブレイタスやAlphaGoが、知性の面でどれほど人類の期待を上回っているかを示し、人々の目を覚まさせたいのです」と李CEOはいう。

李CEOによると、まだ比較的高度化されていないシステムを運用している中国企業がAI技術を取り入れるチャンスは大いにあるという。さらに優れた技能を持つエンジニアが多く、発展したアルゴリズムを訓練するためのデータも豊富なため、中国が今後AIの分野をリードしてゆく可能性も十分にあると李CEOはいう。

A player takes on Lengpudashi at the event in Hainan.
冷撲大師 と対戦するプレイヤー(海南省のイベントで)

李CEOはまた、CMUでポーカーをプレイするプログラムの開発に利用されたゲーム理論の技術は、株取引や交渉の自動化といった分野に応用できる大きな可能性を秘めていると考えている。

「ポーカーは不完全な情報を活用するゲームで、現実世界のほとんどの活動と同じです」と李CEOはいう。「機械が高い知能を持った人間を打ち負かせる事実が明らかになったことで、さまざまな応用の可能性が見えています」

ポーカーをプレイする高度なアルゴリズムは、ゲームでAIが人間と対等に渡り合えることを示すほんの一例にすぎない。ちょうどCMUのポーカー・ボットがピッツバーグで勝利を収めていた頃、カナダとチェコの研究者で構成される別の研究チームもポーカーをプレイするアルゴリズムを開発し、やはり何人かのプロ・プレイヤーを破っていた。昨年、英国を拠点とするアルファベット(グーグル)の子会社ディープマインドの研究者は、熟練者レベルで囲碁を打てるプログラムを開発した 。AlphaGoと名付けられたこのプログラムは、その後の対戦の中で、世界で最も優れた囲碁棋士のひとりである韓国の李 世乭(リ・セドル)に勝利している

海南省でのポーカーの大会は、中国へと進出を続けるAI技術の最新の例だ。つい先日もディープマインドが、上海からほど近い烏鎮で開催された中国の名人級の囲碁棋士のサミットにAlphaGoを持ち込むと発表した。このイベントでは人間の棋士とAlphaGoをペアリングし、協力対戦の可能性を試すことも予定されている。AlphaGoはまた、世界ナンバーワンの囲碁棋士である中国の柯潔との対戦も予定している。

一方、中国を拠点とするAI研究者も、米国の大手テック企業に追いつくための一歩を踏み出しつつある。

中国の大手インターネット企業アリババの研究者は先日、人気ストラテジーゲーム『スタークラフト(StarCraft)』をプレイする人工知能のアルゴリズムの詳細を公開した。英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者の協力のもと、アリババの研究者は、連携して動作する複数のエージェントが、どうのように驚くほど複雑でハイレベルな振舞いを実現するかを示した。

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クレジット Images courtesy of Sinovation Ventures 创新工场
ウィル ナイト [Will Knight]米国版 AI担当上級編集者
MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。
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