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データ収集、遠隔操作…「物理的AI」を支える見えない労働力
Photo illustration by Sarah Rogers/MITTR | Photos Getty
The human work behind humanoid robots is being hidden

データ収集、遠隔操作…「物理的AI」を支える見えない労働力

ロボット訓練のために外骨格を着けて同じ動作を何百回も繰り返す作業員。行き詰まったヒューマノイドを本社から遠隔操縦するオペレーター。「物理的AI時代」を支えているのは、私たちの言葉がLLMの訓練データになったのと同じ構造の、見えない人間の労働力だ。 by James O'Donnell2026.02.26

この記事の3つのポイント
  1. エヌビディアCEOが宣言した「物理的AI時代」では、ヒューマノイドが人間の動作を学習・模倣する新しい自動化が進展
  2. ロボット訓練のため作業員がVRヘッドセットを装着し反復作業をしたり、遠隔操作者がロボットを操縦する隠れた人間労働が拡大
  3. 人間の労働力への依存が不透明なままだと、機械の実際の能力を過大評価し、テスラ事故のような深刻な誤解を招くリスクも
summarized by Claude 3

2026年1月、世界で最も価値の高い企業の責任者であるエヌビディア(NVIDIA)のジェンセン・ファンCEO(最高経営責任者)は、私たちが物理的AIの時代に入りつつあると宣言した。人工知能(AI)が言語やチャットボットを超えて、物理的に能力のある機械へと移行する時代である(ちなみに、ファンCEOは前年にも同じことを言っていた)。

ファンCEOの言っていることは、皿を片付けたり自動車を組み立てたりする人型ロボット(ヒューマノイド)の新たな実演によって後押しされている。単一目的のロボットアームで人間の手足を模倣するのは古い自動化の方法だということだ。新しい自動化は、人間が働きながら考え、学習し、適応する方法を複製することである。問題は、そうしたロボットの訓練と運用に関わる人間の労働についての透明性が欠如していることだ。そのため、一般の人々は、ロボットが実際に何ができるかを誤解し、その周辺で形成されている奇妙で新しい形の労働を見落としている。

AI時代において、ロボットがしばしば雑用のやり方を、実演する人間から学習する方法を考えてみよう。学習に用いるデータを大規模に作成することは、今や『ブラック・ミラー(日本版注:新技術がもたらす暗黒面を描いた英国のテレビドラマシリーズ)』のようなシナリオを生み出している。例えばレスト・オブ・ワールド(Rest of World)が報じたところによると、上海の作業員は最近、VR(実質現実)ヘッドセットと外骨格を装着して、隣にいるロボットを訓練するために1日に何百回もマイクロ波オーブンのドアを開け閉めする作業を1週間続けた。北米では、ロボティクス企業のフィギュア(Figure)が同様のことを計画しているようだ。同社は2025年9月に、10万戸の住宅ユニットを管理する投資会社ブルックフィールド(Brookfield)と提携し、「さまざまな家庭環境で」「大量の」現実世界のデータを収集すると発表した(フィギュアはこの取り組みに関する質問に回答しなかった)。

私たちの言葉が大規模言語モデル(LLM)の訓練データになったように、私たちの動きも今や同じ道をたどろうとしている。ただし、この未来は人間にとってさらに悪い取引を残すかもしれず、それはすでに始まっている。ロボット工学者のアーロン・プラザーは、配送会社との最近の仕事について私に語った。その会社では、箱を移動する作業員に動作追跡センサーを装着させ、収集されたデータをロボットの訓練に使おうとしている。ヒューマノイドを構築する取り組みでは、おそらく肉体労働者が大規模なデータ収集者として行動することが必要になるだろう。「奇妙なことになるでしょう。間違いありません」とプラザーは言う。

あるいは遠隔操作を考えてみよう。ロボティクスの最終目標は単独でタスクを完了できる機械だが、ロボティクス企業は人々を雇ってロボットを遠隔操作させている。スタートアップ企業である1Xの2万ドルのヒューマノイドロボット「Neo(ネオ)」は今年家庭に出荷される予定だが、同社の創業者ベルント・オイヴィン・ボルニッチは最近、規定された自律性レベルにはコミットしていないと私に語った。ロボットが行き詰まったり、顧客が難しいタスクを要求したりした場合、カリフォルニア州パロアルトの本社から遠隔操作者がロボットを操縦し、そのカメラを通して衣服にアイロンをかけたり食器洗い機から食器を取り出したりする。

これは本質的に有害ではない。1Xは遠隔操作モードに切り替える前に顧客の同意を得ている。しかし、遠隔操作者がロボットを通してあなたの家で雑用をしている世界では、私たちが知っているプライバシーは存在しないだろう。家庭用ヒューマノイドが真に自律的でないなら、この取り決めはギグワーク力学の再現であり、物理的タスクを労働力が最も安い場所で実行することを初めて可能にした賃金裁定の一形態と見なした方が良い。

私たちは以前にも似たような道を歩んできた。ソーシャルメディア・プラットフォームで「AI主導の」コンテンツ・モデレーションしたり、AI企業の訓練データを構築したりするためには、しばしば低賃金国の労働者が不快なコンテンツを見る必要がある。そしてAIがまもなく自身の出力で訓練し、独力で学習するという主張にもかかわらず、最良のモデルでさえ望ましく機能するためには非常に多くの人間のフィードバックを必要とする。

こうした人間の労働力が必要だからと言って、AIが単なる幻想だというわけではない。しかし、人間の労働力が見えないままでいると、一般の人々は機械の実際の能力を一貫して過大評価する。

それは投資家と誇大宣伝には素晴らしいことだが、すべての人に影響を与える。例えば、テスラ(Tesla)が運転支援ソフトウェアを「Autopilot(オートパイロット)」として販売した際、システムが安全に実行できることについて一般の期待は膨らんだ。マイアミの陪審団が最近になって認定したところによると、この歪曲が22歳の女性が死亡した事故の一因となった(テスラは2億4000万ドルの損害賠償を命じられた)。

ヒューマノイドについても同じことが言えるだろう。もしファンCEOの言うことが正しくて、物理的AIが私たちの職場、家庭、公共空間にやってくるなら、そうした技術を説明し精査する方法が重要である。しかし、ロボティクス企業は、AI企業が訓練データについて不透明であるのと同様に、訓練と遠隔操作について不透明なままである。それが変わらなければ、隠された人間の労働を機械知能と間違えて、実際よりもはるかに多くの自律性があると思ってしまうリスクがある。

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自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。
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