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人間の限界を押し広げる「ドーピングOK」のスポーツ競技会が開催
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Adobe Stock
The Enhanced Games fit right in with the rest of 2026’s longevity vibes

人間の限界を押し広げる「ドーピングOK」のスポーツ競技会が開催

パフォーマンスを向上させる薬物の使用を認めるスポーツ競技大会「エンハンスト・ゲームズ」が開催され、水泳の世界記録が「更新」された。私たちは今、あらゆる手を使って人間の能力を拡大することを是とする世界に生きている。 by Jessica Hamzelou2026.05.27

この記事の3つのポイント
  1. エンハンスト・ゲームズはFDA承認薬の使用を公認し、人間のパフォーマンス限界の拡張を標榜する異色の競技会だ
  2. 同化ステロイドや成長ホルモン等はFDA承認薬であっても重大な健康リスクを伴い、主要スポーツ団体は参加者を排除している
  3. バイオハッキングや長寿最適化が時代精神となった今、この大会は人間性の拡張を当然視する社会潮流の象徴として映る
summarized by Claude 3

5月24日(日)、42人のアスリートが米ラスベガスに集まり、やや異色のスポーツ競技会が開催された。第1回エンハンスト・ゲームズ(Enhanced Games)という大会だ。この大会の参加者は、パフォーマンス向上薬の使用を奨励されている。その目標は「人間のパフォーマンスの限界を押し広げること」だ。

大会の主催者は、競技者が使用するのは米国食品医薬品局(FDA)が承認した物質のみであり、全員が医療的な監視と管理のもとに置かれていると説明している。しかし同時に、世界記録が破られることを期待しており、それを達成したアスリートには多額の賞金を提供するとも述べている。

予想通り、このイベントはさまざまな方面から好奇心、興奮、そして非難が入り混じった反応を呼んでいる。私には、これが現代という時代を如実に映し出しているように感じられる。ペプチドに熱狂した「ルックスマキシング(超外見至上主義)」の時代において、消費者はかつてないほど痩せることを、長寿のための最適化を、そして「最高の赤ちゃん」を持つことを促されている。2026年、エンハンスメント(能力向上)をしていないとしたら、いったい何をしているというのか。

さて、この競技会について説明しよう。競技は水泳、陸上競技、重量挙げ、ストロングマン(こちらも重量物を扱う)の4部門で開催される。出場者の多くはすでに国内記録や世界記録を保持しており、オリンピックのメダリストも含まれている。彼らには出場料が支払われており、2500万ドルの賞金プールをかけて競い合う。少なくとも一部のアスリートにとって、この賞金は大きな魅力となっている。

もう一つの魅力は、パフォーマンス向上に役立つ可能性のある薬物を公然と試せる機会だ。エリートスポーツの世界では、コンマ1秒、1ミリメートルの差が勝負を分ける。アスリートたちはその多くがすでに遺伝的な優位性を持っていると言えるが、緻密な食事・トレーニング・回復プロトコルに従い、最高のパフォーマンスを追求するために特別設計の用具を身に着けている。

しかし、ほとんどのスポーツコミュニティには限界がある。スポーツにおける薬物使用と戦う国際機関、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)は、国際競技大会で禁止されている「未承認物質」の長大なリストを保持している。そこには、筋肉増強作用を持つ同化ステロイド、テストステロン産生を促進したり、血液の酸素運搬能力を高めるホルモン、筋肉の成長・修復などを促進する成長因子などが多く含まれている。

これらの物質の中には、健康障害の治療薬としてFDAに承認されているものもある。そのため、エンハンスト・ゲームズの規則に従えば、参加者がそれらを使用することは認められている。

ここで明白なことを簡単に指摘しておきたい。FDAに承認された薬物だからといって、すべての人にとって完全に安全というわけではない。たとえば同化ステロイドの使用に伴うリスクには、高血圧、にきび、うつ病、肝臓腫瘍などが含まれる。成長ホルモンの使用は筋力低下や視力障害を引き起こし、糖尿病につながることさえある。

「技術的ドーピング」、すなわち優れた用具を使って優位性を得ることも、大会主催者によって支持されている。2025年には、参加選手のクリスチャン・ゴロメエブがポリウレタン製の「スーパー」水着を着用して50メートル自由形のタイムトライアルで記録を破ったと報じられた。このような水着は、2008年から2009年にかけて相次いだ記録破りのパフォーマンスを受け、オリンピックでは使用が禁止されている。当時、水泳の統括団体はこれがアスリートに不公平な優位性をもたらすと裁定した。しかしここはエンハンスト・ゲームズであり、「不公平」という言葉がまったく異なる意味を持つ場所だ。

この競技会でさらなる記録更新が期待できるだろうか(日本版注:競泳のクリスチャン・ゴロメエブが男子50メートル自由形の世界記録を「更新」した)。あるいはそうかもしれない。種目優勝の賞金に加え、記録を破ったアスリートには最大100万ドルが授与される。これは2025年のタイムトライアルでゴロメエフに贈られた金額と同額だ。ただし、そのパフォーマンスは公式スポーツ団体には認定されない。

このゲームをめぐっては多くの懸念が示されている。安全性に問題があり、危険な薬物使用を助長するという批判もある。また、禁止薬物を使わずに懸命に練習する「クリーン」なアスリートへの侮辱であり、「クラウンショー」に過ぎないという見方もある。世界陸上競技連盟のセバスチャン・コー会長は、参加者は「愚か者だ」と発言し、水上スポーツの国際競技を統括するワールド・アクアティクス(World Aquatics)はエンハンスト・ゲームズの参加者を自団体のイベントや活動から締め出している

しかし、このゲームと参加アスリートは依然として多大な注目を集めるだろう。その結果、パフォーマンス向上薬もまた注目を浴びることになる。大会を主催する企業であるエンハンスト(Enhanced)はオンラインストアも運営している。そこでは「I am Enhanced(私はエンハンストだ)」というメッセージが刻まれた52ドルのTシャツを購入できる。

また、「回復、活力、長寿をサポートする」ペプチドを含む処方薬も販売されている。その一つは、1997年に「成長不全」の小児の治療薬としてFDAが承認した成長ホルモンだ。エンハンストのWebサイトで販売されているコンパウンド製剤はFDA未承認であり、長寿促進、深い睡眠のサポート、「全体的な健康と活力」を目的として販売されている(ここで重要なのは「販売されている」という点だ。この薬は繰り返すが、そのような目的では承認されていない)。

これはすべて、現代の時代精神と非常によく合致している。確かに、人間の寿命を延ばすことを目的とした薬はまだ存在しない。しかし、抗老化薬の探求はかつてないほど注目と資金を集めている。人々、特に女性は、もはや目に見える形で老いることを許されていないかのようだ。そのためにフィルターフェイスリフトがある。「死は悪いものだ」という考え方が受け入れられつつある。

そして自己実験が横行している。「バイオハッキング」は2025年のコリンズ辞典の「今年の言葉」の候補に挙がった。安全性と有効性をめぐる多くの未解明な点があるにもかかわらず、ペプチドはいたるところに存在する。大半が未実証の治療法を販売しているにもかかわらず、長寿クリニックも同様だ。モンタナ州など米国の各州は、未承認の「療法」を入手しやすくする方向に動いている。

企業は子どもを望む親候補に対し、最も長生きすると予測される将来の子どもを選ぶ選択肢まで提供している。そう、今や受精卵を最適化することさえできるとされているのだ。

このような状況において、エンハンスト・ゲームズはそれほど過激には感じられない。リスクを顧みない疑わしい最適化の時代、いわば、人間であることがもはや十分ではないとされる時代に完全にふさわしいものとして映るのだ。

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生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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