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未来の職種:野生生物向けの薬を開発する「自然界の新薬設計者」
Nhung Le
Job titles of the future: Nature's drug designer

未来の職種:野生生物向けの薬を開発する「自然界の新薬設計者」

化学者のティム・チェルナクは、大手製薬会社での20年にわたる経験とAIを活用して、アメリカドクトカゲやアカウミガメといった自然界のさまざまな生き物向けに専用の治療薬の創薬デザインをしている。 by Anna Gibbs2026.06.13

この記事の3つのポイント
  1. 製薬大手出身の化学者が野生動物・植物向け精密医療を開発する「保全化学」という新分野を切り開いている
  2. AIによるタンパク質構造解析やロボットスクリーニングを活用し、種ごとに最適化した薬剤開発を実現しつつある
  3. DDTや牛用鎮痛剤の歴史的失敗を踏まえつつ、最先端の創薬技術を生態系保全に応用しない現状を問題視している
summarized by Claude 3

2018年、大手製薬会社で約20年間働いてきた化学者のティム・チェルナックは、自らのスキルを新たな用途に活かすために動き始めた。

メルク(Merck)に勤務していたチェルナックは、正常細胞へのダメージを最小限に抑えながら疾患を標的にできる、がん・HIV・糖尿病に対する適確医療(Precision Medicine=精密医療とも呼ばれる)薬を開発してきた。しかし、生涯を通じて自然を愛してきた彼は、生態系の健全性にますます懸念を抱くようになり、自分の専門知識を転用できないかと考え始めた。動物はしばしば人間向けに処方された医薬品で治療されており、それらは旧来のがん治療薬と同様の影響を与えることを彼は知った。異常細胞を死滅させることを目的としているにもかかわらず、引き起こす害は無差別なのだ。例えば、致死性の皮膚感染症に罹患したカエルの標準治療薬はイトラコナゾールという抗真菌薬だが、これは両生類にとってしばしば致命的となる。

チェルナックが思い描くのは、「最初から最後まで、患者は最初からカエルであることを前提とした」世界だ。現在ミシガン大学の准教授を務める彼は、寄生虫に感染したアメリカドクトカゲから鳥インフルエンザに罹患したハクトウワシまで、あらゆる種類の生き物を対象に研究を進めている。自然界の患者を治療するために必要なものを以下に紹介する。

タンパク質モデリングソフトウェアの活用経験

どのような種類の薬を開発するにしても、莫大なコストがかかり、失敗しやすく、時間もかかる。しかし人工知能(AI)は創薬ワークフロー全体を加速できると、チェルナックは言う。グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)の「AlphaFold(アルファフォールド)」を使えば、従来の手法であるプレート上での培養ではなく、変異タンパク質の三次元構造をスクリーン上で可視化し、その構造に結合しうる新薬候補をすばやく生成できる。次のステップは一連の反応を実行し、どの薬候補が有効かを確かめることだ。ラボのロボットの助けを借りれば、1日に最大1500件ものスクリーニングを高速でこなすことができる。

あらゆる大きさの生き物への好奇心

チェルナックは患者を選り好みしない。例えば、アカウミガメが伝染性の腫瘍に苦しんでいることを知って衝撃を受け、その治療薬の開発に取り組んだ。彼が特に惹かれるのは、人間の役に立ってきた生き物たちだ。アメリカドクトカゲはその一例で、そのホルモンはOzempic(オゼンピック)のような人気の減量薬の開発に貢献してきた。対象は動物だけにとどまらない。侵略的外来種に侵食されているヘムロックの木を治療するための精密殺虫剤の開発も進めている。

開拓者精神

チェルナックはこの新しい学問分野を「保全化学(conservation chemistry)」と呼んでいる。この言葉の組み合わせには重い歴史がある。1960年代にはDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン、かつて使われていた殺虫剤)が米国のハクトウワシの個体数を激減させ、90年代には牛用鎮痛剤がインドのハゲワシ数百万羽を死滅させた。彼はそのリスクを認識しつつも、化学者を自然保護の分野から排除することは機会の損失だと感じている。

「保全の現場で使われている化学的ツールを見ていると、本当にうんざりします。最先端とは程遠いのです」とチェルナックは言う。「人間の薬を作るための超ハイテクなエンジンがあるのに、私たちは大量絶滅の時代を生きているというのは、どういうことでしょうか」。

 

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アナ・ギブス [Anna Gibbs]米国版 寄稿者
ニューヨークを拠点とするフリーランスの科学ジャーナリスト。
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