カナダの水力でNYを動かす、60億ドルの送電線が抱える2つの弱点
5月に開通したシャンプレーン・ハドソン・パワー・エクスプレス(CHPE)は、ケベック州の水力発電でニューヨーク市の電力需要の最大20%を賄える、北米最長の地中送電線だ。総工費は60億ドル。だが滑り出しは順調とは言えず、7月はほとんどの期間停止していた。さらに、電源であるケベックの干ばつという不安も残る。 by Casey Crownhart2026.07.27
- この記事の3つのポイント
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- 北米最長の地中送電線CHPEが5月に開通し、NYCの電力需要の最大20%をカナダ水力で賄う見込み
- 開通直後から2度の停止が発生しており、ケーブル損傷が原因と特定され修理が進む
- 干ばつによる水力発電量の不安定化と立ち上げ期の信頼性確保が長期的な課題として残る
7月3日、熱波が地域を襲う中、米ニューヨーク州の送電網はカナダから52ギガワット時の電力を輸入した。これはその日の同州の総電力需要の約9%を賄うのに十分な量だ。
その電力の一部は、カナダのケベック州からニューヨーク市クイーンズ区まで延びる全長546キロメートルの送電線「シャンプレーン・ハドソン・パワー・エクスプレス(Champlain Hudson Power Express:CHPE)」を通じて運ばれた。同線は5月に開通し、北米最長の地中送電線として正式に認定されている。
地中送電線と聞いてもあまりピンとこないかもしれないが、CHPEはニューヨーク州の送電網計画と排出量削減にとって大きな意味を持つ可能性がある。ケベック州の豊富な水力発電を主な電源として、ニューヨーク市の電力需要の最大20%を供給できる見込みだ。
ただし、懸念点もある。7月はほとんどの期間、この送電線が停止しており、干ばつが電力供給に与える影響を心配する専門家もいる。CHPEがどのように送電網の将来を形作る可能性があるのか、そして実効性を発揮するために乗り越えるべき障壁は何かを見ていこう。
「チッピー」という愛称で呼ばれるCHPEの計画は15年前に始まり、許認可プロセスは2010年3月に正式に開始された。その展望は、ケベック州とニューヨーク南部をより良く結ぶインフラを構築するというものであった。
ケベック州の電力の99%超は再生可能エネルギーから得られている。需要の大部分は水力発電で賄われているが、風力発電容量も急速に拡大している。ニューヨーク州にも独自の水力発電や原子力・風力発電があるものの、依然として発電量の大半を化石燃料に依存している。
CHPEを建設したのは、オルタナティブ資産運用会社ブラックストーン(Blackstone)傘下のトランスミッション・ディベロッパーズ(Transmission Developers)と、同州の発電・送電を管理するイドロ・ケベック(Hydro-Québec)だ。建設は2022年末に始まり、2026年に入ってから完了した。民間資金によるこのプロジェクトの総費用は60億ドルに上った。
この送電線の建設は一大事業だった。直径約13センチメートルの高圧直流ケーブル2本を束ねた構造で、ニューヨーク州全域にわたって地中または水中に埋設されている。送電線の大部分はハドソン川の川底に敷設されており、水流を堆積物の深部に噴射してケーブル用の溝を掘る特殊な船が使用された。
送電網同士を接続することは、化石燃料からの脱却を加速させる助けになる。電力を必要な場所へ送る能力は、新たに建設が必要な発電容量を抑制することにもつながる。研究によれば、系統連系は二酸化炭素排出量の削減やシステムコストの低減に貢献できることが示されている。
しかしCHPEの滑り出しは順調とは言えず、これまでに2度の停止が発生している。1度目は7月1日で、カナダ側の変換器で安全装置が働き、回路が遮断されたことが原因とされている。2度目の停止は7月4日に始まり、7月22日朝時点でも送電線は停止したままだ。
新しいインフラプロジェクトとしては珍しいことではないと語る専門家もいる。モントリオール大学の物理学教授であるノルマン・ムソーは、他の送電線でも同様の立ち上げ時の課題が見られており、機器は実際に稼働するまで完全にテストされているわけではないとモントリオール・ガゼット紙に語った。
業界専門誌のRTOインサイダー(RTO Insider)の報道によると、当局は問題の原因を米国側の損傷したケーブル区間と特定し、送電線を製造した企業が原因究明のために専門家を派遣したという。
イドロ・ケベックの広報担当リン・サン=ローランによると、損傷したケーブル部分はすでに取り除いて、交換したという。「修理後の必要な試験を含む残りの作業は、今週末までに完了する見込みです」と述べている。
同様の問題は、1月に開通したケベック州からメイン州まで233キロメートルにわたる「ニューイングランド・クリーン・エナジー・コネクト(New England Clean Energy Connect)」でも発生している。このプロジェクトも停止を経験しており、北東部への追加電力の流入はごくわずかにとどまっている。
ニューヨーク州にとって幸いなのは、送電網がまだCHPEに依存していなかったことだ。州の送電網管理会社であるニューヨーク独立系統運用機関(New York Independent System Operator)の広報担当ケビン・ラナハンは声明の中でこう述べている。「7月に入ってからの熱波の際に電力網が安定して機能した理由の一つは、今夏のCHPEの稼働を計画上の前提としていなかったことです。信頼性計画の基本原則は、単一のプロジェクトに依存しないことです」。
将来的には、州や地域がこうしたプロジェクトに少なくとも部分的に依存できるようになることが期待されており、円滑な稼働に向けたプレッシャーは大きい。大規模な送電線の建設は長期的な大型投資だ。今後数年で機器がストレステストを経て、電力会社がプロジェクトの信頼性に自信を深めるにつれ、送電網においてより大きな役割を担うようになるだろう。
今後注目すべき点の一つは、ケベック州の水力発電設備の状況だ。同地域では過去3年間にわたって深刻な干ばつが続いており、発電に使用する水の貯水量が減少している。送電線が電力を運べる状態であっても、国境を越えて輸出できる豊富な水力電力が常に確保できるとは限らないということだ。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
