冷却の王者エアコンに、新顔「固体冷却」は割って入れるか
冷媒もコンプレッサーも使わずに熱を運ぶ「固体冷却」の研究が、世界で進んでいる。米国の企業は環境に優しい部屋規模の装置の実証を始め、ドイツの企業も店舗向けシステムの試験を計画している。だが立ちはだかるのは、長年磨き込まれてきた従来型エアコンの効率性だ。 by Sara Kiley Watson2026.06.16
- この記事の3つのポイント
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- エアコン普及が2050年に3倍へ拡大する中、固体冷却技術が環境負荷低減の代替策として注目されている
- 熱電・磁気熱量・弾性熱量・圧力熱量など多様なアプローチで実証試験が進むが、従来方式との効率格差が依然として課題
- 完全置換は困難でも市場シェア5%の獲得でも気候変動対策として大きなインパクトが期待できる
記録的な猛暑が3年続いた後、今年もまた酷暑になると予測されている。エアコンはもはや手放せない存在だ。国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までにエアコンの台数が3倍になると予測している。
エアコンの普及拡大は健康面では朗報だが、地球環境にとっては悪い知らせだ。『ランセット(Lancet)』誌に掲載されたある研究によれば、エアコンは2019年だけで約20万件の早期死亡を防いだと推定されている。しかし、人工的な冷却はすでに世界の電力消費量の7%、温室効果ガス排出量の3%を占めており、不適切に廃棄された場合、二酸化炭素よりも高い地球温暖化係数を持つ冷媒が漏れ出す恐れがある。
この問題への危機感から、多くの科学者やスタートアップ企業が固体冷却技術の高度化に取り組んでいる。固体冷却は現在、ミニ冷蔵庫やEV(電気自動車)のバッテリー、一部の高性能ゲーミングPCなどで小規模に利用されている。従来のエアコンは、コンプレッサーとファンを用いて冷媒を循環させ、液体から気体へと相変化させることで熱を移動させる。
一方、固体冷却システムは、ガドリニウムやテルル化ビスマスなどの熱伝導性材料を介して熱を移動させる。理論上は、従来方式に伴う厄介な副作用を抑えながら、空間や表面を冷却できる可能性がある。
問題は、従来型エアコンの効率に匹敵できるかどうかである。熱移動を研究するミシガン大学の機械工学教授のプラモッド・レッディは、「固体冷却装置が一般的な熱力学サイクルほど効率的でないのはなぜなのか、という点が依然として重要な研究課題の1つです」と語る。
さまざまなアプローチを検証するための研究や実証プログラムが進行中だ。米ニューヨーク市ブルックリンを拠点とするミミック・システムズ(Mimic Systems)は熱電冷却を採用しており、半導体材料に電流を流して熱を一方の面からもう一方の面へ移動させる。同社の部屋規模の空調システムは、カナダ・バンクーバーのアパートで実証試験が実施中だ。
ドイツのマグノサーム(Magnotherm)は、材料を磁化・消磁することで熱を移動させる磁気熱量効果を利用したシステムを、スーパーマーケット・チェーンで試験する予定である。香港の研究チームは、材料が伸縮する際に加熱・冷却が生じる弾性熱量効果デバイスが0℃未満まで冷却できると発表した。また英国のバロカル(Barocal)は、圧力変化に応じて温度が変化する圧力熱量効果システムの実用化に取り組んでいる。
しかし専門家、とりわけ熱電分野の研究者たちは、固体冷却方式が従来のエアコンとどこまで競争できるかについて懐疑的である。電気伝導と熱伝導を研究するノースウェスタン大学教授のジェフ・スナイダーによれば、現代のHVAC(暖房・換気・空調)システムの多くは成績係数(COP)が3である。これは投入したエネルギー1単位当たり、およそ3単位の熱を移動できることを意味する。
スナイダー教授によれば、熱電冷却は特に大きな温度差が求められる場合に性能が大きく低下する傾向があり、自動車シートの背面冷却のようなニッチな用途に最も適しているという。

COURTESY OF MIMIC SYSTEMS, INC
しかし、効率だけがすべてではないと主張するのは、マグノサームとミミックの両社を支援するロッキー・マウンテン研究所(Rocky Mountain Institute)の気候テック支援プログラム「サード・デリバティブ(Third Derivative)」のマネージャー、リンジー・ラスムッセンである。米国で現在使用されているエアコンの大半は、R410Aと呼ばれる冷媒を使用しており、その地球温暖化係数は二酸化炭素の2000倍を超える。さらに、多くの可動部品を持つため耐久性が低くなる傾向があり、機械構造がより単純な固体冷却システムと比べるとその差は大きい。
それでも、実用機の不足により、効率性の問題に明確な答えを出すのは難しい。ラスムッセンによれば、代替技術の有効性を評価するには、COPを単純に比較するのではなく、従来方式との長期的なエネルギー消費量を比較する必要がある。例えばミミックは、自社の部屋規模モデルが年間を通じて一般的なエアコンと同程度の電力消費に収まると主張している。ラスムッセンはまた、弾性熱量効果システムや圧力熱量効果システムにも将来性があるとしつつ、部屋規模のプロトタイプが登場するまでにはおそらくあと2〜3年かかるだろうと付け加える。
結局のところ、固体冷却がコンプレッサー式エアコンを置き換える可能性は高くない。しかし、地球温暖化が進み、インドのような国々で今後10年間に数千万台もの新たなエアコンが設置されるなか、たとえ一部でも置き換えることができれば大きな効果をもたらす可能性がある。「固体冷却が市場シェアの5%でも獲得できれば、その潜在的なインパクトは非常に大きいでしょう」(ラスムッセン)。
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- 気候変動とサステナビリティを専門とするサイエンス・ジャーナリスト。オランダのハーグを拠点に活動している。
