「Androidの父」の高級スマホはどこがエッセンシャルなのか?
699ドルのスマホはゴージャスで一通りの機能を備える。しかし、同じような機能を持つスマホはもっと安く買えるし、それを超えるものもすぐに出てくるだろう。 by Rachel Metz2017.08.23
スタートアップ企業のインキュベーターでありベンチャーファンドでもある「プレイグラウンド・グローバル(Playground Global)」は、アンドロイドの生みの親として知られるアンディ・ルービンCEO(最高経営責任者)が創業した。中に足を踏み入れると、まるでHBOのドラマ「シリコンバレー」のようだ。
カリフォルニア州パロアルトにある、西部開拓時代をテーマにした電子機器小売店「フライズ・エレクトロニクス(Fry’s Electronics)」の裏手に横たわる倉庫のような空間には、個性的なイームズのラウンジチェアやヒースの陶製の花瓶など、モダンなデザイナー家具やオブジェで溢れている。
細縁メガネと無精ひげ、短く刈った髪、暗い色のTシャツにジーンズを着て、なんとなくスティーブ・ジョブズのようにも見えるルービンCEOは、この場所に少数の記者を集めた。その理由は、自身が野心的とも呼ぶ699ドルの最新のアンロック(SIMフリー)・スマートフォン「エッセンシャル・フォン(Essential Phone)」を披露するためだ。
ルービンCEOはエッセンシャル・フォンを握りながら興奮気味に、このスマホを開発した企業「エッセンシャル(Essential)」が、いかに他の巨大な携帯電話メーカーとは異なる方法で開発に取り組んだかを説明した。
多くのスマホがアルミ合金とガラスからできている一方、エッセンシャル・フォンの本体はチタン製で背面はセラミック製だ(これらの素材の組み合わせは見た目が良いだけでなく、スマホが避けられない落下にも強い)。また、背面には2つの小さなマグネット式コネクターがあり、アクセサリーの付け外しができるようになっている。同社がエッセンシャル・フォンと同時に発売した360度カメラなど、今後さらに機能を追加することができる。本体にはブランド名が刻まれていないので、スマホを使うときに広告塔になったような気になることもない。ソフトウェアやセキュリティ・アップデートも定期的に行われると、ルービンCEOは話す。
「私たちは、消費者が望まないことする気はありません」と、ルービンCEOはいう。
とはいえ、エッセンシャル・フォンは2017年8月17日に発売が開始されたばかりなので、現時点では評価が難しいところだ。
実際に手に取ると実感できるが、エッセンシャル・フォンは確かに美しい。前面全体を覆うディスプレイ。それ以外の部分も、つやありのブラックとつや消しのブラックによってアクセントを付けている。ブランド名が入っていないことが、かえって印象を強める。
アンドロイドOS(Android OS)を搭載しており、Gメール(Gmail)やグーグル・マップ(Google Maps)など数々の人気グーグル・アプリが入っているが、ユーザーが欲しいかどうかわからないようなアプリがたくさんプリインストールされていることもない。好きなアプリだけをダウンロードすればいいのだ。
エッセンシャル・フォンは素晴らしい機能を持つ。背面には、13メガピクセルのカラーカメラとモノクロカメラの2つのカメラが付いている。これらのカメラを組み合わせれば美しい写真が撮れ、4K映像(高画質映像はハイエンドのスマホには必須となった)も撮影できる。ディスプレイの上部に少し入り込んで気になるかもしれないが、前面にもカメラがある。このカメラもまた、十分にシャープな自撮り(8メガピクセル)と4K映像の撮影ができる。
私にとって一番残念だったのは、最も好奇心をそそる機能である、360度カメラのようなアクセサリーを接続して試すことができなかったことだ。外付けのアクセサリーが使えるという機能は、スマホの性能を後から向上させる非常にクールな方法に思える(スマホを買った後でも顧客に自社の製品を販売し続ける、素晴らしい戦略でもある)。
エッセンシャルのチームが披露したいくつかのデモショットを見たところ、360度カメラのアクセサリーは同じような性能を持つ他の低価格なカメラよりも格段に優れているようだ。現在はまだそれほど種類が多くはないが、実質現実(VR)や他の類似の没入型デジタル経験が成長し続ければ、この種のアクセサリーがこれからの数年間でスマホに必須のものになる可能性もある。
ディスプレイの表示が素晴らしく、また明るいため、エッセンシャル・フォンで映像を見るのは非常に楽しい。私はゲーム・オブ・スローンズをスプリント(Sprint)の無線ネットワーク(スプリントは現時点でのエッセンシャルのキャリア・パートナーである)を通してストリーミングしてみたが、最大音量にした内蔵スピーカーからの音が、ドラゴンが吠えるシーンでも割れることなく聞き取れたことに驚いた。
エッセンシャル・フォンは概して使いやすく、動作も軽快だ。手に取った感触も良い(ただし、他のほとんどのスマホよりも確実に重い)。贅沢でありながら、少し控え目だ。
しかしこれを「エッセンシャル(必須の)」と呼ぶのは間違いだ。常に持つ必要があるものではないし、持ちたいと思うものですらない可能性もある。市場には他にも魅力的なスマホがたくさんある。それに、あなたが高級スマホに興味があるなら、同じようなものはアンドロイド・スマホのメーカーやアップルからすぐに出てくるだろう。そして、多くの人はスマホに700ドルも使えないし、もっと安価で十分な性能を持つ選択肢もまた多数存在する。
シリコンバレーの中心ではゴージャスが必須なのかもしれないが、私たちのほとんどはそうではないのだ。
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クレジット | Image courtesy of Essential |
- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。