KADOKAWA Technology Review
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Man and Machine

人間と機械

多くの進展にもかかわらず、まだAIは人間と組み合わせた時に最も力を発揮する。 by Robert D. Hof2016.03.28

ピンタレストのエンジニアは、常に新しい人工知能アルゴリズムを生み出し、ユーザーが探している何十億もの食品、商品、住宅やその他のアイテムの画像を見つけることに役立てている。検索クエリーと関連する画像とマッチングさせることは、ユーザーに何度もサービスを使ってもらうために必要不可欠だ。しかし去年まで、新しいアルゴリズムの有効性をテストすることに何日もかかっていた。

機械学習を微調整し、向上した検索結果をより速く示すために、ピンタレストは、従来見向きもしてこなかったリソース、人間の知能に目を向けた。ピンタレストはCrowdFlowerのようなクラウド・ソーシング企業を活用して人員を配置し、画像のラベリングや検索結果の質の評価のような「マイクロタスク」を素早く実施。1時間で、作業者は共同で何百もの検索用語をテストし、検索結果がしっかりと合っていることを確認できた。

AI(人工知能)における近年の進化の全てに関し、人間は今でも識別に関しては機械以上に熟達している。たとえば、タイルの模様と似た模様の毛布を人間は区別できる。ピンタレストのデータ科学者モハンマド・シャハンジアン「機械ができるようになるのはまだ先でしょう」という。

ピンタレストの経験は、忘れられがちな真実を明らかにしている。AIと機械学習は、数学と同じくらい大きく人間に依存しているのだ。グーグルの検索エンジンと広告システムは、多くの人間の「評価者」を使ってAI型検索結果の質を評価し、詐欺広告の発見に役立てている。フェイスブックの顔認証ソフトウェアは、人間に写真を分類するよう依頼し正確さを向上させた。深層学習はAIの一分野で、音声認識、言語翻訳や画像分析に近年ブレークスルーをもたらしたが、手作業で選ぶデータセットに大規模な人間による訓練工程が必要だ。

ピンタレストのように、多くの企業はCrowdFlower 、アマゾンのメカニカル・タークや他のクラウド・ソーシングサービスを活用し、データに磨きをかけている。このデータを多くのAIに供給し、特定の作業のために知る必要がある概念と関係性をAIに学習させる必要がある。作業者は、ツイッターにある言語的な感情の分析やユーザーが作成した攻撃的な画像や動画の削除のような作業をしている。

ピンタレストの経験は、忘れられがちな真実を明らかにしている。AIと機械学習は、数学と同じくらい大きく人間に依存しているのだ。

時々企業は、人々が「作業」と認識さえすることなく実行するように作業を設定している。たとえば、現金自動預け払い機が読み込めなかった預入金額の入力は、銀行システムを改善していることになる。

しかし、現在たとえ人間がこのような作業に機械以上に正確であったとしても、AIは最終的に賢くなり追いついてしまうのではないだろうか。「一時的に難しいというだけです」と人工知能企業ヌメンタの神経科学者のジェフ・ホーキンスはいう。ただし、この「一時的」は数年あるいは数十年にも伸びる可能性があるとも専門家はいう。

AI研究者の中には、最も有効なモデルは、機械と人間がより対等な立場で協力することで開始するよう設計されたハイブリッドシステムになると考える人もいる。たとえば、ソルトレイクシティの非営利組織インターマウンテン・ヘルスケアは、試験的なプログラムを稼働し、若い糖尿病患者が治療の中で困難に陥りがちな、一人暮らしを始めることをサポートしている。スマホアプリは、CognitiveScale(本社オースティン)のクラウド・コンピューティングシステムのおかげで、リアルタイムで個別化したアドバイスを提供できる。患者の行動や食事のような要因に対するデータを使って、どんな時でも何が患者の血糖値に最も影響を与えているか見つけ、いつ食事をすべきかを示したり適切な近隣のレストランの評価も提供したりしている。

他の企業は、より一層奥深い方法で人間の知能とAIを併用している。アップルのSiriとは異なり、フェイスブックのバーチャルアシスタントMは、人間を使って意思決定の役に立っている。たとえば、AIが3つの地元のレストランを選択した後、人間の「トレーナー」は人がどんな種類の食事がいいのか、窓側の席のほうがいいのかそして席をオンラインで予約するのか質問に飛び入り参加できる。トレーナーの活動は記録され、システムにフィードバックされてAIがより独力でできるような学習に役立っている。

多くのAI研究者の最終的な夢は、人間のように考えられる機械を作ることだ。しかし現在人間の判断と創造性は絶対必要なものである。グーグルのジョン・ジャナンドレア副社長(エンジニアリング担当)は「高級車を所有したとしても、どこに行くか決めるのは皆さんです」という。

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