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英国政府、ロックダウン解除へ向け接触者追跡アプリを試験
Obsidain Photography | Pixabay
The UK will start testing its contact tracing app this week

英国政府、ロックダウン解除へ向け接触者追跡アプリを試験

英国政府はワイト島の住民に、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染者との接触を追跡する、公式アプリのダウンロードを呼び掛けると発表した。 by Charlotte Jee2020.05.12

英国政府は、ワイト島の住民を対象に、新型コロナウィルス感染者との接触を追跡する公式アプリを提供すると発表した。5月6日に国民保健サービス(NHS)および地方自治体の職員への配布を開始し、5月7日からは14万人の全島民がアクセス可能になる。テストがうまくいけば、5月半ばから英国全土にアプリを展開していく予定だ。このアプリは英国の都市封鎖を安全に緩和するための、大きな計画の一環である。計画には、接触者を手作業で追跡するための1万8000人の人員投入も含まれている。

アプリをダウンロードすると、Bluetooth(ブルートゥース)をオンにして通知を有効にし、郵便番号の前半を入力するよう指示される。利用者は、新型コロナウイルス感染症の自覚症状の有無に回答し、症状がある場合は検査キットの発注を指示される。アプリはBluetoothを利用して携帯電話所有者が接触した人を検出し、所有者が新型コロナウイルスの感染者に接近していた場合は警告を発する。アプリ利用者は、自身の連絡先リストをアップロードするよう指示される。アプリはリスク評価アルゴリズムを使って、警告を送る相手を決定する。このアルゴリズムでは、2人が接近していた時間の長さと、互いに近づいた距離が考慮される。

英国は、アップルとグーグルが設計したような分権型システムの利用をせず、中央集権型の仕組みを接触者追跡アプリに導入したほぼ唯一の国である。セキュリティの専門家や技術者は懸念を表明するとともに、このアプリが常に携帯電話の電源を入れ、前面で起動している状態でなければ動作しないことに注意を呼びかけている。開発に関わったオックスフォード大学教授は、効果的に機能させるには人口の6割がアプリをダウンロードする必要があると指摘している。また、症状の自己申告に頼っているため信頼性が低く、英国のデータ法に抵触する可能性も指摘されている。

シンガポールの「トレース・トゥギャザー(TraceTogether)」は最初期にリリースされた接触者追跡アプリの1つだが、 十分な数の登録者を集められず、大きな困難に直面した。オーストラリアとニュージーランド、そしてインドでも同様のアプリが開発され、中国は高度に中央集権化されたアプリを開発して大量のデータを集めている。結局のところ、接触者追跡アプリは人口の過半数がダウンロードして使用しない限り、手作業による追跡に比べて役に立たないことが明らかになっている。

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米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」を担当。政治、行政、テクノロジー分野での記者経験、テックワールド(Techworld)の編集者を経て、MITテクノロジーレビューへ。 記者活動以外に、テック系イベントにおける多様性を支援するベンチャー企業「ジェネオ(Jeneo)」の経営、定期的な講演やBBCへの出演などの活動も行なっている。
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