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社会復帰への第一歩 「バブル生活」を送る9つのルール
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A guide to negotiating a covid “bubble” with other people

社会復帰への第一歩 「バブル生活」を送る9つのルール

長い隔離生活が、徐々に緩和され始めた。欧米では、お互いに信頼できる仲間と交流する「バブル仲間」を組む動きがある。バブル生活を成功させるポイントを紹介しよう。 by Gideon Lichfield2020.05.25

私は5月9日、2カ月ぶりに隔離状態を解消した。この2カ月というもの、時折、信頼できる友人数人と十分な距離を取った上で自転車で遠乗りをしたり、公園で散歩したりしたのを除けば、他人との時間を過ごしていない。それどころか、うっかり誰かとひじをぶつけた(もちろん、袖は下ろしている)ほかは、他人に触れてさえいない。しかし今、私は近所の友人と同じグループに参加することにした。「ポッド」「クォランチーム(quaranteam)」「バブル」など、「隔離(quarantine)」を連想する名前で呼ばれるグループだ。

こうしたバブルグループへ参加することは、事実上、1つの大家族になるようなものだ。お互いの家を自由に訪問し、一緒に食事をし、ハグもできる。くすぐりっこの予定だって入っている。独り暮らしをしていても、私は社交的な人間だ。誰かと一緒にソファに座れると考えるだけで、何日間も砂漠をさまよった末に飲み水を見つけたような気持ちになる。

一部地域では「ダブル・バブル(double-bubbling)」が公的政策にもなっている。つまり、2世帯で1つのグループを組むことが推奨されている。そうすれば生活に変化が生まれ、精神衛生にもいい。しかし、パンデミック(世界的な流行)の最中に、ほかの誰かと家族同然のグループを作ろうと交渉するのは、医学的(もし知らないうちにお互いに感染させてしまったら?)にも、社交的(もしも仲違いしたら? 誰と組むのか? もし相手に選んでもらえなかったら?)にも、さまざまなリスクがある。

バブル仲間(グループを組む友人・知人)と私は、これまでのところかなり厳格な感染予防措置をとってきたが、方法は各人少しずつ異なる。私は友人に、誰かとグループを組む(あるいは「組もう」と誘われる)のは、オープンな関係を築くための交渉をするようなものだと話している。何が許され、何が許されないのか? どのようなことについてお互いに話し合わなければならないのか? 意見が一致しない場合の解決法はどうするのか?

以下に示すのは、私自身や友人、同僚の経験則に過ぎないが、バブル仲間を作るためのガイドラインだ。

1. 相手を悪く思わない

バブル仲間になろうという対話そのものを始める前に、何があっても友人であり続けると約束しよう。バブル仲間を作ることは、本来なら経験できないかもしれない試練で友情を試そうとしていることなのだ。お互いの生命に責任を負い、お互いの弱点や欠点を間近で見るのだ。最終的にバブル仲間にならないと決まっても、話し合うだけで意外なことが明らかになるかもしれない。

同様に、どれほど入念に計画しても、ただ単にうまくいかないときもある。だから、どちらも恨みっこなしで、いつでもバブル仲間から抜けられると約束する。家族同然には暮らせないかもしれないと分かっても、友人としての付き合いまで無理だとは限らないからだ。

同様に、自分が誰かのバブル仲間になれなくても怒らないようにしよう。パンデミックの最中、我々は2つを同時には選べない。つまり、参加できるバブル仲間は一度に1つだけだ。そして、その関係は友情ではなくパートナーシップだ。決して一緒に起業しようとは思わない相手とでも、とても良い友人にはなれる。それと同じようなものだ。

2. リスクについて考えよう

これまで独り暮らしをしていた人が、他の3人、合計4人でバブル仲間を始めたとしよう。4人が同じ予防処置を取っていたとしても、新型コロナウイルスに感染するリスクは単独で過ごしたときの4倍になるかもしれない。同様に、4人が町や店頭ですれ違う人々にウイルスをうつす可能性も4倍になる。元々のリスクが非常に低いので、4倍になってもリスクは極めて低いままだが、バブル仲間が広がれば広がるほど、責任もまた大きくなるとも言える。

3. なぜバブル仲間になりたいのかを話す

答えは明白だろう。つまり、もっと仲間が欲しい。しかし、もしバブル仲間になりたい人と、友人がそれぞれ違うことを期待していたならどうなるのだろうか? 私は知人のカップルと、ある夏の一時期を田舎の家で一緒に過ごせないかと話し合った経験がある。結果として、相手の2人にとって大切だったのは、ほかの人と過ごすことではなく、都市部からの脱出だと分かった。また、近所に共通の友人がいた場合、私はその友人を夕食に招待したいと思っても、同居人はその気にならないかもしれない。だから、バブル仲間としてチームを組みたいという気持ちの、基本的な動機を話し合うことから始めよう。潜在的な摩擦が生じる領域を避けられるかもしれない。

4. どんなルールであれ、同じルールに従う

以前の私は外を歩くときも、自転車に乗るときもマスクをしていなかった。しかし、友人に頼まれ、顔を合わせる2週間前からマスクをするようになった(その数日後、私が住んでいる市でマスク着用が義務づけられた)。おそらく、バブル仲間が欲しい人は、何かしら譲歩する必要がある。その場合は、積極的に応じるべきだ。不承不承な態度だと、隠れてルールを破っているのではないかという疑いが生じてしまう。

5. 日々のルーチンについて徹底的に話し合う

どのような新型コロナウイルスの予防措置をとっていても、今ではそれを当たり前と思っているだろう。しかし、他の人がどのような予防措置をして、何をしていないかを知ると驚くかもしれない。食材を洗っているのか? 石けんを使っているのか? 消毒剤を使っているのか? あるいはどちらも使っていないのか? 密封された食品も同じように洗っているのか? 家に入るとき靴を脱ぐのか? 服を「屋内用」と「屋外用」に分けているのか? 外出したら、スマホを消毒しているのか? 家の鍵を消毒しているのか? ドアの取っ手を消毒しているのか? 求められない場所でもマスクを着用しているのか? 手袋をしているのか? 外で運動するときはどうしているのか? 食事をテイクアウトしているのか? 出前をとっているのか?

自分が普段何をしているかを、できるだけ漏れなく相手に伝え、相手からも話を聞こう。そして正直に話すこと。相手が聞きたくないだろうとか、言うにも及ばないと思った末に話さずに済ませてしまうのは、この上なく簡単だが、意見が合わないよりも不信感が生まれる方が絶対にまずいと覚えておこう。お互いに相手の習慣を知っていれば、いつでも話し合って妥協点を探れる。しかし、どちらかが何かを隠していたと分かった場合、関係がまるごと崩れかねない。

6. 誰一人として合理的ではいない

基本的な予防策や健康法、マスクの着用や社会距離戦略(ソーシャル・ディスタンス)については誰もが知っている。それでも物体の表面でウイルスがどれほどの期間生存できるかマスクの効果はどれほどあるのかなど、おびただしい数の学術論文があるにもかかわらず、特定の行動が感染リスクに与える影響についてはほとんど分かっていない。服を屋内用と屋外用に分けると、どれほど安全性が増すのか? 呼吸の荒い人と普通に呼吸をしている人とすれ違うのでは、感染確率がどれほど違うのか? スマホを介して感染した人はいるのか? 誰も知らないのだ。そのうえ情報量はあまりに多く、変化のスピードも速いため、自分自身もバブル仲間もついていけないだろう。

だから、誰の言うことも推測に過ぎないと受け入れよう。自分の予防措置を合理的だと説明することもできる。しかし、実際には、最近読んだもの、テレビで見たこと、自分が恐れていること、受け入れられるリスクと受け入れられないリスクの選別、どれほど他人と会いたいかといった要素によって、あなたの選択は歪められている。

こうした話題を話すときは、お互いの実際の行動について指摘するのを避けたほうがいい。自分が野菜を拭いている間に、友人が野菜を食器用洗剤に浸しているのを見たとき、あるいはランニングに出る友人がマスクを着けていないことに気づいたとき、その行動の正当性を問うのはやめておこう。相手がむきになった末、勝ち負けのない議論に発展するリスクがある。

その代わり、「いつから、それを始めたの?」「こうして欲しいと言ったらどう思う?」と尋ねてみよう。そうすればお互いを責めたり、評価したりする立場から、共感しあい、どのような道のりをたどって今こうしているのかを理解する立場に立てる。思いがけず、それぞれの人が何を特に恐れているかが分かるかもしれない。そうすれば、全員が納得する妥協点を探りやすくなる。

7. 何をはっきりとするかを合意し、些細なことでも伝える

たとえば、私とバブル仲間は、別の友人と距離を取った上で散歩に出るときは、バブル仲間に逐一伝えているし、お互いに顔を合わせる友人のリストに新しく誰かを加える前に話し合っている。日々の習慣を変えるときの情報は、多く伝えるに越したことはない。たとえば、新型コロナウィルス感染症に関する新しい報告書など、何か不安になるようなものを読んだときは、それでどのような気持ちになったかを話しておこう。何か行動を変えるべきかどうか、決心がつかない場合もそうするのがいい。その会話によって、どうするかが決まるだろう。細かい事柄についても、まめにコミュニケーションを取っておけば、お互いに相手を気遣っているという信頼の好循環が生まれる。

8. ソーシャルメディアへの投稿はやめよう

凝った料理を作ったり、ゲームをしたり、背中をさすりあったりしてバブル仲間と楽しい時間を過ごしたとしても、それをひけらかすのは考えものだ。不運にも苦しい状況にある友人、あるいは「完全な自粛じゃない」との判断を下すような人がいるかもしれない。インスタグラムを開くたびに、笑顔でハグしあっている友人たちの写真が目に入るが、それだけで手が震えそうになる。

9. 「お試し」期間を設けよう

バブル仲間との暮らしのお試し期間を2週間として、その後、続けるかどうかを決めよう。繰り返しになるが、どちらかがやめたいと言っても恨みっこなしだ。この時点ですでに感染に対して多大なリスクを負っている。その上さらに友情を賭けて、リスクを重ねる必要はどこにもない。

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ギデオン・リッチフィールド [Gideon Lichfield]米国版 編集長
MITテクノロジーレビュー[米国版]編集長。科学とテクノロジーは私の初恋の相手であり、ジャーナリストとしての最初の担当分野でもありましたが、ここ20年近くは他の分野に携わってきました。まずエコノミスト誌でラテンアメリカ、旧ソ連、イスラエル・パレスチナ関係を担当し、その後ニューヨークでデジタルメディアを扱い、21世紀のビジネスニュースを取り上げるWebメディア「クオーツ(Quartz)」の立ち上げにも携わりました。世界の機能不全を目の当たりにしてきて、より良い世の中を作るためにどのようにテクノロジーを利用できるか、また時にそれがなぜ悪い結果を招いてしまうのかについても常に興味を持っています。私の使命は、MITテクノロジーレビューが、エマージングテクノロジーやその影響、またそうした影響を生み出す人間の選択を模索するための、主導的な声になることです。
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