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温暖化対策に炭素除去は「不可欠」、国連IPCC報告書が指摘
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UN climate report: Carbon removal is now “essential”

温暖化対策に炭素除去は「不可欠」、国連IPCC報告書が指摘

2℃の気温上昇を防ぐためには、温室効果ガスの大幅な排出削減だけではもはや間に合わない。二酸化炭素の除去も必要不可欠だと国連の最新報告書は指摘する。 by Casey Crownhart2022.04.06

何十年もの警告にもかかわらず、地球温暖化への取り組みは大幅に遅れている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が4月4日に発表した新たな報告書は、その代償を強調するものとなった。

世界経済がパンデミックのどん底から回復へと向かう中、2021年の世界のエネルギー関連の二酸化炭素排出量は360億トンを超え、過去最高を記録した。

こうした排出量の増加を受け、IPCCの新たな報告書は、地球が極めて危険な温暖化のしきい値に達するまでに残された排出可能な温室効果ガスの量は驚くほど少なくなっていると警告している。つまり、排出量の削減だけではほぼ間違いなく不十分だということだ。そのため、年間数十億トンの二酸化炭素を大気中から回収するインフラ、システム、政策を世界は構築する必要がある。

3000ページ近くにのぼる報告書を取りまとめたIPCC第3作業部会のダイアナ・アージヴォルソッツ副議長は、4月4日の電話会議で、「二酸化炭素の除去は、(温室効果ガス排出量の)実質ゼロ達成に不可欠です」と説明した。

今回発表されたIPCCの第6次評価報告書/第3作業部会報告書は、地球温暖化の科学的状況と増大するリスクを評価する政策立案者向けの包括的な報告書だ。排出量を削減し、気候変動の影響を抑えるための現在の選択肢を評価した上で、世界各国が運輸、エネルギー、重工業などのあらゆる産業分野で排出量を大幅に削減する必要があると結論づけている。そのためには、化石燃料からクリーンエネルギーへの急速かつ迅速な移行と、食糧などの物資の生産方法の大幅な変更が必要となる。

「評決は下されました。ひどい評決です」。アントニオ・グテーレス国連事務総長は電話会議でこう述べた。「私たちは気候災害の道へと急速に進んでいます」。

同報告書では、二酸化炭素の除去について1章を設け、その果たすべき役割がいかに大きいか、今後数十年間に必要なレベルに達することがいかに困難であるかを強調している。

二酸化炭素除去に関する重要な4つの知見は以下のとおりだ。

1.  炭素除去は基本的に「オプション」ではない

報告書によると、二酸化炭素除去に向けた相当な努力なしには、地球温暖化を1.5℃に抑えることはほぼ不可能であり、2℃未満に抑えることも極めて困難である。

最低限の二酸化炭素除去だけで1.5℃に抑えるには、2030年までに世界の温室効果ガス排出量を年間約310億トンにまで削減する必要があるという。つまり、8年間で排出量をほぼ半分にするということだ。

これほど急速に排出量を削減するには、新しいテクノロジーへの急速な移行とエネルギー需要の大幅な削減が必要だ。そのためには、前例のない人間の行動様式の変更と効率化が必要になる。 「現実の世界で達成するのはいずれもかなり難しいでしょう」。IPCC報告書の作業部会に協力し、ストライプ(Stripe)の気候研究リーダーを務めるジーク・ハウスファーザーはこう指摘する。

目標を2℃に緩めれば、気候変動を半減させるために必要な年数は10年追加され、2040年までに排出量を約290億トンに削減しなければならないことになる。

二酸化炭素除去に特化した研究投資会社、カーボン・ダイレクト(Carbon Direct)のフリオ・フリードマン主席科学者によると、いずれの場合も必要とされる削減のスピードと規模は現実的なものではない。各国は 「膨大な」 レベルの炭素除去を実施する必要があると、フリードマン主席科学者は言う。

本質的な問題点は、世界はすでに「排出しすぎている」ということだ。私たちは、よりクリーンな経済活動への転換を図るために、まだ十分なことを実行していない。航空、海運、肥料、セメント、鉄鋼など、特定の業界や製品における実現可能で手頃な解決策もいまだ存在しない状況だ。

二酸化炭素の除去は、世界各国が持続可能な取り組みに移行するための時間を稼ぎ、どう置き換えるべきか分からない排出源からの、継続的な排出のバランスを取れるものとして期待されている。

2.   多くのことをやる必要がある

気温が2°C上昇するのを防いだり、そこから気候を元に戻したりするには、毎年何十億トンもの二酸化炭素を削減する必要がある。

このモデルでは、二酸化炭素除去の3つの主要な方法に依存する。すなわち、植林および森林の復元や同様の土地管理、炭素回収装置の開発と導入、それに、排出物を捕捉しながらエネルギーを生成する植物に依存する「BECCS(二酸化炭素回収・貯留付きバイオエネルギー)」と呼ばれる方法だ。同報告書によると、合計すると2050年までに年間170億トン、2100年までに350億トンの二酸化炭素を除去する必要があるという。

3.   炭素除去オプションのポートフォリオが必要である

報告書では、二酸化炭素除去のアプローチが異なれば、利点も課題も大きく異なることを強調している。

例えば、植林や森林の再生といった自然を利用したアプローチは、現在最も広く展開されている。しかし、植物が枯れたり火事で燃え尽きたりすると、二酸化炭素はすぐに大気中に戻ってしまう。そのため、地下に二酸化炭素を閉じ込めておく地下貯留などの方法よりも期間は短くなってしまうだろう。

直接空気回収(DAC)装置は、二酸化炭素を永久的に除去して貯蔵できるが、現時点では規模が限られる上に高価であり、大量のエネルギーと水を消費する。

IPCC報告書のモデルは、自然とテクノロジーのハイブリッドなアプローチであるBECCSに大きく傾いている。しかし、BECCSは広大な土地を必要とするため、食糧生産と競合する可能性があるなど、他にも課題がある

二酸化炭素を回収するには他にもさまざまな方法がある。例えば、海水のアルカリ度を高めるために鉱物を使うなど、海洋を利用したアプローチもある。だが、これらはほとんど検証されていない。

4. 規模を拡大するには資金と政策が必要である

IPCC報告書の執筆者たちは、高レベルの二酸化炭素除去を達成するには、最も効果的な方法を決定し、環境への影響を最小限に抑え、現実世界で主要プロジェクトを迅速に開発するための多大な研究開発努力が必要だと強調している。

二酸化炭素除去の研究活動に資金を提供しているクライメートワークス財団(ClimateWorks Foundation)のプログラム部長であるフランシス・ワンは、MIT テクノロジーレビューの問い合わせに対して、「私たち全員が、本格的な脱炭素化と二酸化炭素除去の両方を実現するために、多様な選択肢を探る必要があります」と回答した。

大規模な二酸化炭素除去産業を構築するための最大のハードルは、おそらくコストだろう。これだけの量の二酸化炭素を毎年除去するために必要な何千億、何兆ドルもの費用を、誰が負担するのだろうか。

報告書によると、二酸化炭素除去の研究開発を加速させ、企業に実際に実行させるには、政府側の「政治的コミットメント」が必要だという。 つまり、二酸化炭素除去を義務づける、あるいは奨励する政策を制定し、さらにそれを実践することによって気候が改善されるかどうかを確認する方法を確立する必要がある。

これまでの歴史を振り返れば、IPCCの報告書がいくら厳しい指摘をしたところで、何かが根本的に変わることはないのかもしれない。2014年の主要評価報告書が発表された時と比べて、世界の排出量は年間約60億トンも増えているのだ。だが、気候変動対策における役割の重要性がますます明らかになるにつれて、二酸化炭素除去に関する仕事はますます増えている。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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