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「大企業」グーグルのAI新機能に見る、イノベーションのジレンマ
Sarah Rogers / MITTR | Logo Google
Is Google playing catchup on search with OpenAI?

「大企業」グーグルのAI新機能に見る、イノベーションのジレンマ

グーグルは20年以上にわたってインターネット検索を独占してきた。その市場支配力がAI時代のイノベーションを妨げているのだろうか? by Mat Honan2025.03.20

この記事の3つのポイント
  1. グーグルの新機能はチャットGPTに追いつくことが目的で革新性に欠ける
  2. グーグルはユーザーデータを活用した有用な結果の提供に課題がある
  3. グーグルは中核事業の周辺で革新を起こすことが難しい状況にある
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

本誌のAI担当上級編集者のウィル・ダグラス・ヘブンが少し前に指摘したことについて、私はずっと考えていた。人工知能(AI)の主要プレイヤーはみな同じ方向に進み、同じものに収束しているように見えるということだ。エージェント、ディープ・リサーチ、軽量モデルなど。

これは、AI企業が同じようなことを目にし、同じような問題の解決を試みているという点では、理にかなっている部分もある。しかし、ウィルに話を聞いたところ、「想像力の欠如のように感じられる」とのことだった。その通りだと思う。

このことについて再び考えさせられたのは、ここ数週間のグーグルによる一連の発表だった。いずれも、私がこの1年間かなりの時間をかけて取材してきた、検索とAI言語モデルの融合に関するものだ。グーグルは、検索にジェミニ(Gemini)の新しいAI機能を追加し、ジェミニに検索機能を追加することで、この交差点に直接狙いを定めた。両方を使ってみて感じたのは、それらがどれほどうまく機能するかということよりも、オープンAI(OpenAI)のチャットGPT(ChatGPT)に追いつくことが目的であるということだ。そして、2025年3月になってようやくそれが登場したことは、グーグルにとってあまり良い兆候ではないように思える。

3月5日に発表された「AIモード(AI Mode)」を例に挙げよう。この機能は確かにすばらしく、期待どおりに動作する。しかし、これはオープンAIがすでにやっていたことをほぼなぞっているに過ぎない(ちなみに名称に惑わされないように。グーグル検索にはすでに「AIによる概要(AI Overviews)」と呼ばれる機能がある。AIモードはそれとは異なり、より深い探索を可能にする機能だ)。同社のブログ記事によると、「この新しい検索モードは、より高度な推論(reasoning)、思考、マルチモーダル機能によって、『AIによる概要』の機能を拡張し、最も難しい質問にも対応できるようになった」とのことだ。

簡単な概要とリンクを提供するのではなく、AIは質問内容をさらに掘り下げて、より確かな回答を提供する。「AIによる概要」ではサポートされていない、フォローアップ質問も可能だ。これは非常に自然な進化のように感じられる。なぜまだ広く利用できるようになっていないのか、不思議なほどだ。AIモードの利用は、現時点では有料アカウントのユーザーに限定されており、それも「サーチ・ラボズ(Search Labs)」の実験的サンドボックスを介してのみ利用可能だ。しかし、それ以上に重要なのは、なぜグーグルは去年の夏にこの機能を用意できなかったのか? ということだ。

2つ目の変更点は、Geminiチャットボットに検索履歴が追加され、さらなるパーソナライズが進行中であることが約束されたこと。これについて、グーグルは「パーソナライゼーションにより、Geminiはあなたのグーグル・アプリや検索を始めとするサービスに接続し、あなたのニーズに直接対応するユニークで洞察に満ちた応答を提供できる」と述べている。

これらの新機能、特にAIモードのフォローアップ質問と深堀り能力の多くは、チャットGPTが何カ月も前からやっていることに機能的に追いついたように感じられる。また、別の生成AI検索エンジンのスタートアップである「パープレキシティ(Perplexity)」とも比較されている。

どちらの機能も、新鮮で革新的なものには感じられない。チャットGPTは長い間、ユーザー履歴を構築し、持っている情報を使って結果を提供してきた。Geminiもユーザーの情報を記憶できるが、グーグルが他の製品からのシグナルを取り込むのにこれほど時間がかかったことに少し驚いている。明らかにプライバシーの懸念はあるものの、ここで話題にしているのはオプトイン製品である。

もう一つは、少なくとも私が今まで発見した限りでは、チャットGPTの方がこの種のことに長けているということだ。ここに小さな例がある。私は2つのサービスに「私についてどんなことを知っていますか?」と尋ねてみた。チャットGPTは、私との対話に基づいて、本当に洞察力のある、思慮深いプロフィールを返してきた。私が明示的に覚えておくように伝えたことだけではない。多くは、私がフィードしたさまざまなプロンプトの文脈から来ている。私の好きな音楽のタイプを理解している。私の映画の好みについての小さな詳細を知っている。例えば「あなたは一般的にスラッシャー映画をあまり楽しまない」などだ。中には、「あなたはゴミ箱用の小さな小屋を、蝶番付きの木製の屋根で作り、それを開いたままにする方法を探していました」といったちょっと奇妙で楽しい内容もあった。

グーグルは、私のメール、検索、ブラウジング履歴の何十年分ものデータ、私が今までに撮ったすべてのデジタル写真のコピー、そして私自身以上に、私の本当の姿について恐ろしい洞察を持っているはずだ。にかかわらず、ユーザーが期待するような有用なテーラーメイドの結果ではなく、広告主が欲しがりそうなつまらないプロフィールを吐き出した。「あなたはコメディ、音楽、ポッドキャストを楽しみ、現在と古典の両方のメディアに興味がある」といったものだ。

なるほど。私は音楽を楽しんでいるというわけか。すばらしい回答だ!

昨年末、オープンAIが検索機能を準備していた際に、同社の幹部から言われたことを思い出す。オープンAIには、グーグルのような巨大な既存事業がないからこそ、より自由に革新できるのだという。確かに、オープンAIが資金を燃やし続ける一方で、グーグルは資金を生み出している。だが、オープンAIの場合、グーグルのように現金収入源である従来の検索サービスを殺すことを心配せずに、実験をできる余裕がある(少なくとも資金が尽きるまでは)。

もちろん、グーグルとその親会社アルファベット(Alphabet)が多くの分野でイノベーションを起こせることは間違いない。例えば、先週のグーグル・ディープマインド(Google DeepMind)の「ジェミニ・ロボティクス(Gemini Robotics)」の発表を見てほしい。あるいは、ウェイモ(Waymo)のロボット・タクシーに乗ってみるのもいい。だが、中核製品やビジネスの周辺でそれができるだろうか?  グーグルだけでなく、他の大手レガシー・テック企業も同様の問題を抱えている。マイクロソフトのAI戦略はこれまでのところ、オープンAIとのパートナーシップに大きく依存している。一方、アップルは、長年のアップル評論家であるジョン・グルーバーの手厳しい批判が明らかにしているように、荒野で完全に迷子になっているようだ。

グーグルには何十億人ものユーザーと大量の現金がある。オープンAIやアンソロピック(Anthropic=グーグルも大株主である)、パープレキシティにはできない方法で、既存のベースを活用できるのだ。しかし、ここで市場のリーダーになれなければ、フォロワーにならざるを得ないということは、先行きの厳しい日々を示唆していると私は確信している。でもね、アストラ(Astra)がやって来るのだ。さあどうなるか。見守ってみよう。

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マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。
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