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ダボスからの報告:空疎な演説と膨らむ自尊心、そして冷たいマウント
Chip Somodevilla/Getty
Dispatch from Davos: hot air, big egos and cold flexes

ダボスからの報告:空疎な演説と膨らむ自尊心、そして冷たいマウント

世界のリーダーやテック業界の大物たちが集うダボス会議。複数のパネルディスカッションに登壇したMITテクノロジーレビューのマット・ホーナン編集長が、現地の空気感をお伝えする。 by Mat Honan2026.01.24

この時期のダボスといえば、厳しい寒さが定番である。世界のエリートたちがきちんとしたスーツに雪靴を履き、雪に足を取られながら会場を行き来するのも、このイベントの「味」のひとつだ。ところが今年は、拍子抜けするほど暖かい。最高気温は1℃少々。私がニューヨークを発ったときの方がよほど寒く、雪もずっと多かった。この異常な暖かさは「フェーン現象」のせいらしい。アルプスを越えて吹く、乾いた暖かい風だそうだ。

私は気象学者ではないが――ここダボスには「熱い空気」があちこちに漂っている、という点だけは確かだ(マット・ホーナン編集長によるダボス会議レポートの前編はこちら)。

1月21日の水曜日には、ドナルド・トランプ米大統領がついにダボス入りし、フォーラムで演説をした。実に90分以上にわたり、経済からグリーンランド、風車、スイス、ロレックス、ベネズエラ、薬価まで、あらゆる話題を縦横無尽に語った。演説は不満と被害者意識、そして明らかな事実誤認に満ちていた。

ほんの一例を挙げると、トランプは「中国は風車部品の生産では世界一だが、実際には発電には使っていない」と主張した。実際には、中国は風力発電の導入量でも世界のトップだ。

ちなみに私はこの「壮観」を会場内から見ることはできなかった。残念!

演説会場のコングレスホールに到着したときには、すでに入場を求める人の群れがホール前を埋め尽くしていた。

私はちょうど「知的な同僚」――つまり、職場におけるAIエージェントについてのパネルディスカッションを終えたところだった。このパネルは特に楽しみにしていた。登壇者が、AIエコシステムの多様な断面を代表していたからだ。

たとえば、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のクリストフ・シュヴァイツァーCEOはマクロな戦略視点を、HPのエンリケ・ロレスCEOはハードウェアと大企業の視点を、ワーケラ(Workera)のキアン・カタンフォルーシュCEOは人材育成と企業変革の実務視点を、ヒポクラティックAI(Hippocratic AI)のマンジュル・シャーCEOは医療という高リスク分野でのAI活用について、そしてアミニAI(Amini AI)のケイト・カロットCEOは南半球、とりわけアフリカにおける視点を提供してくれた。

興味深かったのは、多くの登壇者が「同僚(co-worker)」という言葉を避け、中には「エージェント(agent)」という表現すら使いたがらなかったことだ。しかし、彼らが描いた未来像は明確だった。人間とAIが肩を並べて働き、人間の可能性を拡張していくというビジョンである。たとえばヒポクラティックAIのシャーCEOは、テキサスで熱波が発生した際に、1万6000人にAIエージェントが電話をかけて健康と安全を確認したという実例を紹介していた。すばらしい議論だった。全編はこちらから視聴できる。

だが、私がパネルを終えた頃には、すでにコングレスホール周辺は人でごった返していて、メイン会場はおろか、隣接する中継部屋にさえ入れなかった。かろうじて第三中継室には潜り込めたが、まるでターンスタイル(Turnstile、米国の人気バンド)のライブに迷い込んだかのような混雑ぶりだった。

しかもトランプ大統領の演説は、割り当てられていた時間を大きくオーバー。私は次のディスカッションに向かうために途中退席せざるを得なかった。ホールを歩きながら見た光景は、どこか現実離れしていた。彼の演説が始まって以降、廊下を行き交う世界のエリートたちは皆、ノートPCやスマートフォン、アイパッドの画面をじっと見つめていた――しかも、全員が同じ動画、つまりトランプの演説の中継を見ていたのだ。誰ひとり目を離していなかったと思う。まさに、彼はこの会場の空気を完全に支配していた。

そして22日の木曜日には、トランプ大統領が再び演説をする予定だ。今度は「平和評議会」なるものの発表のための予定外の登壇らしい。聞くところによると、イーロン・マスクも登場するようだ。再びエリートたちの注目が一点に集中する日になりそうである。

もっとも、ダボスに集う「エリート」にも階層がある。そしてその“誰が本物のエリートか”を見分ける手段は、実にさまざまだ。たとえば、バッジの色。私はパネルの司会を務めたので、白い参加者バッジを持っている。これがあれば、ほぼすべての会場に入れるし、それ自体が一種のステータスシンボルでもある。どこに泊まっているかもまた、序列を分ける要素だ。私はクロスターズという町に宿泊している。コングレスセンターから電車で40分離れた隣町で、ここに泊まっているということは……まぁ、そこまで「上」ではない、ということでもある。

さらに微妙なステータスの測り方もある。たとえば「今回が初めてのダボスですか?」という問い。何気ない会話のようでいて、実は相手の「格」を測るための裏メッセージが含まれていたりする。もしあなたが「大物」であれば、当然のように毎年参加しているはず――というわけだ。

だが、私がこれまでに出会った中で最も冷ややかで的確な格付けは、雪靴に履き替えているときに隣に座っていた女性との雑談の中にあった。彼女も私と同じくカリフォルニア在住だということが分かり、ちょっとした親近感が芽生えたのだが、彼女はこう言った。

「でも、新しい税法のせいで、もう長くは住まないと思うわ」。

――これは、実に冷徹なマウントだった。

なぜなら、その新しい税法というのは、カリフォルニア州が導入を検討している「超富裕層」向けの増税策であり、対象となるのは文字通り「億万長者」だけなのだから。

ようこそ、ダボスへ。

※このコラムは2026年1月22日に米国版に掲載されました。

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マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。
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