KADOKAWA Technology Review
×
夏割実施中!購読料20%オフ。
「人類はもう境界線越えた」
ビル・ゲイツがいま
AIに警鐘を鳴らす理由
Meron Menghistab 
人工知能(AI) Insider Online限定
Bill Gates says we’ve passed AI’s danger thresholds. Now what?

「人類はもう境界線越えた」
ビル・ゲイツがいま
AIに警鐘を鳴らす理由

「バイオテロのリスクは、自然発生するパンデミックより約50倍恐ろしく、約50倍起こりやすい」。楽観主義者だったビル・ゲイツはいま、AIについてこう警告している。分子を作れるモデルはすべて監視すべきだと訴え、ロボット税や「人間専用の仕事」といった案も示す。なぜ70歳の慈善活動家が、最も声高な警告者になったのか。 by Mat Honan2026.08.31

この記事の3つのポイント
  1. ゲイツはAIがバイオテロ・サイバー・雇用・制御の各領域で「越えてはならない境界線」をすでに越えたと警告する
  2. 業界の自主規制は機能せず、新分子生成モデルの監視義務化や米中協調など政府主導の規制枠組みが不可欠だと主張する
  3. 混乱期の対策としてトークン税・ロボット税と「人間専用の仕事」を提言するが、具体的設計は今後の議論に委ねている
summarized by Claude 3

米シアトル近郊、ワシントン湖東岸の豊かな郊外都市、ワシントン州カークランドは、この上ない晴天に恵まれていた。気温は30℃弱で、空はこれ以上ないほど青く澄み渡っている。ゲイツ・ベンチャーズの会議室からはカリヨン・ポイント・マリーナが見下ろせ、高価なボートの一群が水面に揺れている。その向こう、湖の対岸には、地平線を縁取るオリンピック山脈が見える。息をのむほど美しい。そして、どこか恐ろしくもある。

というのも、窓の外の景色は穏やかでも、警告を伝える本人はそうではないからだ。会議室のテーブルを挟んで私の向かいに座るビル・ゲイツは、椅子の上で体を前後に揺らしながら、熱っぽく語っている。テロの脅威、経済の崩壊、あるいはAIシステムを制御できなくなることについて話を聞けば聞くほど、私まで不安になってくる。

慈善活動家でマイクロソフトの元最高経営責任者(CEO)であるゲイツは、AI技術の進歩の速さ、とりわけ安全対策(ガードレール)の整備が追いついていないことに、ますます危機感を募らせているという。8月26日に公開した新しいエッセーで、ゲイツは、いくつもの潜在的な危険に歯止めをかけるべき段階を、私たちはすでに過ぎてしまったと主張している。「AIの生物学的能力、サイバー能力、心理社会的能力、雇用市場を破壊する能力、さらには制御の問題という点で、私たちはすでに境界線を越えてしまいました」。ゲイツは新しいエッセーについて、MITテクノロジーレビューのインタビューでこう語った。「業界の外で、これほど懸念も議論もないことに、ただ呆然としています」。

急速に拡大しつつある社会の混乱要因だとゲイツが考えるものに世界の目を向けさせようと、70歳のこのテック界の大物は、いわば「耳障りなほど声高な存在」となって警鐘を鳴らし始めた。今回の新しいエッセー(このテーマで予定している複数のエッセーの第1弾)や報道陣との会合を通じて公に発言するとともに、業界、政府、市民社会のリーダーたちとの非公式な会話でも警告を発している。

ゲイツはいくつもの問題に注意を促しているが、とりわけ、現在の最先端AIモデル(フロンティアモデル)が持つ生物学的能力についての警告はぞっとするものだ。「新しい分子を作り出せるモデルはすべて監視すべきです」とゲイツは言う。「私はバイオテロのリスクを、自然発生するパンデミックのリスクよりも約50倍恐ろしく、約50倍起こりやすいものと考えています」。

こうした警告に加えて、ゲイツは社会を前に進めるための新しいアイデアも提示している。その中には、「人間専用に確保する仕事」や、ロボットとトークンへの課税という考え方がある(ロボット税は以前からゲイツが提唱してきた構想だ)。前者は、社会的な合意に基づいて特定の仕事を人間のために残すというもので、どの仕事を対象にするかは国によって異なる可能性があるとゲイツは指摘する。後者は、人間の仕事を代替するAIの利用から得られる収益の一部を取り分けるための税である。

もちろん、楽観的な見方も多少は示されている。ゲイツはたとえば、AIが農業、医療、教育を今後も変革していくことや、複雑な行政手続きを乗り切る助けになることについて強気だ。そして最終的には、人類は「豊かさ」を手にすると主張する。しかし、その前に来るものは? 混乱だ。それも、大きな混乱である。

これから待ち受ける道のりとその危険、そしてそれがいつの日か私たちをより良い未来へ導く可能性について、ビル・ゲイツに話を聞いた。

なお、以下のインタビューは、長さを調整し、明確さと読みやすさを高めるために編集している。

——お時間をいただきありがとうございます。まず何かお話しになりたいことがありますか? それとも、そのまま質問に入ってもよろしいですか。

ビル・ゲイツ そうですね。よく聞かれるいい質問の一つが、「なぜ今、声を上げるのか?」というものです。

——まさに、それが私の最初の質問です!

ビル・ゲイツ 大きく2つあります。1つは、AIの生物学的能力、サイバー能力、心理社会的能力、雇用市場を破壊する能力、さらには制御の問題という点で、私たちはすでにいくつもの境界線を越えてしまい、それぞれの分野で問題の兆候が見え始めていることです。これまで何年もの間、人々は「こうした境界線に近づいたら、善意ある人だけが使えるようにする方法や、こうしたことをさせない方法を本気で考えよう。あるいは、その段階になったらモデルをコピーできないようにするかもしれない」と言ってきました。それなのに、私たちがその境界線をもう越えてしまったことに、私はショックを受けています。

ですから、そうした境界線を越えてしまったことが1つ目の理由です。2つ目は、業界の外で懸念も議論もほとんどないことに、ただ呆然としているからです。業界内は複雑です。業界は自分たちを批判したがりませんし、企業同士も互いを批判したがりません。一部の企業では新卒・未経験者向けの採用を減らしていますが、これはまだかなり小さな兆候と言わざるを得ません。しかし、変化は起きます。それも、そう遠くないうちにです。導入を妨げてきた能力や信頼性の問題が、すべて解決されつつあるからです。そうなれば、ホワイトカラー労働市場のかなりの部分で、人間を非常に低コストで代替できるようになります。その次に、ロボット工学がどれほど速く進歩するかについては、さまざまな見方があるでしょう。まだそこまでには至っていませんが、その進歩には目を見張るものがあります。米国より中国のほうがやや進んでいますが、どちらでも進展しています。

——こうした変化は、インターネット革命やそれ以前の技術革命よりもはるかに速く起きるとおっしゃっています。具体的には、どれくらいの時間軸を想定していますか? 先ほど、すでに越えてしまったいくつかの境界線を挙げられましたが、あなたの見方では、こうした変化が不可避になるような、ある種の「臨界点」をすでに越えてしまったのでしょうか?

ビル・ゲイツ この点では、過去の事例は非常に誤解を招きます。多くの人が過去を根拠にして、「これまでのどんな技術も、雇用の純減をもたらしたことはない」と言います。それはそのとおりです。私自身、そういう話をしたことがあります。

しかし、私に少しでも信用があるなら、今回は違うと言わせてください。あらゆる産業の非常に多くの仕事で、人間の認知能力を、人件費に比べてごくわずかなコストで、しかも同じような時期に代替できるようになり、さらにエラー率も……おそらく人間より低くなる。そうなると、過去の事例はまったく参考になりません。現在の経済統計も、実態を非常に見誤らせるものです。

そして、懸念が表明されるとしても、せいぜい「データセンターを建設するな」といったものです。しかし、米国内のすべてのデータセンター建設を止めたとしても、私が話している問題は何一つ変わりません。データセンターは世界中で建設されるからです。AIについて懸念しているなら、データセンターへの抗議活動に参加することは、こうした悪影響をどう最小限に抑えるかという議論を始めるうえで、最も効果的な方法ではありません。石油会社の幹部に怒鳴ったところで、気候変動を解決できないのと同じです。

——エッセーでは、AIのコストだけでなくメリットについても触れていますね。そのメッセージのバランスをどのように考えていますか? また、読んだ人に少しは危機感を持ってほしいと思っていますか?

ビル・ゲイツ 危機感を持ってもらわないと困ります! 社会全体がこの問題に注意を払っていないと、私が誰よりも声高に訴えることになるとは思ってもみませんでした。ですが、必要なことだと思っています。

ですから、ネガティブな影響のほうがはるかに大きくなるのではないかと、私は非常に懸念しています。一方で、ポジティブな影響も確かにあります。ゲイツ財団ではワクチンや医薬品のイノベーションに取り組んでいますが、こうしたAIツールの活用は驚くほど進んでいます。私たちは、タンパク質レベルと細胞レベルのモデリングのためのデータを集める大規模なパブリックドメインの取り組みに参加していますし、スタンフォード大学の研究用バイオテクノロジーAIエージェント「Biomni(バイオムニ)」にも資金を提供しています。

ただ、AIによって政府の官僚機構とのやり取りを改善する仕組みは、まだできていません。AIは官僚的な手続きや複雑な規制関連の事柄を扱うのが非常に得意です。「少額訴訟を起こしたいので、手続きを手伝ってほしい」といったことですね。

ゲイツ財団からスピンオフした「NextLadder(ネクストラダー)」という団体があります。これは、今回のエッセーで取り上げたような低所得世帯の状況に大きく関係しています。どんな給付を受けられるのか? どんな職業訓練プログラムが利用できるのか? 「立ち退きを命じられた」「刑務所から出所するところだ」「破産申請をしなければならない」。こうしたことは非常に複雑ですし、その一つひとつについて大勢のアドバイザーを雇う余裕などありません。経済的に困難な状況にあり、政府や民間団体の支援を探す必要がある人にとって、AIは非常に優れたエージェントになり得るはずです。

——お話の中には、AIが人間よりも賢くなるという話も含まれています。特にテック業界では、AIが現在の段階をさらに超えていくことを当然視しているような雰囲気があります。AIが、データへのアクセスや分析、複雑な問題の処理に使う単なる「インターフェイス」ではなく、自ら意思決定し、何を分析すべきかを見つけ、研究そのものを考え出す存在になるまで、あとどのくらいだとお考えですか?

ビル・ゲイツ そうですね。最も高度な領域に目を向けて、「数学や物理学はどうだろう?」と考えることはできます。確かに、ウォーレン・バフェットのような仕事もあります。彼は13歳のころから企業の価値について「強化学習」を続け、80年以上たった今では膨大な暗黙知を持っています。ウォーレン・バフェットのような投資家をどう作ればいいのか、私たちにはわかりません。その知識の多くが暗黙的なものだからです。彼が学んだことをすべて記録してきたわけではないので、その学習の軌跡も残っていません。

つまり、人と協力して物事を成し遂げるにはどうすればいいか、といった複雑な暗黙的判断が必要な仕事があります。それをモデルに組み込もうとしている人たちもいます。確かに、そうした協働の能力はまだ十分ではありません。しかし、労働市場の50%については、「一生をかけた経験」が必要な仕事ではないとも言えるでしょう。たとえば電話営業、電話サポート、経理部門の仕事です。月末の決算を締めるときに、どの売上を計上し、どれを計上しないのか。この顧客には不良品が届いた。では、どの程度の値引きをするのか。それをどう記録するのか。そうした仕事は明確に定義されています。

明確に定義された仕事なら、AIのほうが安く、しかも優れています。もちろん、導入の仕方が間違っていた例や、データが適切でなかった例を目にした人もいます。ですから、ホワイトカラーの仕事のこれほど大きな割合が、AIにはるかに少ない金額を払うことでこなせると人々が気づくまでには、数年かかるかもしれません。

では、数学者でさえ新しく生み出された概念を理解できなくなるのはいつなのか? そういう議論は、私たちのような人間にとっては興味深いものです。MI …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【夏割】実施中!年間購読料20%オフ!
人気の記事ランキング
  1. The next big thing in hydrogen could be underground 足元に眠る天然水素、21世紀の「ゴールドラッシュ」が始まった?
  2. The role of the astronaut is in flux 人類はなぜ宇宙を目指すのか? 揺らぐ宇宙飛行士の役割
  3. Debates over AI consciousness are a trap 論説:AIの「意識」論争は何を隠しているか
MITテクノロジーレビューが選んだ、AIの10大潮流 [2026年版]

AIをめぐる喧騒の中で、本当に目を向けるべきものは何か。この問いに対する答えとして、MITテクノロジーレビューはAIの重要なアイデア、潮流、新たな進展を整理したリストを発表する。

特集ページへ
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る