KADOKAWA Technology Review
×
Bitcoin Has Avoided Tearing Itself Apart (for Now)

ビットコインの分裂は避けられるか

ビットコインがより有用な通貨になるために進化しようとしている。そこには、過去に物理的な通貨がたどった道のりと同じように、まだまだ乗り越えなければならない壁があるようだ。 by Jamie Condliffe2017.07.26

世界で最も人気の高い暗号通貨ビットコインは、数年にわたってある課題に直面していた。1秒間につき7件のトランザクションしか処理できないのだ。ビットコインが将来的には本当に有用な支払いシステムになりうるとしても、道のりはまだ遠い。この欠点を改善しようとする動きが、ユーザー間に大規模で危険な分裂を引き起こしている。

ビットコインのトランザクションに関する問題はよく知られているが、ビットコイン人気が高まり続ける中で、いまやその存在そのものを頓挫させかねない脅威が迫っている。 本誌でも以前指摘したとおり、ビットコインの1秒につき7件というトランザクションの処理能力は、既存の決済システムと比べると非常に貧弱だ。例えばVisaは1秒につき平均2000件のトランザクションを処理しており、決済が集中した場合で1秒につき最大5万6000件まで捌くことができる。

それでも、ビットコインを支えるソフトウェアをアップデートしてトランザクションの処理能力を上げることは可能だ。問題はビットコインの中心を担うユーザーコミュニティが、アップデートの方法をめぐって分裂を極めているということだ。この衝突は暗号通貨界隈の一部で「内戦」と呼ばれている。

現在、競合する提案が複数提出されている。1つはビットコイン改善提案第148号と呼ばれているもので、これは通貨の分裂(いわゆる「ハードフォーク」)を起こして、8月1日に2種類のビットコイン・トークンを出現させる可能性がある。もう1つはビットコイン改善提案第91号と呼ばれるもので、機能の改善としてはより控えめなものになるが、分裂は起きない。

148号提案の支持者たちは、ハードフォークのリスクがあるにしても、ソフトウェアをアップデートしてパフォーマンスを向上させることのメリットは大きいと考えている。一方で91号提案の支持者たちは、ハードフォークによってビットコインが分裂すれば、双方の通貨の価値が暴落しかねないと懸念する。

先週、ビットコインの採掘者たちは、91号提案を支持する意思を表明し始めた。支持率が提案の実行に必要な80%を超えたことで、現在このプロトコルはアクティベートされ、採掘者が利用可能な状態になっている。

それでもビットコインの未来はまだ決まったわけではない。第一に、採掘者たちは実際に自分たちが支持した91号提案によるソフトウェアを使う必要があるが、その調整が必要な採掘者は全体の51%にのぼる。第二に、今回91号提案が勝利したとしても、一部の評論家はまだ近い将来にハードフォークが起こる可能性はあると考えている 。トランザクションの課題を解決するために必要となるアップデートが、似たような状況を引き起こすかもしれないからだ。

とはいえ、恐らく最大の疑問は、ハードフォークが本当にそれほど深刻な問題なのかということだろう。ここで参考となる知見を紹介したい。AQRキャピタル・マネジメントのアーロン・ブラウン前社長は、ドルも含め物理的な通貨はすでにハードフォークを乗り越えてきたと主張している。「ハイパーインフレ、政府によるデフォルトや没収、敗戦などで通貨が蒸発するのは、貨幣というものの性質からすれば当然のことで、決して例外的な事態ではありません」とブラウン前社長は語る。「人々が通貨を使うのは、それが長く存続すると信じているからではなく、いま現在の取引を促進してくれるからです」。

つまり、人々はビットコインの分裂について非常に真剣に捉えているが、大局的にはそれほど影響はないのかもしれない、ということだ。

(関連記事:Bloomberg, “Technical Roadblock Might Shatter Bitcoin Dreams,” “The Looming Problem That Could Kill Bitcoin,” “Why Bitcoin’s $1,000 Value Doesn’t Matter”)

人気の記事ランキング
  1. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  2. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  3. Cancer vaccines are having a renaissance がん治療のルネサンス到来か、個別化mRNAワクチンの朗報続く
タグ
クレジット Photograph by KAREN BLEIER | Getty
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  2. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  3. Cancer vaccines are having a renaissance がん治療のルネサンス到来か、個別化mRNAワクチンの朗報続く
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る