さまざまな意思決定の大規模化に伴い、意思決定アルゴリズムの公平性の確保が喫緊の課題となっている。五十嵐歩美は、曖昧に使われがちな「公平性」という概念を数学的に定義し、数理に基づいたより透明性の高い迅速な意思決定手法を構築することにより、真に公平な社会の実現を目指している。
意思決定アルゴリズムによって生じた不公平については、これまでしばしば報告されてきた。たとえば、米国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まったとき、限りあるワクチンの優先順位を決定するためにスタンフォード大学が開発したアルゴリズムは、明らかに不適切なワクチン配分計画を作成してしまった。英国では、公平性の担保を狙って取り入れた成績予測アルゴリズムが、労働者階級やマイノリティに属する生徒に不利な評価を下すことが分かり、物議を醸した。
何を持って公平とするかは人によって異なり、全ての人が満足するような分け方を求めるのは必ずしも簡単ではない。しかも、意思決定が求められる多くの場面において、公平性を満たすだけでは十分ではなく、「効率性」との両立が求められる。例えば、ワクチン配分において、ワクチンを配分しないという決定は妬みが発生しないため、ある意味公平であるが、無意味だ。効率性とは、そのような意味のない解を除外し、必要なモノを適切な参加者に配分する性質のことを指す。
五十嵐は、公平性を保ちつつ、できる限り全ての人を幸せにする資源配分の方法を数理的に解析する「公平分割理論」において、数多くの研究成果を発表。公平性と効率性がどのような状況で両立可能かを理論的に解明している。特に、「コーヒーと紅茶はどちらか一方で良い」のような代替性がある状況で、近似的な公平性と効率性が両立可能であることを数学的に証明し、望ましい配分を達成するための高速なアルゴリズムを開発した。
資源配分の理論にはまだ課題が山積しており、特に、不可分財(整数単位でしか量れない複数の財)を配分する場合には完全な公平性を保証できないため、できるだけ良い公平性を担保できるかどうかが重要となる。五十嵐の研究成果は、今まで理論的な保証がなかった状況における公平配分問題において、適用範囲を大幅に拡大するための第一歩となった。
(中條将典)
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