気候変動の影響により、台風や大雨などの自然災害の被害がここ数年で拡大している。大規模な災害発生時に被害状況を速やかに把握する手段として注目されているのが、人工衛星を使った宇宙からの観測だ。中でも、「合成開口レーダー(SAR)衛星」は、昼夜や天候を問わず広範囲の地表を観測できることから、この分野での活躍が期待されている。SAR衛星で取得した画像を解析することで、被害状況を高精度かつ自動的に把握し、救助活動や復旧・復興計画の立案に活かせる可能性があるからだ。
ただ、1つの衛星が同じ地点を観測するには数日以上かかる。そのため、迅速な被害状況の把握には、異なる多数の衛星から取得した画像を解析する必要がある。
NECの研究員である戴 岑容(TAI TSENJUNG)は、SAR画像データに特化した画像解析AI(人工知能)を開発した。最大の特徴は、少ない訓練データから高精度な画像認識を実現した点だ。
一般的な画像認識で使われる深層学習では、大量かつ網羅的に用意した画像データを用いるが、特殊なセンサーのデータであるSAR画像の場合、事前に大量のデータを収集することが難しい。そこで、実際のSAR画像を模したシミュレーション・データを利用して識別的な特徴量を選択し、その知識を実際のデータのごく一部を参照することで適応させる「転移学習」の手法が使われる。
ただ、従来の転移学習は、シミュレーション画像と実画像の間で、さまざま物体の特徴の類似性を揃えることによって、物体を分類する知識を適応させる。SAR画像では、同じ物体でも観測角によって差異が大きくなる場合があるため、正確な画像解析の障壁になっていた。
戴は、シミュレーション画像と実画像の間の差異だけでなく、観測角によって生じる違いを考慮し、2次元画像から物体の3次元構造情報を学習して、観測角に応じた識別的な特徴量を予測する方法を考案した。観測角の変化と特徴量を関連づけることで、AIは少ない実画像データでカテゴリー内の特徴量のバリエーションを考慮し、分類の知識を正確に適応させることができる。
戴が考案した手法は、SAR画像の認識タスクにおいて、従来の手法と比較してエラー率の半減に成功。研究成果は、コンピューター・ビジョンやリモートセンシング分野のトップレベルの国際会議で採択された。
戴はまた、SAR画像解析の技術を、地上の防犯カメラの映像解析へ応用する研究も進めている。防犯カメラの位置や撮影範囲の調整を自動化することで、映像解析の導入や運用負荷を軽減できる可能性がある。
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