KADOKAWA Technology Review
×
12/16開催 「再考ゲーミフィケーション」イベント参加受付中!
生命の再定義

Organs on demand: 10 Breakthrough Technologies 2023 オンデマンド臓器

臓器移植を待ちながら、移植手術を受けられずに亡くなっていく人は多い。動物の臓器を移植する技術や、臓器の人工作成技術が実現すれば、臓器移植リストを過去の産物にできるかもしれない。

by Antonio Regalado 2023.03.06
Joe Carotta for NYU Langone Health
キープレイヤー
イージェネシス、マカナ・セラピューティクス、ユナイテッド・セラピューティクス
実現時期
10〜15年後

デービッド・ベネットという57歳の男性は2022年、ブタの心臓が胸の中で鼓動している状態で2カ月にわたって生き続けた。メリーランド大学の外科医らが実施したこの移植の目的は、遺伝子編集されたブタの心臓で人間は生きられるか確認することだった。

臓器移植を受けなければ生きられない人の数は、実際に臓器移植を受けられる人の数をはるかに超えている。世界では、毎年約13万例の臓器移植が実施されている。しかし、臓器移植を待ちながら亡くなっていく人や、臓器移植リストに登録すらできずに亡くなっていく人は多い。

可能性のある解決策の1つが、動物の臓器の移植だ。しかし、人体には動物の臓器を拒絶する仕組みが備わっている。この拒絶反応を乗り越えるのは簡単ではない。たとえば、人間の免疫系は、ブタの組織の表面に存在する糖を検知すると、攻撃モードに入ることがある。この免疫反応を抑える働きのある医薬品もあるが、十分ではない。そのため、バイオテック企業は、遺伝子編集を用いてブタに改変し、組織の表面の糖の分子をなくし、その他の遺伝子を挿入することで、ブタの臓器を人間の臓器に近づけた。

ブタのDNAを編集することで、より人体に適合する臓器を持つ動物をすでに作り出しているバイオテック企業は数社ある。ベネットは亡くなってしまい、移植された心臓からウイルスが見つかった。だが、ベネットの医師らは、ベネットに移植されたブタの心臓では、臓器の拒絶反応の典型的な兆候は一切見られなかったと主張している。現在、この医師らはさらなる患者を対象にした研究を計画している。

将来、動物を一切用いなくても臓器を作れるようになるかもしれない。初期段階ではあるが、研究者は、複雑な組織をゼロから作り出す方法を探索している。足場となる構造を肺の形に3Dプリントで作成している研究者もいる。また別の研究者は、特定の臓器に類似したものを作ろうと、幹細胞から「オルガノイド」という塊のようなものを培養しており、長期的には工場でカスタム仕様の臓器を培養できるようにすることを目指している。

臓器を動物の体の中で育てるにせよ製造工場で作るにせよ、無尽蔵に臓器を供給できるようになれば、より一般的に臓器移植ができるようになる。今よりはるかに多くの人々が体の部品を交換できるようになるかもしれない。

フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る