「3人の親」を持つ子、欧州で紡錘体移植による不妊治療が実施
スペインとギリシャの医師グループは、不妊症の女性とドナーの卵子とを組み合わせることで、不妊症の女性が妊娠したと発表した。物議を醸している体外受精(IVF)法の新しい成功例だ。
患者は過去にIVFを4回試みたものの妊娠できなかった、32歳のギリシャ人女性。医師がこの女性の卵子のDNAをドナーの卵子に注入してから受精させ、妊娠に成功した。
ヌーノ・コスタ-ボルゲス博士によると、女性は現在妊娠27週目。コスタ-ボルゲス博士はバルセロナにあるエンブリオツールズ(Embryotools)の共同創業者で、アテネ生命研究所(Institute of Life)のIVF医師グループと共同で研究している。
今回のIVFは卵子提供に似たもので、提供される卵子が必要だが、通常の卵子提供と異なる点は胎児が母親と血縁がある点だ。「血縁」は不妊に悩む若い女性を助けるのに、重要なポイントになるかもしれない。
「若い女性が卵子提供を必要するには障害があるからです。しかし障害は女性たちに大きな精神的ダメージを与えます」とコスタ-ボルゲス博士はいう。
今回のIVFは、3人の親を持つ赤ちゃんなのだろうか? 確かにしばしばそう言われている。ドナーの卵子が胎児にドナーのミトコンドリアを与えるからだ。ミトコンドリアはエネルギーを作り出し、独自の遺伝物質を持つ。 しかし「3人の親を持つ」とは言ってほしくない、とコスタ-ボルゲス博士は訴える。今回の手法は「紡錘体移植(spindle transfer)」と呼ばれ、過去には母親の持つ遺伝性疾患が生まれてくる子どもに引き継がれないようにするために使われれてきた。今回のように不妊症の治療に使われるのは珍しい。
紡錘体移植は最初に動物実験を実施したオレゴン健康科学大学のシュークラト・ミタリポフ教授によって開発された。だが、2015年に米国議会は米国内での使用を禁止している。
そのため紡錘体移植は、その後すべて米国以外で実施されている。紡錘体移植による最初の赤ちゃん誕生は、2016年にメキシコで研究していた米国人チームによって発表された。それ以降、ウクライナの診療所が関連手法を使って数人の赤ちゃんを誕生させている。紡錘体移植を提供していた米国人の張鋒(ジョン・チャン)医師は、その後米国食品医薬品局(FDA)から宣伝広告をやめるように警告を受けている。
何が物議を醸しているのだろうか? 奇妙で新しいもの、特に出産や妊娠に関係することは人々から倫理面で反対されることが多い。オックスフォード大学の倫理学者らはこの新しい事例について報告し、近年持ち上がった多くの反対意見をリストアップした。エンブリオツールズはマウスなどの動物で数年間にわたってこの手法を実験してきたと述べてはいるが、人を誕生させる新しい方法が本当に安全かどうかを証明するのは難しい。