KADOKAWA Technology Review
×
Tesla Announces New Sensors and Puts the Brakes on Autopilot

テスラはなぜ自動運転機能の提供を当面見合わせることにしたのか?

新型テスラの全車に、自動車の完全自律化に必要だとイーロン・マスクCEOが主張するハードウェアが装備される。だが、当面その能力は封印される。 by Jamie Condliffe2016.10.21

テスラは、今後製造するすべての自社製自動車に「全自動運転に必要なハードウェア」を装備することを発表した。だがテスラは自律運転ソフトウェア「オートパイロット」の開発ペースを落とすことも同時に発表した。

間もなく発売される手ごろな価格の電気自動車テスラ モデル3など、新型テスラの全車は、以前のモデルより多くのセンサーを搭載する。最も大きく変わったのはカメラシステムだ。従来のカメラはバックミラーの裏に1台取り付けられていたのに対し、この車は車体を取り巻くように8つ装備され、360度の視界がある。

他の部分のセンサーは、追加ではなくアップグレードされた。車を取り巻く超音波センサーは検出距離が約500メートルに伸び、前方レーダーシステムも1台装備されている。これらのセンサーが取得したデータを処理「テスラ・ニューラルネット」システムを実行するエヌビディアのTITAN GPUを備えたコンピューターは、従来モデルに使用されているハードウェアの40倍高速だという。

車載カメラシステムの強化を決めたのは興味深い選択だ。今年になって発生したオートパイロットが関連するテスラ車の死亡事故の余波で、イーロン・マスクCEOはテスラの自動運転ソフトウェアの機能改良の一環としてレーダーシステムをより重視することを決めたと語った。「オートパイロットの最も重要な改良は、車載レーダーで実世界の画像を作るために、より先進的な信号処理を採用したこと」だとテスラは発表した

7台のカメラを追加する一方でレーダーシステムをほとんど変更しないのは、この方針に反しているように見える。ある業界筋によれば、ライダー(LIDAR:レーザーによる画像検出・測距)センサーの方が光学カメラ+レーダーセンサーより安全性が高い可能性があり、今回の新製品発表にレーダーが入っているかもしれないが、イーロン・マスクCEOはライダー嫌いを公言してきた。「私はライダーがあまり好きではありませんし、特にこの用途で意味があるとは思えません」とマスクCEOは以前に語った

だが、おそらくこの改良で最も目立つポイントは、新しいセンシング・テクノロジーを満載しているにもかかわらず、この車は当初はオートパイロット機能を全く提供しないことだ。

新しいハードウェアで可能になる機能を有効化するのは、当社が何百万kmもの実世界での運転データを使ってシステムをさらに調整した後になります。調整作業を進めている間、新しいハードウェアを装備したテスラ車では、第1世代のオートパイロット・ハードウェアを装備するテスラ車で現在ご利用いただける一部の機能は、一時的にご利用になれません。

つまり、もし近い将来、新型テスラを販売店から購入すると、現在テスラ車に乗っている人は使用できる緊急ブレーキやアクティブ・クルーズ・コントロールのような機能が使えないのだ。そのかわり、これらの機能は将来のある時点でソフトウェア更新により提供される。これでは、現在のオートパイロット・ユーザーをモルモットにすることになり、テスラは将来もソフトウェアの安全性を確認するためならいくらでも時間をかけられることになる。この決定の意図は、テスラでの自動運転技術の開発ペースを落とすことにあるのかもしれない。余りにも早過ぎるペースは危険だと過去に批判された

それでも、イーロン・マスクCEOは社内試験で自社の自動車の能力の限界を広げることに熱心だ。今回の発表とともに、テスラは自社製の自動車が郊外の道路や高速道路、テスラの駐車場を自律的に走行する映像を見せた。実際、イーロン・マスクはテスラ車を2017年末までにはロサンゼルスからニューヨークまで自律運転させると約束した。テスラ車のオーナーが同じことができるようになるまでに一体どれだけ待たされるのかは、まだわからない。

(関連記事:Tesla, The Wall Street Journal, “Tesla’s Strategy Is Risky and Aggressive, but It Has Worked,” “Pay Attention! Tesla’s Autopilot Will Lock Out Lackadaisical Drivers,” “Tesla’s Biggest Edge in Chasing Autonomy Is Treating Drivers Like Guinea Pigs”)

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
タグ
クレジット Image courtesy of Tesla Motors
ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る