KADOKAWA Technology Review
×
Uber’s Bumpy Ride in China

ウーバーが作り出す、シェアリングエコノミーの勝者と敗者

中国のウーバー・ドライバーは1日100万件の乗車をこなし、顧客を喜ばせる一方で、従来のタクシードライバーを廃業の危機にさらしている。 by Yiting Sun2015.09.28

天津で畜産農業の会社で管理職を務めるドンさんは毎朝5時に起床し、ウーバーのアカウントにログインする。7時に会社へ向かうまでに、ドンは自分のビュイック(GMの中級車)で市街地を3、4回巡っている。午後6時に退勤した後も、ドンは9時まで運転を続ける。週末の朝には、正午までに10件も予約が入るほどの需要がある。

In China, drivers for local firm Didi Kuaidi and Uber both compete with traditional taxi drivers.
中国では、現地企業嘀嘀快的(現在の滴滴出行)とウーバーのドライバーが従来のタクシードライバーと競合している。

「今現在、多くの人がオンライン配車サービスを利用しています」と、会社に副業がバレる危険を避けるため、下の名前だけを明かした38歳のドンさんはそう語った。ドンはウーバーのドライバーをすることで毎月のガソリン代1000元(156ドル)をまかなう他、毎月800~1000元(125~156ドル)の副収入を得ている。

ウーバーの法的立場はグレーゾーンだ。オンライン配車サービスはいずれ規制されるとの見方が強まっている。

ウーバーのCEOによると、中国におけるウーバーの利用件数は1日あたり約100万件にものぼる。中国での立ち上げから2年足らずで、同様のサービスを提供する現地企業嘀嘀快的(滴滴出行)との熾烈な競争が起きている。嘀嘀快的の企業報告によれば、自家用車による乗車サービスの1日あたりの需要は今年5月から約3倍に増加して300万件になり、従来のタクシードライバーの反感を買っている。

100万件
中国のウーバードライバーが1日で提供している乗車件数

それでも中国の都市ではある意味、テクノロジーによる輸送革命に向けた機が熟しているようだ。都市部の道路はごった返している。中国政府の統計によれば、自家用車は2014年末時点で約1億2600万台で、前年比15.5%も増加した。2014年にTomTom Traffic Indexで発表された世界の過密都市トップ50では、その3分の1が中国の都市だった。自動車以外の通勤手段も辛いことに変わりはない。ラッシュアワーの時間帯にぎゅうぎゅうに混み合った北京の地下鉄に乗り込むにはまず、満員電車を何本かやり過ごさなければならない。

中国政府国務院(日本の総理府に相当)は 運輸業をオンラインプラットフォームによる効率性の改善が見込める分野と捉えているが、ウーバーの法的立場は曖昧なままだ。ウーバーのドライバーは自家用車のドライバーと見なされ、登録料、付加価値税、所得税など、従来のタクシー事業者が支払ってきたコストを全く払っていない。ウーバーのドライバーは、空港や駅など、警官が多くいる場所へは近づかないようにしているという。もし捕まってしまうと、最大1万元(1564ドル)もの罰金を払わねばならない。 最近では、オンライン配車ビジネスにはいずれ規制がかかるとの見方が強まっている。

ウーバーも手をこまねいているわけではない。新しく立ち上げた乗車シェアサービス、ウーバー・チャイナは、2016年中に国内100都市で事業を展開する計画を立てており、うち少なくとも半数を人口500万人以上の都市とするという(ウーバー・チャイナは現在、人口約1400万人の天津をはじめとする11都市で営業中)。また、ウーバーは 2015年内に70億元(11億ドル)の資金を中国に投入するとしている。

しかし、中国に137万人いる従来のタクシー・ドライバーはすでに行動を起こしている。今年5月、何十台ものタクシーが天津のオリンピックスタジアム周辺の道路を塞ぎ、ライドシェアアプリで自家用車で営業するドライバーをおびき寄せた。ドライバーが現場に着くとすぐに、両者の争いが始まった。

「少し気落ちしています」と48歳のタクシードライバー、ルー・リーファンは「もし政府が自家用車による輸送サービスを規制してくれないなら、私の職業はいずれ消えてしまうでしょう」という。ルーの他のタクシードライバーは、収入の低下についても不満を口にした。47歳のワン・ホンヨンの1日あたりの稼ぎは2014年に比べて150元(23ドル)減り、「疲れも増しています。仕事の合間に休憩を取らなくなったんです」という。

ウーバーのドライバーの大半の本業は、運転ではない。ほとんどはドンさんのように、副収入を得るためにドライバーをしている。天津の保険会社に務める32歳のシン・ガオさんは、1月からウーバーの依頼を全く受けていない。乗車完了ごとにウーバーから支払われる報酬が、なしも同然の金額に値下げされたからだ。2014年までは1件の輸送につき30元の報酬が保証されていた。

「ウーバーはドライバーがどこまで耐えられるか試したいんですよ。どこまで安い値段設定ができるのか、ドライバーが辞めてしまうラインはどこなのかってことをね」

人気の記事ランキング
  1. A long-abandoned US nuclear technology is making a comeback in China 中国でトリウム原子炉が稼働、見直される過去のアイデア
  2. Here’s why we need to start thinking of AI as “normal” AIは「普通」の技術、プリンストン大のつまらない提言の背景
  3. The US has approved CRISPR pigs for food CRISPR遺伝子編集ブタ、米FDAが承認 食肉として流通へ
クレジット Photo by Zhang Peng | LightRocket via Getty Images
イェティン サン [Yiting Sun]米国版
現在編集中です。
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る