サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません
オープンAIのアルトマンCEOは、AIが気候変動の問題を解決し、人類に繁栄をもたらすと主張している。だが、AIの電力需要は温室効果ガスの排出を増加させており、自社が関与する技術で問題を解決できるとするのは傲慢な考えだ。 by James Temple2024.10.02
オープンAI(OpenAI)のサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は、9月23日に公開したエッセーで、人工知能(AI)の急速な能力向上はすばらしい「インテリジェンスの時代」を到来させ、「想像を絶する」繁栄と、「気候問題の解決」のような「驚くべき勝利」をもたらすと主張した。
だが、そんな約束は、誰にもできない。そして気候変動のテーマに関して言えば、問題の本質を根本的に誤解している。
さらに厄介なことに、アルトマンCEOの主張は、AIテクノロジーが電力を大量に消費している今日の問題は無視しても構わないという態度の表明でもある。将来的にはAIテクノロジーによって大量の低炭素電力を発電できるようになるのだから、問題にはならないということだろう。天然ガス発電所の建設計画を加速させ、大手テック企業を気候変動目標から遠ざけているAIテクノロジーに対する懸念の高まりを、アルトマンCEOは平然と無視しているのだ。
電気自動車(EV)の充電、グリーン水素の製造、冷暖房装置、その他の低炭素テクノロジーのニーズの高まりに対応するため、世界がより大規模でクリーンな電力システムの構築に奔走する中、どう考えてもAIのエネルギー需要は増加の一途をたどるだろう。アルトマンCEOは、ホワイトハウス(米大統領府)の政府関係者と会談し、原子力発電所5基分に相当する電力を必要とする非常に大規模なAIデータセンターの建設を訴えたと報じられている。
技術的進歩が真の利益をもたらし、有意義な形で社会の進歩を加速させるというのが、MITテクノロジーレビューの根幹を成す考え方だ。しかし、何十年もの間、研究者や企業は、AIが大型医薬品(ブロックバスター)を生み出し、スーパーインテリジェンス(超知能)を実現し、人類を労働の必要性から解放する可能性を過大評価してきた。もちろん、大きな進歩もあったが、大げさに宣伝されているほどのものではなかった。
このような経緯を踏まえると、AIが貧困の蔓延や地球温暖化といった人類にとって最も厄介な問題を解決できるという主張に信憑性を持たせるには、記事を盗用したり学生が宿題でカンニングしたりするのを助けるだけではない、それ以上のツールを開発する必要があるだろう。
確かに、AIは世界が気候変動の危険性の高まりに対処するのに役立つかもしれない。送電網をより効率的に管理したり、山火事を早期に鎮火したり、より安価な次世代電池や太陽光パネルの開発につながる材料を発見したりしようと、研究グループやスタートアップ企業がAIテクノロジーを活用し始めている。
こうした進歩はすべて、まだ比較的漸進的なものだ。しかし仮に、AIがエネルギーの奇跡をもたらすとしよう。ひょっとすると、AIの優れたパターン認識能力が、アルトマンCEOが投資家として多額の投資をしている「核融合」による発電をついに実現させる重要な知見をもたらすかもしれない。
そうなればすばらしいだろう。しかし、技術的進歩は出発点に過ぎない。世界の温室効果ガスの排出をなくすために必要ではあるが、決して十分ではない。
なぜそうだとわかるのか? それは、核分裂発電所、太陽光発電所、風力タービン、電池など、電力部門のクリーン化に必要なテクノロジーはすでに揃っているからだ。それは、エネルギー転換において最も簡単に実現できるはずの目標なのだ。しかし、世界最大の経済大国である米国では、いまだに化石燃料による発電が総発電量の60%を占めている。いまだに多くの電力が石炭、石油、天然ガスでまかなわれているのは、技術的な問題であると同時に、規制の失敗でもある。
「大気をごみ捨て場として利用することを許可することで、化石燃料の利用を事実上助成している限り、クリーン・エネルギーは公平な土俵で競争することができません」。独立研究機関バークレー・アース(Berkeley Earth)の気候科学者であるジーク・ハウスファーザー博士は、アルトマンCEOの投稿への応答としてXに書き込んだ。「気候変動目標を達成するためには、技術的ブレークスルーだけでなく、政策の変化が必要なのです」。
依然として解決しなければならない大きな技術的問題がないわけではない。クリーンでコスト競争力のある農作物の肥料や飛行機の燃料を開発するのに苦労し続けているのを見ればわかるだろう。しかし、気候変動の根本的な課題は、サンクコスト(埋没費用)、開発の障害、そして惰性である。
私たちはこれまで、化石燃料を使う発電所、製鋼所、工場、ジェット機、ボイラー、給湯器、ストーブ、SUVに何兆ドルも投資して、温室効果ガスをまき散らす世界経済を構築してきた。そして、そうした製品や工場が機能する限り、その投資を喜んで帳消しにしようとする人や企業はほとんど存在しない。AIがより良いアイデアを生み出すだけでは、すべてを改善することはできない。
現在必要とされているスピードで世界中のあらゆる産業の機械を撤去し、入れ替えるためには、よりクリーンな工場、製品、慣行への転換をすべての人に促す、あるいは強制する、ますます積極的な気候変動政策が必要となるだろう。
しかし、法律の厳格化や新しい大規模な風力発電所や太陽光発電所の建設が提案されるたびに反発が起こる。その計画が誰かの財布に打撃を与えたり、誰かの視界を遮ったり、誰かが大切にしている地域や伝統を脅かしたりするからだ。気候変動はインフラの問題であり、インフラの建設は人間の厄介な取り組みである。
技術の進歩は、このような問題の一部を緩和することができる。レガシー産業に代わるより安価で優れた選択肢は、困難な選択をより政治的に受け入れやすいものにする。しかし、NIMBY主義(日本版注:「Not In My Back Yard(必要性は分かるけどわが家の近くはやめてくれ)」)の課題、人間同士の利害の対立、手つかずの大自然の中で新鮮な空気を吸いたいという願望などを解決するような、AIのアルゴリズムや基礎となるデータセットの改善は見られない。
たった一つのテクノロジー、それもたまたま自分の会社が開発しているテクノロジーが、人間社会におけるこうした厄介な問題を奇跡的に解決することができると主張するのは、少々考えが甘いのでないとしたら、少なくとも利己的である。そして、そのテクノロジーの発展が、世界で始まった気候変動対策のわずかな前進を台無しにする恐れがある時点で、そのような宣言するのは問題だ。
現時点で、生成AIについて私たちが自信を持って言えることは、私たちが解決しなければならない最も難しい問題を、より解決しにくいものにしているということだ。
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- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。