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どこからが「宇宙」か答えられますか?
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どこからが「宇宙」か答えられますか?

空と宇宙の境界は曖昧だ。各国は自国の領土の上の空について領空権を主張する一方で、宇宙には主権が及ばないと考えている。結局、空と宇宙の境界線をどこに設定するかは、それぞれの思惑によって定まるが、民間宇宙旅行を計画している企業にとってはビジネス上の重要な問題となる。 by Konstantin Kakaes2019.07.02

すべての地理的な境界線と同様、地球と空の境界も曖昧だ。海と陸の間の境界線が潮汐や波で変化するのと全く同じように、大気の厚さも日によって異なる。

物理的にも技術的にも限界は存在する。上空へ行くほど、空気は薄くなり、気圧は下がる。もし、与圧なしで高度20キロメートル近くまで上がったら、肺の中の血液が沸騰してしまうだろう。高度20キロは、民間航空機が飛行する高さのおよそ2倍の高さだ。ただし、最も高性能の航空機はこの高度の2倍近くの高さを飛行したことがあり、気球は高度50キロメートル以上に達している。

結局、地上の国境と同じように、自然的な特徴は政治的な決定が帰結する溝でしかない。各国は自国の領空における主権を主張している。他国の領土の上を飛行することは歓迎されないことであり、国際法に違反する。しかし、旧ソ連の人工衛星であるスプートニクが米国の上空を最初に飛行した時に撃墜されなかった事実から、主権は宇宙にまで拡大されないということが広く受け入れられている。

旧ソ連の時代から、ロシア(加えて他の国も)は明確な境界を国連で主張してきた。明確な合意に達することができれば、海抜100キロメートル、110キロメートル、あるいはどこでも好きな高さでいいと言ってきた。一方で米国は、長い間こうした取り組みを阻止してきた。高高度偵察飛行や極超音速ミサイルなどでは、戦略的な曖昧さが望ましいと米国政府は考えているからだ。

1960年代以降、米国空軍は、高度50マイル(メートル法だと80.4672キロメートルという分かりづらい高さ)以上を飛行した人物全員に宇宙飛行士の記章(バッジ)を与えてきた。米国連邦航空局(FAA)は、高度50マイル以上を飛行した民間パイロットに、民間向けの宇宙飛行士の記章を授与している。米国航空宇宙局(NASA)も現在、この高度を認めている。しかし、高高度飛行の世界記録を認定している国際航空連盟(FAI:World Air Sports Federation)は、空と宇宙の境界を100キロメートル(62.1371マイル)に設定している。空と宇宙の境目に旅行者を短時間連れて行くことを計画しているヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)やブルーオリジン(Blue Origin)にとって、境界線がどう引かれるかは、ビジネス上の観点から非常に重要であることは間違いない。「ほぼ宇宙」に到着するために何十万ドルも支払いたいと思う人はいないからだ。

1374km ジェミニ11号で、1966年にピート・コンラッドとリチャード・ゴードンによって達成された。月探査ミッションを除くと、人類がこれまでに達した最高の高度。
400km 国際宇宙ステーション(ISS)の高度。かつてはスペースシャトルが到達できるように現在より少し低い高度で周回していた。2011年に現在の軌道にまで高度を上げた。
322km この高度で周回している人工衛星は、人工的に加速されない限り、およそ1カ月以内に大気中で燃え尽きる。燃え尽きるまでの正確な時間は人工衛星の大きさと質量および大気変動によって異なる。
315km ユーリイ・ガガーリンが1961年に世界初の有人宇宙飛行を達成したときに地球周回軌道で達した最高高度。
161km この高度で加速を止めた人工衛星は、約1日で大気抵抗によって地球に落下する。
112km ヴァージン・ギャラクティック(Virgin Galactic)の実験機スペースシップワン(SpaceShipOne)が2004年に達した最高高度。同機は「アンサリ・Xプライズ」(Xプライズ財団主催の有人弾道宇宙飛行を競うコンテスト)で、宇宙に到達した民間初の宇宙船となった。
100km 国際記録を認定する国際航空連盟(World Air Sports Federation)によれば、この高度から上が宇宙となる。時期と場所によって異なるが、空気が飛行を支えられる高度は80~100km。
89.9km 旅行者を宇宙へ送り出すことを目的とするヴァージン・ギャラクティックのスペースシップツー(SpaceShipTwo)がこの記事の執筆時点で達成している最高高度。
80km 米空軍、米連邦航空局 (FAA)、米航空宇宙局(NASA)が宇宙飛行士記章の授与時の定義として用いている空と宇宙の境界の高度。これは国際機関が定める高度とは異なっている。
41.4km 2014年にアラン・ユースタスが樹立したスカイダイビングの世界最高高度記録。
26km SR-71をはじめとする超音速・高高度戦略偵察機における最低高度。
11km 民間ジェット旅客機の平均的な巡航高度。
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