エネルギー省長官にペリー元知事内定は、どれくらいぶっ飛んだ話なのか?
エネルギー省長官に内定したリック・ペリーは、気候変動懐疑派で、以前はエネルギー省を廃止するべきと主張していた。一方で、テキサス州知事時代には再生可能エネルギーを活性化させた人物でもある。 by Jamie Condliffe2016.12.14
ドナルド・トランプはリック・ペリーをエネルギー省長官に任命するつもりだ。著名な研究者ばかりが指名されてきた役職に、前テキサス州知事が任命される決め手はなんだろうか?
ペリー元テキサス州知事の米国エネルギー省長官就任は、皮肉な話だろう。というのも、2011年大統領選の討論会で、廃止すべき連邦政府機関を3つ掲げた件で質問され、ペリー候補(当時)自身が廃止を主張したエネルギー省を思い出せなかった逸話は有名だ。
エネルギー省の権限は幅広く、米国の核兵器貯蔵庫の管理や放射性廃棄物処理への対応、エネルギー研究に関する幅広いプログラムの運営などの役割を担っている。したがって、エネルギー省長官のポストが近年、高い知性を持つ実務家タイプに任されていたのは当然だ。オバマ政権の2009年から2013年に長官を務めたのはスタンフォード大学の物理学者でノーベル物理学賞受賞者のスティーブン・チュー。現職は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の原子物理学者だったアーネスト・モニツが長官を務める。チューとモニツ以前のジョージ・W・ブッシュ政権時代でも、MITで化学工学の博士号を得たサミュエル・ボドマンが長官を務めた。
一方で、ペリーはテキサスA&M大学で獣医学の学士号を取得して卒業した人物だ。
ブルームバーグの報道によれば、MITで船舶工学を専攻し、ジェイ・マーティン・コーエン元海軍准将が、エネルギー省次官(核安全保障担当)に起用されるという。しかし、ペリーが環境問題やエネルギー研究にどういった見解を示しているかは、定かではない。ペリーは以前の多くのテキサス州知事と異なり、石油産業に従事した経験はないが、政策としては化石燃料の採取を強く推進してきた。
気候変動に関するペリーの見解は、一般的な科学的世論とは正反対だ。2011年に大統領選へ出馬した際の主張では、「地球温暖化の問題が政治的な扱われ方をしています」と述べ「相当な数の科学者がデータを改ざんし、自分たちのプロジェクトに資金が舞い込むように仕掛けている」のではないか、と付け加え、気候は地球が始まって以来、変わり続けているものだ」とも述べた。
興味深いことに、ペリーはテキサス州知事時代に風力発電の大ブームを支えた。ペリーの前任のテキサス州知事ジョージ・W・ブッシュは、州の電力市場自由化を図る法律を成立させ、再生可能エネルギーが飛躍するきっかけを作ったが、インフラはペリー時代に建設され、現在ではほぼ1万8000メガワットに及ぶ電力を風力で発電できる。
テキサス州が再生可能エネルギーで成功を収めているのは、70億ドルにも及ぶ送電網への投資が主な理由だ。巨額の投資がなければ、テキサス州は発電所から次々と量産されるエネルギーを使えるはずもない。事実、インフラはペリーが後押しするような分野にも思われる。2001年にペリーが提案した、トランス・テキサス・コリダー計画では、1450億ドルをかけて交通網を整備し、道路や鉄道、データ回線をオクラホマ州からメキシコまで結ぶ予定だった。ペリーはこの計画で、複数の民間業者に経営を委託し、資金調達も一部任せるつもりだったが、最後まで着手できなかった。
研究に関しては、エネルギー長官として、ペリーはエネルギー研究に必要な財源の再編に手を焼くことになる(遂行はできるだろうが)だろう。特に、エネルギー省が運営する研究プログラム「ARPA-E」は新たなテクノロジーに投資しており、トランプ政権では不遇な状況に置かれるかもしれない。2009年以降、米国エネルギー省は475件のプロジェクトに13億ドルを投資したが、そのうち36件しか起業につながっていない。(結果として、民間企業による10億ドルの資金でエネルギー問題を抜本的に解決する方法を探った方が、ずっと効果的かもしれない)
運がよければ、インフラ好きのペリーはエネルギー分野で明るいニュースをもたらす可能性がある。たとえばの話ではあるが、新たな二酸化炭素貯留システムや核融合施設、または次世代原子炉を開発する研究への投資を決めるかもしれない。しかし、ペリーが投資をするとしても、地球への影響を気にしての行動とは決して言わないだろう。
(関連記事:New York Times, Bloomberg, “テキサスで大成功の風力発電 どこも真似できない例外事例,” “ビル・ゲイツが声をかければ10億ドルは集まるが、投資先はあるのか?”)
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クレジット | Photograph by Alex Wong | Getty |
- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。