KADOKAWA Technology Review
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Hearing Tests Could Be Vital Concussion Indicator

脳しんとうの診断、回復状況の診察を聴覚検査でできそうなことが判明

頭を打つと人の声を聞き分ける脳の能力が一時的に低下する、と研究者は考えている by Emily Mullin2016.12.23

In a study at Northwestern University, a boy listens to a series of sounds while electrodes measure his brain activity to help diagnose a concussion.
ノースウェスタン大学による研究で、少年が音を聞いているときの脳の活動を頭に電極を付けて測定し、脳しんとうの影響を診断している様子

人の言葉に脳がどう反応するかを検査することで、脳しんとうを診断し、患者の回復状況を追跡できるかもしれない。

ノースウェスタン大学の研究者が開発した検査法は、聴覚刺激を受けたときの脳の神経作用の検出が目的だ。脳しんとうの主な副作用に、音声を感知する能力の低下がある。頭部に打撃を受けると、一時的に人の話し声を聞き取る脳の処理能力が低下すると研究者は考えている。

ノースウェスタン大学聴覚神経科学研究所所長のニーナ・クラウス教授が率いる研究チームは、電極を使って脳内に発生する電気信号を測定する検査法を開発した。研究チームは子どもの頭蓋骨3カ所に電極を装着し、その状態で被験者が数分間いろいろな話し声の聴き取り、言語理解、特定の音を聞き分けられるかどうかを判定した。

研究チームの観察によれば、脳しんとうを起こしていない子どもと、5~56日前に脳しんとうを起こした子どもでは、脳神経の反応に違いがあった。検査は、脳しんとうを起こした被験者20人中18人を正しく特定し、健康な20人の対照群から19人を当てられた。子どもの頭部外傷が回復すると、音の高低を聞き分ける能力は正常に戻ったと研究論文は記している。

ただし、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部のマーク・ニューワ―教授(臨床神経生理学)は、この研究は脳しんとうを起こす前の被験者の聴覚処理能力の基準値を測定していないことに課題がある、という。基準値があれば被験者の聴覚処理パターンが正常かどうか確定する参考になったはずなのだ。ニューワ―教授によると、脳しんとう以外の外傷、薬剤の服用、疲労も脳の聴覚処理能力に影響を与える可能性がある。

初期段階の研究成果としては興味深いが、医療現場や事故現場で実際に脳を検査するのは現実的ではない。検査には脳波測定器が必要だが、高価であり、得られたデータを分析する作業は簡単ではない。

クラウス教授はチームとともに、新たに被験者の数を増やして再び研究し、検査の有効性を確かめるという。

米国疾病予防センターの発表によると、毎年外傷性脳損傷が原因の救急外来は200万人以上おり、5万人以上のアメリカ人が外傷性脳損傷で亡くなっている。外傷性脳損傷のかなりの割合は脳しんとうなどの軽度の外傷であるとみらる。現在のところ、医師は症状から脳しんとうと診断するしかない。CTスキャン(コンピューター断層撮影)を利用すれば、より深刻度の高い脳損傷の悪化を食い止められるが、脳しんとうの特定は無理だ。

若者とプロスポーツ選手両方に対して、脳損傷が与える長期的な影響を心配する声が高まっており、脳しんとうに対する世間の認知が広がり、よりよい診断法の研究に関心が寄せられている。子どもの脳しんとうは特に診断が困難なのだ。

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クレジット Photograph by Justin Barbin
エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。
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