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ズーム葬儀、バーチャル墓地——新型コロナで変わる「最期の別れ」
Thomas Kronsteiner / Getty Images
The lonely reality of grieving online during social isolation

ズーム葬儀、バーチャル墓地——新型コロナで変わる「最期の別れ」

新型コロナウイルスにより人々は死と直面することを余儀なくされている一方で、社会的距離戦略により、以前のように葬儀に参列して親しい人を失った悲しみをいやすことができなくなっている。 by Abby Ohlheiser2020.04.17

4 月6日に祖母が亡くなったとき、ロリ・パーロウは午後で会社を早退すると電子メールで同僚に知らせた。翌日、いつもの就業日と同様にコンピューターの前に座ってWeb会議アプリの「ズーム(Zoom)」を開いた。ただし、いつもと異なり、その目的は埋葬を見守ることだった。シヴァ(ユダヤ教の服喪期間)もなく、ハグしてくれたり、キャセロール(肉と野菜を煮込んだ料理)を持ってきてくれたりする隣人もいなかった。パーロウの悲しみは家に閉じ込められた。

パーロウはニュージャージー州の南部に住んでいた。祖母のシルビア・ワインガストはニューヨーク市ブルックリンで亡くなり、ロングアイランドで埋葬された。車で葬式に行くこともできたが、リスクが多すぎた。祖母の最期の日々に祖母の家に出入りしていた医療従事者に聞いても、祖母が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していたかどうかは分からないという。祖母はウイルスの検査を受けていなかったのだ。

社会的距離(Social distancing)を守るために10人しか葬儀への参列を許されなかったが、祖母には大勢の家族がいた。ライブストリーミングの映像を見ながら、パーロウは妙な気持ちになり、少し怒りを覚えた。仕事のオンライン会議に使われているものと同じプラットフォームで祖母の埋葬を見ることは、ユダヤ人虐殺を生き延びた祖母に対して非礼な行為のように思えた。埋葬の映像は慰めにならなかった。

「まるで映画を見ているようなのですが、自分がその一部なのです」とパーロウは言う。「埋葬に立ち会っている人々は、互いに近づかず、ハグすることもなく、マスク姿でバラバラに離れてその場に立っていました。奇妙です。本当に奇妙です」。彼女は何をしたらいいのか分からなかった。アップルケーキを焼いた。ツイッターで、祖母にはもっと立派な葬儀がふさわしいとつぶやいた。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な流行)によって、人々は死について考えることを余儀なくされたが、それと同時に、悲しみと喪失を体験する通常のやり方は根底から覆された。ズームでの葬儀、延期される葬式、バーチャルな別れの儀式が、ハグや通夜、手と手の握り合いに取って代わった。残された選択肢はオンラインで悲しむことだけだ。ライブ映像やオンラインの社会的つながりが役に立つこともあるが、悲嘆に暮れているときは誰もがそれとは別のものを必要とするのだと専門家は言う。他のあらゆることと同様に、私たちの新しい現実では、故人を悼むことが昔より難しい。

「キャセロールの嵐」が消えるとき

新型コロナウイルスのパンデミックが、オンラインの哀悼や悲しみを作り出したわけではない。フェイスブック・グループはすでに幼児を亡くして悲嘆に暮れている母親同士をつなぎ、ソーシャルメディアのプロファイルが墓碑代わりになっていることも多い。熱心なファンやゲーム愛好者など、結束が固く、オンライン率が非常に高いコミュニティでは、顔を合わせたこともない親友の死を悼むことに長い年月をかけて慣れていった。

ライブストリーミングも、すでに人々が死を悼む方法の一部になっている。新型コロナウイルスが大勢の人々をロックダウンに追い込むずっと前から、葬儀に参列できない人たちがいる理由はさまざまだった。ユダヤ教など一部の宗教では、死の直後に埋葬することになっている。そうした束縛がない場合でも、移動の制約により愛する人の葬儀に参列できない人々はずっと存在してきた。

「不法滞在者のコミュニティは長年にわたってこの現実に生きています」。親しい人の死を受け入れるのを支援する組織であるオーダー・オブ・ザ・グッド・デス(Order of the Good Death)の理事を務めるサラ・チャベスはいう。「死にゆく親に別れを告げることができない子どもたち、配偶者が亡くなり埋葬されるのをスカイプを通してしか見られない人々の悲劇は後を絶ちません」。バーチャルな哀悼は、直接会う機会が都会よりも少ない田舎で、あるいは自殺や薬物関連の死、殺人、幼児の死など、特定のタイプの喪失を悼む人々の間で悲しみの一部になっている。

だが、新型コロナウイルスのパンデミックによって、死に対処するすべての人が、人との触れ合いやつながり、コミュニティのサポートといった、死別者が一番必要とするものにアクセスできない可能性に直面している。そうした人々は、心理療法士であり、グリーフ・スペシャリストであるメーガン・ディバインが「キャセロールの嵐」と呼んでいる慰めの儀式を奪われる可能性が高い。人々が死と悲しみをより強く意識するようになった一方で、それを乗り越えようとする人々を手助けするのが難しくなったことは、パンデミックがもたらしたパラドックスだ。「以前なら得られたであろう支援は、今や消滅してしまいました」とディバインは言う。

祖母を亡くしたときにパーロウが慰めを得られなかったこともその1つだ。ユダヤ教徒の死別者にとって、服喪期間は通常、埋葬後の1週間であり、その間に肉親たちは共に故人を悼み、友人や親戚は故人の家を訪ねて弔意を表する。だが、新型コロナウイルスによって隔離生活が強いられているため、パーロウの家族は離れ離れに自宅にとどまるしかない。また、過越祭(ユダヤ教の宗教的記念日)が始まったことによって服喪期間が短縮された。「そもそも服喪期間の目的は死別者たちと共に時を過ごし、慰めを与えることです」とパーロウは言う。「祈ることはできます。誰でも、どこからでも祈ることはできます。でも、そこには慰めがないのです」。

「ちょっとした心遣い」

ヒューストンのブラッドショー=カーター葬儀場で葬儀ディレクターを務めるクレイ・ディッペルは彼なりにベストを尽くしている。数週間前、ディッペルは、数日おきに遺族に電話をして新しい制限について説明した。100人を予定していた教会の葬儀の参列者は、まず50人に制限され、さらに25人、それから10人にまで減らされた。最終的には近親者の一家族のみが参列を許されることになった。悲痛な思いがしたとディッペルは言う。

ディッペルの葬儀場では、実際、1年前に「ワンルーム」と呼ばれるライブストリーミング葬式のサービスを利用しはじめた。ブラッドショー=カーター葬儀場は、重篤な疾患やときには生命に関わる疾患を持つ州外の多数の患者を治療している巨大な医療機関であるテキサス医療センターのそばにある。ライブストリーミングはヒューストンから遠い場所に居る家族が何らかの方法で葬儀に参列するのに利用できる。新型コロナウイルス感染症による規制が緩和されるまで葬儀を延期するほかは、今ではライブストリーミングが唯一の現実的な選択肢となっているため、ディッペルは、この方法で遺族を手助けしようと尽力している。

4月10日にディッペルは火葬を手配した。故人の妻が参列するのは危険だったため、彼女はオンラインで葬儀を見守ることになった。ディッペルはスマホを手に持ち、墓地のわきで実施された葬儀のライブストリーミング映像を遺族に配信した。「スマホの画面で、家族が葬儀の様子を見ている姿が見えました。彼らはわざわざ上着とネクタイを着用して式に臨んでいました。それはちょっとした心遣いです。その心遣いが葬儀の葬儀たるゆえんなのです」。

チャベス理事とディバインは、ここ数週間、その種の心遣いがオンラインで広がるのを見ている。たとえば「どうぶつの森」というビデオゲームで、あるプレイヤーが自分の祖父母を弔うためのバーチャル墓地を作った。悲しみに暮れている人は、隔離された状態で死を悼む気持ちについて語るために、同様の悲しみを経験している人をオンラインで探しているのだとディバインは言う。二人とも、単なる埋葬や葬式の再現の試みを超える別の方法で、インターネットは死別者の助けになるという。

ズーム経由の葬儀は、本物の葬儀と同じには決してなり得ない。だが、ズーム経由の葬儀は死別の悲しみが辛い体験であることを認めるための空間を作り出せる。

「オンラインで悲しみを表現し共有することで経験を正常化でき、悲しみは辛いことだが他人と共有できる人間の通常の体験であることを示したいと思っています」とチャベス理事は言う。

ある意味で現在は、誰もが何らかの悲しみを体験している。もしかすると、隔離された状態で悲しむことは、思っているほど寂しいものではないのかもしれない。

悲しみに暮れる家族はこのような機会のために作られた新しい儀式を検討してみてはどうだろうかとディバインは言う。たとえば、社会的距離戦略が解除されたときにどうやって故人をたたえようかというアイデアを人々が出し合えるグーグル・ドキュメントの作成から始めてみてはどうだろう。あるいは、ビデオ会議を利用して一緒に料理をしたり、カクテルを共有したりして、故人を偲び、葬儀の計画を立てるのもよいかもしれない。

「古いやり方に頼ってもいいですし、自分が気にかけてもらっていることを実感してもらうためのツール、スキル、プラットフォームをこの機会に試してもいいです」とチャベス理事は言う。

一方でロリ・パーロウは、事態が正常に戻り始めたときに、祖母にふさわしい方法で家族で祖母を弔いたいと考えている。通常の葬儀と同じにはならないが、現状よりはましだろう。

パーロウは祖母の家の裏庭のバラの植え込みについて考えている。祖母の家に行って、バラを植え替えることはできるだろうかと。

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アビー・オルハイザー [Abby Ohlheiser]米国版 デジタル・カルチャー担当上級編集者
インターネット・カルチャーを中心に取材。前職は、ワシントン・ポスト紙でデジタルライフを取材し、アトランティック・ワイヤー紙でスタッフ・ライター務めた。
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