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スペースX、初の有人商業宇宙船を間もなく打ち上げ
SpaceX
This is SpaceX’s big chance to really make history

スペースX、初の有人商業宇宙船を間もなく打ち上げ

スペースXがNASAの宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船を間もなく打ち上げる。宇宙産業新時代の幕開けとなるビッグ・イベントだ。 by Neel V. Patel2020.05.27

5/28更新:米国東部時間5月27日午後4時20分、打ち上げは悪天候のため延期された。次の打ち上げ日時は、5月30日午後3時22分(日本時間5月31日午前4時22分)を予定している。

米国航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士ボブ・ベーンケンとダグ・ハーリーは、米国東部時間5月27日午後4時33分(日本時間5月28日午前5時33分)、国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングを目指して軌道に送り出される予定だ。ロケットの打ち上げ自体は、3つの重要な事柄を除けばめずらしいことではない。重要な事柄とは、第一に、米国人の宇宙飛行士が米国本土から宇宙へ飛び立つのはおよそ9年ぶりであること。第二に、宇宙飛行士が民間のロケットと宇宙船を使って地球低軌道に到達するのは史上初だということ。第三に、スペースX(SpaceX)が人間を宇宙に打ち上げるのは、同社創業以来18年間の歴史で初めてだということだ。

「デモ2(Demo-2)」と呼ばれるこのミッションは、フロリダのケネディ宇宙センターでの打ち上げから始まる。ベーンケン飛行士とハーリー飛行士は、スペースXの旗艦ロケット「ファルコン9(Falcon 9)」を使って打ち上げられる宇宙船「スペースXクルー・ドラゴン(SpaceX Crew Dragon)」に乗船してISSへ向かう。期間は、クルー・ドラゴンの状態とNASAがISSの運用支援に2人の飛行士をどれほど長く滞在させる必要があるかの判断によって変わるが、30日から119日の間になる予定だ。NASAは2人が軌道に乗るまで、滞在期間を決定しない。いずれにせよ、現在のクルー・ドラゴンの太陽電池は、120日以上の劣化に耐えられるように設計されていないため、119日間が上限となる。

クルー・ドラゴンのISSへの次のミッション「クルー1(Crew-1)」の開始日は、デモ2が地球に無事帰還してから設定される。日本人宇宙飛行士1名と米国人宇宙飛行士3名を宇宙へ送るクルー1では、軌道上に210日間滞在できるように設計されたクルー・ドラゴンを使用する予定だ。

2011年7月21日にスペース・シャトルが最後に飛行して以来、NASAは米国本土から人間を宇宙に打ち上げていない。最初はISSへの貨物補給ミッション、次は商業乗員輸送プログラム(CCP:Commercial Crew program)による宇宙飛行士の飛行と、これまでの計画でNASAは地球低軌道のミッションを常に民間に委託してきた。NASAは必要な有人宇宙船を建造するためボーイング(Boeing)、スペースXと大型契約を結び、2017年までに有人宇宙船を稼働したい考えだった。

その間NASAは、ソユーズ宇宙船を使ってISSへ宇宙飛行士を運ぶため、ロシアに40億ドル以上を支払った。だが、予定に遅れが生じたため、NASAはソユーズの追加使用料の支払いを余儀なくされた。ある時点では、20年間の歴史で初めてISSが無人になる異例の事態が起きる可能性が浮上していた。この10年間の巨額の財政負担と米露関係の悪化によって、ソユーズの使用中止を求めるNASAへの圧力は高まっている。デモ2ミッションが成功すれば、NASAは現在よりも望ましい有人宇宙飛行計画の新しい選択肢を手に入れられるわけだ。

スペースXとボーイングのプロジェクトが、予定通り進んだことはほとんどない。スペースXは主要な試験をすべてクリアしたものの、2019年4月に最大の挫折を経験した。宇宙船が無人の試験飛行に成功したわずか1カ月後に発射台の火災によって1機のクルー・ドラゴンが焼失した。この事故により、デモ2の打ち上げは最終的に2020年までずれ込んだ。一方、2019年12月、ボーイングの宇宙船「スターライナー(Starliner)」の試験飛行では、多くのソフトウェアの不具合が原因でISSへ到達できなかった。ボーイングは、このミッションを秋以降にやり直す予定だ。

とはいえ、27日のミッションはスペースXと商用宇宙産業の両方にとって大きな飛躍だ。スペースXのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は、いつの日か同社で開発中の完全再使用型宇宙船「スターシップ(Starship)」で火星に人類を送り込み、持続可能な惑星間輸送システムを確立したいと考えている。クルー・ドラゴンはスペースXを有人宇宙飛行企業にする道のりの第一歩であり、宇宙船自体は今後数年のうちに民間宇宙飛行士や観光客を輸送するミッションに就航することが期待されている。成功すれば、クルー・ドラゴンとスターライナーの初の有人ミッションは、民間による宇宙飛行が技術的に可能であることを実証することになるものの、両社はビジネス事例を作る必要がある。

商業乗員輸送プログラムは、NASAが民間企業が宇宙飛行に参入する機会を開く無私無欲の行動ではなく、コストを削減する手段でもある。スペース・シャトルの全盛期には1回のミッションに18億ドル(2020年のドル換算)近くの費用がかかっていた。現在NASAは、クルー・ドラゴンのミッション1回につき宇宙飛行士1人あたり5500万ドルをスペースXに支払っている。惑星協会(Planetary Society)の最近の分析では、NASAがクルー・ドラゴンとスターライナーの打ち上げにこぎつけるために投資した金額はわずか66億ドルとしている。NASAが地球低軌道の輸送用に自前で宇宙船を開発するのに必要とされる費用よりはるかに安い。その代わり、NASAは宇宙探査などの目標を再び月に戻し、最終的には火星への飛行を目指す深宇宙に関するアーキテクチャー開発にリソースを集中投下している(この計画もまた予定よりはるかに遅れている)。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な流行)の最中にデモ2を継続するNASAとスペースXの決定には少なからず批判がある。批判の急先鋒に立つロリ・ガーバーNASA元副長官は、4月にアトランティック(Atlantic)誌にこう語っている。「我々が20年間にわたって訪れていた同じ場所に、2人の宇宙飛行士を送り込むため、多くの人々の命を危険にさらしてまで優先的に実施すべきかどうか、私にはよく分かりません」。

パンデミックの影響でNASAのプロジェクトの多くが停滞したり、完全に停止したりしている中、商業乗員輸送プログラムは通常通り継続している数少ない計画の1つだ。NASAはベーンケン飛行士とハーリー飛行士の外界との接触を最小限に抑えているが、ミッション開始に必要なNASAとスペースXの数百人の要員は、いまだにウイルスに曝される危険を冒す必要がある。NASAもスペースXも、現場職員同士の距離を確保するための予防措置を講じているとしており、接触を最小限に抑えるために勤務を交代制にしているという。観客には、自宅からリモートで見るよう求めている。「人類の探求欲に打ち勝つほど強いウイルスはありません」。NASAのジム・ブリデンスタイン長官は4月にツイートした。また、マスクCEOは都市封鎖政策に反対の立場を公言しており自宅待機命令に反してカリフォルニア州フリーモントのテスラの工場を再開している。もしデモ2が遅れたとしても、新型コロナウイルスが原因ではない。

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ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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