ステロイド薬で新型コロナ重症患者の死亡率低下、大規模治験で確認
オックスフォード大学が主導した大規模な治験で、安価なステロイド薬「デキサメタゾン(dexamethasone)」が新型コロナウイルス感染症の重症患者の死亡率を大幅に下げることが分かった。 by Charlotte Jee2020.06.17
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対して既存の治療法を適用する世界最大規模の治験が実施され、「デキサメタゾン(dexamethasone)」という安価なステロイドが重症患者の死亡率を大幅に下げることが分かった。具体的には、人工呼吸器につながれた患者の死亡リスクが3分の1減少し、酸素吸入を受けている患者については死亡リスクが5分の1減少した。デキサメタゾンを用いる治療は、オックスフォード大学が主導する研究の一環として、新型コロナウイルス感染症の患者で現在治験が実施されている6件の既存治療法のうちの1つだ。
研究には6412人の患者が参加した。その中から2104人が選ばれ、デキサメタゾンを毎日6ミリグラム、10日間投与した。投与の方法は注射または錠剤で、残りの4321人には通常の治療のみを施した。デキサメタゾンにより、人工呼吸器や酸素吸入器を装着している患者で死亡数が大幅に下がった。その一方で、患者の大部分を占める、呼吸の補助を必要としない患者には効果が見られなかった。デキサメタゾンは特に、患者の免疫系が新型コロナウイルス感染症に対処しようとして「サイトカインストーム」と呼ばれる過剰な活動状態になった際に起こり得る健康被害を一部食い止めると思われる。
研究チームはこれまでのところ声明しか出しておらず、論文は未発表だが、さらなる研究によって今回の知見の妥当性が確認されていくだろう。とはいえ、今回の発見は多くの命を救う可能性がある。さらに良い点として、デキサメタゾンは容易に入手でき、価格も非常に安い。1回の投与分は約6ドルだ。1961年に炎症の治療薬として初めて承認され、ぜんそくの治療に常時処方されている。
新型コロナウイルス感染症に対する効果が有望視されているもう1つの薬剤として、抗ウイルス薬の「レムデシビル(Remdesivir)」がある。レムデシビルは入院期間を短縮できることが分かっているが、患者の致死率を下げる効果についてはまだ結論が出ていない。製薬会社のギリアド(Gilead)製で、市場に出れば価格は当然デキサメタゾンの何倍にもなるだろう。
今回の研究から得られた知見は、新たな発見だけに頼るのではなく、新型コロナウイルス感染症に既存の治療法を試すことの重要性を明確に示している。「生存利益は、酸素吸入治療を要するほど重症の患者において、明確かつ大きなものがあります。したがってデキサメタゾンを今すぐ、こうした患者の標準的な治療とするべきです」。今回の治験を統括した1人で、オックスフォード大学で新興感染症を専門とするピーター・ホービー教授はそう語る。
「これは大きなブレークスルーです。デキサメタゾンは、新型コロナウイルス感染症の致死率で有意な差が見られた最初にして唯一の薬です」。製薬研究の非営利団体「ウェルカム(Wellcome)」のニック・キャマック研究員は声明の中でそう述べている。しかしながら、キャマック研究員はこうも警告する。「パンデミックを終息させるためには、新型コロナウイルス感染症を特定するより良い診断法や治療のための薬剤、感染防止のためのワクチンが必要です」。
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- シャーロット・ジー [Charlotte Jee]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」を担当。政治、行政、テクノロジー分野での記者経験、テックワールド(Techworld)の編集者を経て、MITテクノロジーレビューへ。 記者活動以外に、テック系イベントにおける多様性を支援するベンチャー企業「ジェネオ(Jeneo)」の経営、定期的な講演やBBCへの出演などの活動も行なっている。