KADOKAWA Technology Review
×
「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集中!
新型コロナ、免疫に関するQ&A
Pexels
Our biggest questions about immunity to covid-19

新型コロナ、免疫に関するQ&A

新型コロナウイルス感染症のワクチンが完成して人々が集団免疫を獲得すれば、安全な社会活動を本当に再開できるのだろうか。この問いに答えるためには、新型コロナウイルス感染症に対して免疫がどのように働くのかを知る必要がある。 by Neel V. Patel2020.06.23

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して免疫がどのように働くのかはまだよく分かっていない。ワクチン開発が徐々に進み、安全な社会活動再開を可能にする集団免疫の獲得に期待が寄せられる中、免疫に関する不確実性がさらに差し迫った課題になっている。そこで、まだ答えの出ていない最大の疑問をいくつかまとめてみた。

免疫はどれくらい強力なのか?

多くの人(つまり、一般市民)は「免疫」という言葉を使うとき、病気の予防という意味で使っている。しかし、多くの感染症では、「免疫がある」と「免疫がない」状態はゼロかイチかではなく、程度の問題だ。たとえば、インフルエンザ・ワクチンはインフルエンザを完全に予防するのではなく、重篤な感染症を防ぎ、症状が「急激に悪化するのを防ぐ」ように設計されていると、テュレーン大学のウイルス学者であるロバート・ギャリー教授は解説する。

新型コロナウイルス感染症に対して「免疫」という言葉が使われるときは、主に体内の免疫系による抗体の産生を意味する。しかし、これも誤解を招くものだ。6月にプレプリント(査読前論文)がアップロードされたある研究によると、ロンドンで患者の抗体レベルを測定したところ、検出可能な抗体が発生していない患者が2%から8.5%いたことが分かった。感染から回復したものの検出可能な抗体を持たないこの集団(主に若年層)は、ウイルスを中和する抗体ではなく、免疫系の細胞媒介アーム(病原体を直接的に殺す白血球およびサイトカイン)を利用して感染を撃退した可能性が高い。

免疫はどのくらい持続するのか?

まだまったく分かっていない。新型コロナウイルス感染症に2回かかっている人が存在すると世界中で散発的に報告されているが、その理由はこれまでのところ不明だ。他のコロナウイルス感染症は一時的な免疫を与えるのみで、免疫が数カ月しか持続しない場合もあることが数多く報告されている。新型コロナウイルス感染症も同じパターンに従う可能性があるが、それを判断するには時期尚早だ。

免疫に影響を与える要因は何なのか?

ハーバード大学公衆衛生大学院のサラ・フォーチュン教授が指摘するように、伝染病の免疫は感染時の免疫応答の強さと持続性に関係していることはすでによく知られている。重篤な症状を引き起こす感染症は、より強力な免疫応答につながる可能性が高く、回復した後も強力な免疫の持続を後押しする。一方、6月18日の学術誌ネイチャー ・メディシン(Nature Medicine)で発表された新研究で発見されたように、軽度または無症候性の新型コロナウイルス感染症患者の抗体レベルは低い可能性が高い。

少人数を対象とした同研究では、新型コロナウイルス感染症の無症候性患者は低い抗体レベルしか獲得していなさそうであることが分かった。一見すると、この結果は無症候性患者が新型コロナウイルスに対して免疫がないことを示しているように思える。しかし、そのような結論はまだ導き出すことはできないとフォーチュン教授は指摘する。ネイチャー誌に掲載された新しい論文が示唆しているように、低いレベルでも病気を防げる抗体かもしれない。

無症候性の患者を特定する検査は積極的には実施されていないため、免疫の点で無症候性の患者と症状のある患者がどのように異なるかはまだはっきり分かっていない。無症候性であると認定する普遍的な定義もない。症状が皆無の患者のことなのか?中等度の症状は含まれるのか?

ドレクセル大学医学部の学長であるチャールズ・ケアンズによると、他の研究で「炎症を起こした患者は、検出される可能性の高いより強力な免疫反応を起こす」ことが示されている。増え続けるこのような証拠はすべて、コロナウイルスと闘う上での細胞性免疫応答の重要性を強調しているのかもしれない。

こうしたことはワクチン開発にどんな意味を持つのか?

壊れたレコードのようで申し訳ないが、まだ分かっていない。前述したように、ワクチンの接種によって新型コロナウイルス感染症に対してどのような免疫を獲得できるかはまだ分からない。完全に予防できるのか、最悪の症状を免れるだけなのか。フォーチュン教授によると、実質的な予防が得られる可能性が高いが、明確には分かっていない。抗体レベルから評価できるものではないのだ。抗体レベルと免疫力との関係や、ワクチンがどのような免疫応答を導き出せば実質的な予防を提供できるのかをより詳しく把握するには、ワクチンの有効性を直接測定する「第3相試験」まで待たなければならない。

新型コロナウイルスに過去に感染しても、終生の免疫または強力な免疫を得られるわけではないことが判明した場合、ほぼすべての人がワクチン接種を推奨されることになるだろう。そして、ワクチンの安全性と有効性を研究するための臨床試験に、過去に感染した人たちを含める必要が出てくる。

(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧

人気の記事ランキング
  1. AI can make you more creative—but it has limits 生成AIは人間の創造性を高めるか? 新研究で限界が明らかに
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2024 「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集のお知らせ
  3. A new weather prediction model from Google combines AI with traditional physics グーグルが気象予測で新モデル、機械学習と物理学を統合
  4. How to fix a Windows PC affected by the global outage 世界規模のウィンドウズPCトラブル、IT部門「最悪の週末」に
  5. The next generation of mRNA vaccines is on its way 日本で承認された新世代mRNAワクチン、従来とどう違うのか?
ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る