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研究から移植へ、オルガノイドが開く新たな治療の可能性
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How we’ll transplant tiny organ-like blobs of cells into people

研究から移植へ、オルガノイドが開く新たな治療の可能性

臓器によく似たミニチュアサイズのオルガノイドは、これまで研究用途で使われてきた。だが、今後は病気の治療に使われるようになるかもしれない。 by Jessica Hamzelou2022.10.16

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

オルガノイド(立体的な細胞塊)は肉眼ではあまりよく見えない。たいていは小さな塊だ。しかし、詳細に検査すると、実際には複雑であることが分かる。実験室で培養されるこの球体の細胞球は、ミニチュアの臓器に似ている。従来、オルガノイドは主に研究目的で使用されてきた。しかし、最近では、病気の治癒を目指し、動物に移植し始めた。次はヒトに対してだが、まだ先のことだ。そう、10年後といったところか。

最もよく知られているオルガノイドは、おそらくミニ脳だろう。このニューロンの塊は、ごく限られた範囲ではあるが、成熟した脳の内部で細胞が発火する仕組みを模倣する。この小さな塊が意識を持ち、疼痛を感じ、思考することができるかどうか、そして、そもそも完全に発達したヒトの脳から遠く隔てられていながら、これを「ミニ脳」と呼ぶべきかどうか、議論が巻き起こっている。

小型の脳の塊をヒトに移植するのは、おそらくはるか先のことだろう(ただし、齧歯類への移植はすでに試みられている)。だが、他のオルガノイド、例えば、肺、肝臓、腸などに似たものの場合、移植に近づきつつある。

最新の進展をもたらしたのはベルギーのブリュッセル自由大学に所属する研究員ミリアン・ロミティ博士のチームで、幹細胞から移植可能なミニチュア甲状腺を制作するのに成功した

甲状腺は首にある蝶の形をした臓器で、ホルモンを生成している。甲状腺ホルモンが欠乏すると、重度の疾患にかかる可能性がある。人口の約5%が甲状腺機能低下症(甲状腺活動の低下)、疲労、疼痛、体重増加、うつ病などに悩まされる恐れがある。子どもの場合は、脳の発達に影響することがある。また、甲状腺ホルモンの欠乏を発症すると、補充ホルモン剤を毎日服用しなければならなくなることが多い。

オルガノイドの移植

ロミティ博士たちは、実験室で45日間培養した甲状腺オルガノイドを、甲状腺を欠くマウスに移植することに成功した。この処置で甲状腺ホルモンの産生が回復し、マウスの甲状腺機能低下症は実質的に治癒したように見えた。「マウスはとても幸せそうでした」(ロミティ博士)。

現在の焦点は、同様のオルガノイドを安全にヒトに移植する方法を見つけることだ。大きな需要がある。ロミティ博士によると、ミニ甲状腺の移植を必死に求める人たちからひっきりなしに電話やメールを受ける同僚もいるという。だが、この治療法は、まだそこまで進んでいない。

ロミティ博士のチームは、幹細胞からミニ甲状腺を作成した。幹細胞は、多くの種類がある細胞のいずれにも変化できる「ナイーブ」で柔軟な状態の細胞だ。幹細胞から甲状腺のような構造体を形成する方法を科学者が発見するまでに、多くの試行錯誤を伴う10年に及ぶ研究が必要だった。最終的な成果に到達するために遺伝子組み換えが必要となり、細胞に感染するウイルスが使用された。また研究チームはシャーレでオルガノイドを培養する際に数種類の薬剤を使用した。

チームが使用した幹細胞は、もともとヒトの胚から採取された細胞株に由来する胚性幹細胞(ES細胞)だ。いくつかの理由で、こうした細胞は臨床では使用できない。例えば、被移植者の免疫系はその細胞を異物として拒絶する可能性があり、また疾患治療のために胚を破壊するのは非倫理的であるとみなされる。次なるステップは、本人の皮膚細胞から生成した幹細胞の使用だ。理論的には、その細胞から作製されるミニ臓器は、本人向けにオーダーメイドできる。ロミティ博士によると、研究チームは「大きな」前進を遂げたと話す。

もちろん、こうしたオルガノイドでは安全を確認しなければならない。ヒトの体内でどのように振る舞うかは誰にも分からない。成長するだろうか。縮小して消え去るのだろうか。ある種のがんを形成するだろうか。もっと長期的に研究し、何が起こるかをよく理解する必要がある。

とはいえ、ロミティ博士を含む多くの科学者は楽観的だ。倫理と科学の難題を解決する方法を発見できれば、脳オルガノイドでさえ、疾患治療に用いることができる見込みがある。例えば、細胞塊は外傷や卒中でダメージを受けた脳組織の再生を助けるかもしれない。ドーパミンなどの脳化学物質を産生できるオルガノイドは、パーキンソン病の治療に有用だろう。

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編集部のリアノン・ウィリアムズ記者は最近、ミニ脳の電気活動を測定するマイクロキャップについて執筆した。

パンデミックが猛威を振るっていた時期、アントニオ・レガラード編集者は、新型コロナウイルス感染症でどのように死亡するかを研究するため、研究室で培養されたミニ肺の使用方法を探った。

ラス・ジャスカリアンの寄稿記事は、この分野を先導するマデリン・ランカスター博士が脳オルガノイドを作製する方法を明らかにしている。

アントニオ・レガラード編集者は、カスタマイズされたオルガノイドを本人の「アバター」として使用して、本人にどの薬剤が効果的かを確かめられると考えた人がいると伝えている。

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ジェシカ・ヘンゼロー [Jessica Hamzelou]米国版 生物医学担当上級記者
生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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