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中国「社会信用スコア」への誤解はなぜ生まれたか?
Stephanie Arnett/MITTR; Getty
The AI myth Western lawmakers get wrong

中国「社会信用スコア」への誤解はなぜ生まれたか?

AIアルゴリズムが市民を評価するという試みは、中国のような権威主義的国家が進めるディストピア的な政策だと批判されることが多い。だが、実際に普及が進んでいるのは西側諸国だ。 by Melissa Heikkilä2023.01.04

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

米国と欧州連合(EU)の間では、テクノロジーを規制する方法について意見が分かれるかもしれない。だが、人工知能(AI)を活用した社会信用スコアを禁止する必要があるという1点においては合意しているようだ。社会信用スコアとは、権威主義的政府、特に中国が、人々の信頼度をランク付けし、窃盗やローン未返済などの好ましくない行為を罰するものである、というのが西側諸国の立法者の理解である。基本的には、国民ひとりひとりに割り当てられるディストピア的なスーパースコアと見なされている。

EUは現在、 AI法と呼ばれる新しい法律の制定に向けて交渉を進めている。施行されれば、加盟国において、さらには民間企業でさえも、社会信用システムの導入が禁止されることになるかもしれない。

問題は、それが「本質的には不明瞭な領域を禁じている」ことだ、とドイツのシンクタンク、メルカトル中国研究所(Mercator Institute for China Studies)のヴィンセント・ブリュッセ分析官は言う。

2014年に中国は、社会的に信用を高める行動には報酬を与え、その反対の行動には罰則を科すシステムを構築するという6年計画を発表した。そして8年経った今、社会信用に関する過去の取り組みを成文化し、将来的な実施に導こうとする法制度の草案を発表したばかりだ。

中国はこれまでに、議論を呼ぶような実験を地方自治体で実施している。例としては、小規模都市である山東省栄成市で2013年に実施したような実験が挙げられる。すべての住民に開始時点の個人信用スコアとして1000点を付与し、それぞれの行動への評価に基づいてこのスコアを増減するというものだ。  住民らは現在、この実験への不参加を選択できるようになっている。そして自治体は、論争の的となったいくつかの基準を撤廃した。

だが、このような制度は他の地域では普及しておらず、中国の全人口を対象としているわけではない。人々をランク付けするアルゴリズムを備え、中国全土を管理する社会的信用システムは存在しないのだ。

本誌編集部のヤン・ズェイ記者が説明するように、「現実には、そんな恐ろしいシステムは存在せず、中央政府もそのようなものを構築する意欲は高くない」ようだ。

導入済みのものは、ほとんどがかなりのローテクだ。これには、「金融クレジット産業への規制や、政府機関同士のデータ共有、そして国家が認めた道徳的価値の推進といった試みが混在している」とズェイ記者は述べる。

北京の調査コンサルティング会社、トリビアム・チャイナ(Trivium China)のパートナーであり、米国政府向けの報告書をまとめたケンドラ・シェーファーは、中国でのデータ収集が人間の介入なしに自動的な制裁につながった事例を1つも見つけることができなかった。サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によると、栄成市では人間の「情報収集員」が町を歩き回り、紙とペンを使って人々の不正行為を書き留めていたという。

神話の由来は、中国のテック企業であるアリババが開発した、「セサミ・クレジット(芝麻信用)」という試験的なプログラムである。これは中国人の大半がクレジットカードを持っていなかった時代に、顧客データを使って人々の信用度を評価しようという試みだった、とブリュッセ分析官は言う。この取り組みは、社会信用システムと全体的に混同されるようになり、ブリュッセ分析官はこれを、「中国の伝言ゲーム」と言い表した。そして、この誤解はそのまま広まってしまったのだ。

米国や欧州の政治家たちは、この問題を権威主義的な政権に起因する問題と表現している。しかし皮肉なことに、人々をランク付けして罰するシステムは、すでに西側で現実のものになっている。意思決定を自動化するために設計されたアルゴリズムは一斉に導入され、人々の住居への入居希望、求人への申し込み、そして基礎的サービスの申し込みを拒否する目的で使われている。

例えばアムステルダムでは、当局がアルゴリズムを利用し、恵まれない地域に住む若者を犯罪者になる可能性に応じてランク付けしている。犯罪を未然に防ぎ、より良質で的を絞った支援を提供するのがその目的である、と当局は主張する。

しかし実際には、このランク付けによって汚名を着せられたり、差別を受けたりするケースが増えている、と人権団体は主張する。リストに記載された若者たちは、警察からの呼び止めや当局からの自宅訪問を頻繁に受けるようになり、学校やソーシャルワーカーからの厳しい監視にさらされることになるという。

実際には存在しないディストピア的アルゴリズムに反対の立場を取ることは簡単だ。しかし、EUや米国の立法者がAIガバナンスの共通理解を築こうと努力するのであれば、もっと身近なところに目を向けるべきだろう。米国には、アルゴリズムによる意思決定に基本的な規制をかける連邦レベルのプライバシー法さえ存在しない。

また各国の政府は、行政当局や企業がAIを使って人々の生活に関する意思決定を下す方法について、誠実かつ徹底的な監査を緊急に実施する必要がある。その結果は、AIを利用しようとする行政当局や企業の意向に沿うものではないかもしれない。だがそうであればなおのこと、調査は不可欠と言えるだろう。

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模倣学習は、AIを訓練してロボット・アームの制御や自動車の運転、Webサイトのナビゲーションを任せるのに活用できる。メタの主任AI科学者であるヤン・ルカンのように、動画を見せることで、いずれは人間レベルの知能を持つまでにAIを訓練することも可能になると考える専門家もいる。

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MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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