KADOKAWA Technology Review
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Our favorite stories of 2022

MITTR編集者・記者が選んだ2022年の記事15選

MITテクノロジーレビュー[米国版]編集部のメンバーに、2022年に公開したすべての記事について振り返り、特に際立った記事を選んでもらった。 by MIT Technology Review Editors2023.01.09

MITテクノロジーレビューは2022年、さまざまな記事を掲載してきた。本誌の記事は数々の賞を受賞し(例えばこの記事は米科学振興協会(AAAS)の科学ジャーナリズム賞において雑誌部門金賞を受賞した)、調査報道によって数々の不当な政策にも光を当てた。

MITテクノロジーレビュー[米国版]編集部の記者・編集者が、この1年間に掲載した記事を振り返り、最も好きな記事を1つずつ選んだ。その理由とともに紹介しよう。


ウィル・ダグラス・ヘブン(AI担当上級編集者)選

Longevity Prize winner celebrates with raised arms as confetti falls and she receives an oversized check

参加資格は100万ドル、セレブ限定「抗老化」会議の知られざる内幕

ジェシカ・ヘンゼロー記者の記事はいつも核心をついている。だがこの記事はとりわけ秀逸だ。スイスの高級ホテルで開催された超富裕層ための科学会議であり、資金調達の場でもある出席者限定イベントを取材し、長寿研究者とその資金提供者について紹介している。死から逃れる方法をお金で買えるかもしれないと考えるほどの富を持つ人たちだ。

ジェシカ記者はこの闇に包まれた世界に潜入し、胸躍る概念ながらいまだSF的世界でもあるこの分野を推し進める秘密の人間関係を明らかにしていく。その詳細は衝撃的なもので、出席者たちが会議の合間に通路で腕立て伏せをしたり、ディナーの席でセルフ血液検査をしたりといったエピソードも紹介している。記事全体を通して、本物の科学と神頼み的な偽医療との間を行き来しながら、ベールに包まれた世界を巧みに案内してくれる。魅力的かつ笑いを誘う、ジェシカ記者の真骨頂と言える記事だ。


ヤン・ズェイ(中国担当記者)選

conceptual illustration

新型コロナ研究所流出説の渦中にある科学者を取材(リンク先は米国版)

新型コロナウイルスの起源に一歩近づく大スクープと謳った記事は数々あったが、そのほとんどは期待に応えるものではなかった。フリーライターのジェーン・チュウによるこの記事は、そうした記事とは一線を画している。「研究所流出」説を唱える中心人物たちに取材する一方で、あらゆる側の言い分にも極めて忍耐強く耳を傾けている。新型コロナウイルスの起源に関する記事を貪欲に読み漁ってきた私にとって、地道な取材による詳細情報が詰まったこの記事は、執筆者の側に立つよう強いてくることなく、自分で判断するための材料を豊富に与えてくれるものだ。


アントニオ・レガラード(生物医学担当上級編集者)選

baidu worker (left) and autonomous vehicle driving on highway (right)

ハンドル握らぬ「運転手」、 ロボタクシー・ドライバー という仕事

時として、未来の非常に細かな部分が見えることがある。中国のあるドライバーが、一日の仕事を終えて自分の車に乗り込む際に、誤って助手席側に座ってしまうとヤン・ズェイ記者に語ったときなどがそうだ。この記事は、中国のロボタクシーのセーフティ・ドライバーとして働く男性に話を聞いている。万が一に備えて助手席に一日中座っているとは、奇妙な仕事だ。しかも将来性のある職業ではない。もし自動運転タクシーがうまく機能するようになれば、セーフティ・ドライバーも、そして私たち一般のドライバーも、すべて用済みになるということだ。


エイミー・ノードラム(企画編集者)選

psychedlic experience via VR headset concept

臨死体験から生まれたVR、 幻覚剤のトリップを再現

ある種の実質現実(VR)体験には、他者や周囲との一体感を喚起するという点で幻覚剤と同等の効果があるという。これは非常に驚きだった。そしてハナ・キロ記者自身が実際にそれを体験してみたのもよかった。彼女の鮮明な描写は、「VRトリップ」体験がどのようなものであったか、そこから何を得たかを実感させてくれる。


シャーロット・ジー(ニュース担当編集者)選

bomb made of generated text with lit fuse

GPT-3は「私」について 何を知っているのか?

秀逸な記事だった。大規模言語モデルという、やや難解なものを取り上げ、我々がそれらを知らなくても、それらは我々のことを「知っている」かもしれないことを説明したものだ。これらの人工知能(AI)モデルは、我々がインターネット上に残したデジタル堆積物の中から拾い集めたデータセットで訓練されている。メリッサ・ヘイッキラ記者はそれを実証するために、大規模言語モデルの代表モデルであるGPT-3について取り上げ、彼女自身のことや本誌のマット・ホーナン編集長についてGPT-3に質問した。その結果は、個人的かつ魅力的で、ウィットに富んだものだった。しかし記事はまた、AIの訓練データの世界におけるプライバシーとデータ保護の欠如について、深刻な指摘をしている。記事を読んだ後には誰もが、Web上に散乱させたままの自身の愚かしい投稿や酔っ払った写真などを、これまでとは違った恐ろしい観点で捉えるようになるだろう。


リンダ・ローウェンタール(主任コピーライター)選

Concept photo illustration of a dog on sofa with past dogs in framed portraits behind

愛犬の「長生き」目指す 科学者が見据えるペットの先

まさしく犬というものの唯一の問題点は、長生きしないところにある。本誌のジェシカ・ヘンゼロー記者は科学者たちがこれを変えようと取り組んでいるところに潜入し、犬の寿命を伸ばすことが、人類を助ける方法にもなり得ることを突き止めた。私は、テクノロジーの話に入る前にこの話にすっかり心を奪われてしまったが、テクノロジーこそがこの記事の注目すべき部分である。


アリソン・アリーフ(印刷版ディレクター)選

Female worker in the foreground of a room of 1950s era computers

「世界を変える」テック企業 ジェンダー問題では なぜ変われないのか?

歴史学者マーガレット・オマラが執筆したこの記事は、テック業界が「ボーイズ・クラブ」的なものへと次第に変貌していく中で、いかに女性たちが疎外されていったかを振り返る、興味深くも陰鬱とした歴史的考察だ。過去数十年、資金や支援は必ずしも最も優秀な者ではなく、最も良いコネを持つ者たちへと注がれてきた。オマラは、テクノロジー業界におけるジェンダー問題とは、STEM教育やパイプラインの問題ではなく、お金の問題であることを示す。「テック業界は、自分たちがいかに世界を変えていくのかを語るのが大好きだ」と記事は語る。「しかし、逆行するジェンダー差別的な図式や習慣が、テック業界の並外れた金儲けの仕組みに長い間燃料を供給してきたのだ。このような時代遅れな図式や習慣から脱却することが、最終的にはテック業界の最も革新的な行動となるのかもしれない」。


メリッサ・ヘイキラ(AI担当上級記者)選

resistance concept

シリーズ:AI植民地主義(リンク先は米国版)

植民地時代の歴史パターンを繰り返すAI産業の闇に包まれた慣習を記事にしたものだ。本誌の元AI担当上級記者であるカーレン・ハオは、南アフリカの個人監視装置から、ベネズエラにおけるAI産業の搾取的な労働慣行まで、AIがいかに植民地主義的な世界秩序を作り上げているか、世界中のさまざまなコミュニティに取材した。また、アルゴリズムに反撃するインドネシアのギグワーカーたちや、AIの助けを借りて自分たちの言語を再生するニュージーランドの先住民カップルなど、抵抗と希望の物語についても紹介している。


ジュリエット・ボーシャン(エンゲージメント編集者)選

woman petting a crow at a kitchen table

きっかけはTIkiTok、私はいかにして「カラス沼」にハマったか

デジタル・カルチャーに関するアビー・オルハイザー編集者の報道は常に一流だが、この記事は個人的に特に気に入っている。そう、近所のカラスと友達になる方法が分かる記事なのだ。しかし重要なのは、この記事がソーシャルメディアのアルゴリズムの力について、そしてネット上のトレンドがいかに明確に現実世界に変換されるか(ネタバレすると、それは常に成功するとは限らない)について語っているところにある。


ターニャ・バス(「人間とテクノロジー」担当上級記者)選

screenshot of the SculptGL interface

みんなの大好きな「インスタ顔」はこうして作られる

ネット上の美容フィルターは、表面的には取るに足らない問題に思えるかもしれない。だが、我々の自分自身に対する見方に大きな影響を及ぼす可能性がある。テイト・ライアン・モズリー記者が執筆したこの記事は、人々の安全を確保しようとするプラットフォーム側の試みと、フィルターに対する巨大な需要との間に生じる葛藤について述べている。印象的なのは、「変形効果」のあるフィルターがしばしば拡散されるということだ。こうしたフィルターが、自分自身や世界に対する我々の見方にどのような影響を及ぼすかを考えると、実に気が遠くなる思いがする。拡張現実(AR)が幅を利かすにつれ、物質世界とバーチャル世界の区別はより一層曖昧なものになっていく。この記事は読者を不穏な気持ちにさせると同時に、説教臭くない形で啓発している。この分野におけるテイト記者の取り組みは非凡かつ重要なものであり、彼女はこの厄介な世界を案内してくれるすばらしいガイドである。


レイチェル・コートランド(企画編集者)選

A motorcycle rider on his phone in Eldoret, Kenya

ケニアの憂鬱 モバイルマネー先進国襲った ギャンブル依存症の罠

資金の移動を大きく簡略化したテクノロジーが、資金をすべてギャンブルにつぎ込むことをも簡単にしてしまったのは、それほど驚くことでもない。だが、フリー・ジャーナリストのジョナサン・ローゼンによるケニア発のこの記事は、モバイル決済のエコシステムのあまり報告されていない側面を指摘しているだけではない。ケニアの人々がこの問題とどのように取り組み、そして戦っているかを紹介している。


リアノン・ウィリアムズ(ニュース担当記者)選

亡くなった家族と「会話」できるテクノロジーが登場(リンク先は米国版)

悲しみと、決して同じものにならないことを知りつつも愛する人の本質を再現することが可能かどうかというテクノロジー的限界を試したいとする我々の気持ちとを、非常に繊細に掘り下げている。また、友人や家族を愛することに付きまとうリスクと勇敢に向き合い、なぜそうしたリスクが取るに値するものであるかを、非常に人間的に思い至らせてくれるものでもある。


アイリーン・グオ(調査担当上級記者)選

human remains on a copy stand to be photographed

科学に体を寄付すると何が起きるか(リンク先は米国版)

最良の記事は時として、自分が抱えていることすら気づかなかった疑問に答えてくれるものだ。ボディファームについてアビー編集者が書いたこの見事な記事はその良い例だ。 死、さらに死体という我々が十分に語ることのないテーマを、好奇心、思いやり、細部へのこだわりといった非常にバランスのとりにくい要素を組み合わせて扱っている。


アビー・アイボリー=ガンジャ(エンゲージメント担当上級編集者)選

A worker from Wuhan Guangsheng Photovoltaic Company installs a solar panel project on the roof of a building

気候変動の責任は誰に?3つのグラフから考える

気候変動に関するケーシー・クラウンハート記者の記事からは今年たくさんのことを学んだが、気候変動の責任は誰にあるかというこの記事は、2022年以降もずっと私の心に残るだろう。我々の今後の問題、そして我々の過去にも原因のある大きな大きな問題を、完全に破壊的なもの感じさせることなく文脈化するという、すばらしい仕事をしている。


テイト・ライアン=モズリー(テック政策担当上級記者)選

Worldcoin has done field testing in Indonesia

暗号資産で「お金配り」、 45万人の生体データ集めた ワールドコインの残念な実態

アイリーン記者とフリー・ジャーナリストのアディによるワールドコインの調査記事は、私のお気に入りの1つだ。非常に充実した内容で、多くの企業が犯している略奪的なデータ収集の慣行に対して厳しい目を向けている。この記事のグローバルな視野、そしてこの企業の暗号通貨を配ろうとする意気込みとその悲惨な現実とを執筆者たちが比較検証している点が、実にすばらしいと思う。

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