KADOKAWA Technology Review
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First Stretchable Holographic Display Unveiled

「メタ表面」で作る伸び縮みするディスプレイ

「メタ表面」で作る伸び縮みするディスプレイが実証され、いよいよ製品化が期待できる段階に達した。材料はコンタクトレンズに使われる素材に近く、VRや平面ディスプレイ、光通信等の用途が考えられる。 by Emerging Technology from the arXiv2017.02.27

近年の材料科学の大きな進歩に、自然界にない光学特性のあるメタマテリアルとメタ表面の開発がある。たとえば、一定間隔で素子を並べて電磁波に反応する材料は、光を反射したり、曲げたり、歪めたりする性質がある。

負の屈折率のある材料で超解像レンズを作り、透明人間になるマントを作った研究者もいる。また、光の屈折ではなく反射により、平面レンズやボルテックスビーム(渦状の光)発生器、コンピューター生成ホログラムとして振る舞うメタ表面を使った研究者もある。

こうなると興味深い疑問が湧いてくる。材料科学者はこのテクノロジーをどこまで拡げられるのだろう?

2月24日、ペンシルベニア大学(フィラデルフィア)のステファニー・マレク研究員の研究により、答えがわかった。研究チームはホログラムをメタ表面に印刷し、フィルムを引き伸ばすとどう変化するか調べた。引き伸ばすと表示する情報が切り替わるような、新しいディスプレイの開発につながる研究だ。

メタ表面は理論的には簡単に説明できる。ずらりと並んだ微小な導電性ロッド(棒)により、光がどう反射するかを変える、というだけのことだ。ロッドの方向を空間的に変化させることで、反射光のパターンを作り出せる。原理としてはここまでで、導電性ロッドの配置をコンピューター計算で求めることで、どんなホログラムにするかを決めるのだ。

一般的な最初の手順は、金製のナノロッドの配列を作り、柔らかいフィルムに埋め込むことだ。今回の場合、ソフトコンタクトレンズに使われるポリマーの一種「PDMA」を使う。研究チームの製法では、シリコン・ウエハーをプラスチックで覆い、フォトリソグラフィーにより、設計通りのパターンを彫り込んだ。

次に研究チームは残りのプラスチックを金でコートし、プラスチックで覆われたシリコン・ウエハーの表面に注ぎ込み、金製のロッドを覆う層を形成させ、パターンと表面の溝を埋めた。

最後に研究チームはPDMA層を、金製のナノロッドとともに剥がし取る。こうして、狙い通りのホログラムを作り出すパターンが形成された金製ナノロッドのあるPDMAの薄い層ができた。

研究チームはさらに一歩進んで、表面からの距離が異なる2つ以上の像を含むホログラムを作る。次に研究チームは、層を引き伸ばすとナノロッドの間隔が変化し、ホログラム像が拡大してフィルムからの距離が変化することを示すのだ。

これが興味深い効果を生み出す。ある距離からホログラムを見ている人には、フィルムを引き伸ばしたり緩めたりすると、第1のホログラム像が第2のホログラム像に姿を変え、また元に戻るのが見える。「このデバイスを引き伸ばすと、別々の複数の像の中から表示されるホログラム像が切り替わるんです」と研究チームは記している。

研究チームは「ONE」に続いて「TWO」を表示したり、円、正方形、三角形を次々に表示したりするようなホログラムをいくつか試作した。

試作されたメタ表面には、このテクノロジーが全く新しいディスプレイに使える可能性が垣間見える。「伸縮自在メタ表面ホログラムは、実質現実や平面ディスプレイ、光通信等の用途で役立つかもしれません」という研究チームは、すでにズームレンズになる伸縮自在メタ表面を実証し、引き伸ばすと倍率が1.7倍大きくなった。

メタ表面はついに製品化に近付いている。開発されたテクノロジーが市販されるのが楽しみだ。

参照:arxiv.org/abs/1702.03810:伸縮自在の基板上に形成された歪み多重メタ表面ホログラム

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