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蓄電池だけじゃない、送電網向けエネルギー貯蔵の選択肢
Fervo Energy
These companies want to go beyond batteries to store energy

蓄電池だけじゃない、送電網向けエネルギー貯蔵の選択肢

再生可能エネルギーの占める割合が増えるにつれ、送電網向けエネルギー貯蔵の必要性が高まっている。最近になって、さまざまなエネルギー貯蔵のアプローチが企業から提案されている。 by Casey Crownhart2023.05.01

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

MITテクノロジーレビューの記事を以前から読んでくれている人なら、私が電池について書くのが好きなことはご存知だろう関連記事1関連記事2関連記事3)。化学反応を利用したエネルギー貯蔵は、便利で拡張可能であり、方法がたくさんある。そのため、電池はエネルギー貯蔵の代名詞になっているのだ。

だが、電池以外の貯蔵方法を考え始めているグループも増えている。コストを削減し、たくさんのエネルギーを長期間貯蔵するために、研究者も企業も工夫を凝らしているのだ。 地中に水を注入したり、地下の空洞や巨大なタンクの中でガスを圧縮したり、さらには巨大なブロックを持ち上げたり、といった方法だ。

風力発電や太陽光発電のような、発電量が変動する再生可能エネルギー発電設備が増えるにつれ、電気が必要な時に必要な人に安定的に届けるために、これまでよりもずっと多くのエネルギー貯蔵設備が必要となる。こうしたエネルギー貯蔵設備のうちのいくつかは、私たちが普段話題にしている電池とは少々異なるものに見えるかもしれない。そこで、なぜ電池を代替する設備が登場しつつあるのか、そしてそれを実現するためには何が必要なのか、詳しく見ていこう。

重力を利用する方法

高校の物理学の授業で習ったことを覚えているだろうか。エネルギーは位置エネルギーという形で蓄えることができる。例えば本を持ち上げると、そこにエネルギーが蓄えられ、手を離すと重力に引っ張られて本は下に落ちる(この落下が運動エネルギーの作用だ)。

このシンプルな考え方は、今日、世界の送電網に設置してあるエネルギー貯蔵設備の90%を占める揚水式水力発電所の基礎となっている。そう、世界のエネルギー貯蔵設備の大部分は、水を高い場所へと動かすことで稼働しているのだ。

揚水式水力発電所では、余分な電力を使って、低い位置にある貯水池から高い位置にある貯水池へ水を強制的に汲み上げる。その後、ゲートを開けて重力に任せれば、水が下へ流れて水車を回し、発電する仕組みだ。これは、エネルギーを蓄える方法としては、安価で比較的単純な方法だ。

しかし、揚水式水力発電所は特殊な地理的条件を必要とするため、規模を拡大することは難しい(言うまでもなく、自然の水系を乱すと、生態系に大きな損害を与える可能性がある)。

水に頼らない重力を利用したエネルギー貯蔵設備を再考しているグループもいくつか存在する。スイスのエナジー・ヴォールト(Energy Vault)は、エネルギーを蓄えるための巨大なレンガを昇降させるエレベーターを備えた設備を作っている。英国のグラヴィトリシティ(Gravitricity)は地下、おそらく古い鉱山の坑道で、巨大な重りを持ち上げることを検討している。

こうした設備は、投入したエネルギーの多くを回収できる、効率的な方法かもしれない。また、長い間エネルギーを蓄えておける可能性もあり、数日から数週間、あるいは数カ月間もの間エネルギーを蓄えるには経済的な方法になるかもしれない。

推進派は、重力を利用した設備は、長期間のエネルギー貯蔵に対する需要を満たすのに役立つと主張している。しかし、このような設備を構築するには相当な手間がかかる上、保守管理の負担が重い可能性があり、将来性については懐疑的な意見もある。エナジー・ヴォールトは、中国で計画された設備の建設を進めているが、最近では大量のリチウムイオン電池を設置し始めている

圧力を利用する方法

もう一度、高校で習う物理学の話に戻って、別の方法である圧力について考えてみよう。小さなスペースに何かを押し込むと、圧力が上がっていく。

その圧力を使用可能なエネルギーに変換するということが、圧縮空気を利用したエネルギー貯蔵の基本的な考えだ。 必要なのは、地下の岩塩空洞だけ。今すぐ使ってしまわなければならない電力、つまり余剰電力があるときは、その電力でポンプを動かして、空洞内に空気を押し込んで圧縮する。電力を取り出したいときには、バルブを開放して、吹き出してきた空気でタービンを回して再び発電する。

圧縮空気を利用したエネルギー貯蔵施設は、世界で2カ所しか稼働していない。ドイツと米国アラバマ州である。これまで、この種の施設は化石燃料の存在に縛られていた。これらの施設は通常、天然ガス発電所と併せて機能するものだからだ。しかし今、企業は圧縮空気を利用したエネルギー貯蔵について考え直し、再生可能エネルギーで発電した電力の貯蔵に利用したいと考えている。そして、この種のエネルギー貯蔵設備を使える場所を拡大したいとも考えている。

2023年の初め、カリフォルニア州の地方自治体は、世界最大の圧縮空気貯蔵施設を建設中のハイドロストア(Hydrostor)と契約を締結した。ハイドロストアは、自然の地質条件に頼るのではなく、地中深くに3本の立て坑を掘って圧縮空気を貯蔵する予定だ。

10億ドル規模のプロジェクトで、早ければ2028年に稼働する。空気のみを使用してエネルギーを蓄え、カリフォルニア州の送電網の円滑化に貢献できるかもしれない。

同じ考え方でも違う手法を取りたいと考えている組織もある。イタリアのスタートアップ企業であるエナジー・ドーム(Energy Dome)は、空気の代わりに二酸化炭素を圧縮してエネルギーを蓄えようとしている。これには大規模な貯蔵のための地下空洞は必要ない。詳しくは、昨年掲載した記事をご覧いただきたい。

地面から電池へ

このようなエネルギー貯蔵の新しい方式と、発電設備を組み合わせて、より柔軟な新しい発電所を作ろうと考えているグループもある。

例えば、地中の熱を利用する地熱エネルギーだ。地熱発電所は通常、常にほぼ同じ容量で稼働する、ベースロード電源と呼ばれる発電所に分類される。

だが、ファーボ・エナジー(Fervo Energy)というスタートアップ企業は、その地熱井戸を使ってエネルギーを蓄える方法を提案している。井戸に水を送り込み、時間をかけて地中の水の圧力を高め、その圧力が解放されたときに、地熱発電所は通常よりも多くのエネルギーを生み出せるのだ。

これはエネルギー貯蔵における興味深い工夫であり、将来、地熱発電所ができることをすっかり変えてしまう可能性がある。本誌のジェームス・テンプル編集者は、ファーボ・エナジーの試験場を訪問し、このスタートアップ企業の取り組みをまとめた記事を公開している。詳しくはこちらの記事をご覧いただきたい。

Evelyn N. Wang in her MIT lab
BRYCE VICKMARK

他の方法

米国エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)という名称はあまり聞き慣れないものかもしれないが、この政府機関はエネルギーの未来を形作る取り組みを支援している。米国エネルギー省(DOE)の一部であるARPA-Eは、ハイリスク・ハイリターンのエネルギー・テクノロジーを支援する機関だ。ARPA-Eの新しい長官であるエヴリン・ワンに、これからのエネルギーを変えるテクノロジーについて話を聞いた。詳しくはこちらの記事をご覧いただきたい。

気候変動関連の最近の話題

  • 海洋の生物多様性を守るために、国連が大きな意味がある合意に達した。批准されれば、この条約により公海を管理する組織が発足することになる。(ニューヨーク・タイムズ紙
  • そんなに大きなEVバッテリーは本当に必要か? 米国で数百人のドライバーを1年間追跡調査したところ、航続距離約230キロメートル(143マイル)の小型電気自動車があれば、40%近くのドライバーは事足りることがわかった。(インサイド・クライメート・ニュース
  • ジョージア州にあるボーグル原子力発電所の新しい原子炉の1つが、臨界に到達した。 このプロジェクトは、これまで遅延とコスト増に悩まされてきた。(AP通信
  • 私たちの食事の取り方は気候に大きな影響を与えている。食品部門は2100年までに1℃近い温暖化を引き起こす可能性があるのだ。肉の消費と食品廃棄に対処することがその対策につながるだろう。(ザ・ヴァージ
    → 食品廃棄物をエネルギーとして利用し、有害な温室効果ガスの排出を削減したいと考える企業もある。(MITテクノロジーレビュー
  • 米国には格差が存在する。家の暖房方法の話だ。この格差により、脱炭素化に影響が出る可能性がある。メイン州での石油の置き換えと、中西部や北東部での天然ガスの置き換えでは異なる課題が生じるからだ。(ワシントンポスト紙
  • 物議を醸しているネバダ州のリチウム鉱山で工事が始まった。 環境保護団体や地域の先住民族は、この土地には文化的・宗教的な重要性がある上に、工事が生態系に害を及ぼす恐れもあるとして、このプロジェクトに反対している。(グリスト
    → 採掘と再生可能エネルギーに関する3つの神話を以前取り上げている。(MITテクノロジーレビュー
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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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