MWC 2017:スマートフォンの終わり、シンプルフォンの始まり?
スペインで開催中のスマホ業界の展示会MWC 2017の目玉はAIアシスタントで「スマートフォン時代の終わり」が見えてきた。しかし「シンプルフォンの始まり」かはまだわからない。 by Jamie Condliffe2017.02.28
携帯電話は、最先端を追求し続けるか、それともシンプルさを保つのかの岐路にある。
年に一度バルセロナで開かれるスマホの大規模展示会「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」では、「自分でも気が付かなかったけれど、こんなのが欲しかった」と思わせる新機能で顧客を引きつけようと、多くのメーカーが自社の最も派手で目新しいハードウェアを大々的に披露している。しかし、シンプルなモデルを採用したり、懐かしのモデルを復刻したりするトレンドにも注目が集まっている。
今年MWCでお披露目されるテクノロジーの一番の目玉はおそらく、AIアシスタントだろう。アップルとマイクロソフトは数年前から自社のAIアシスタント、Siriとコルタナ(Cortana)を提供している。しかし、グーグルのAIアシスタントは現在自社製スマホのピクセルだけに搭載されている。また、 アマゾンのアレクサは、家電産業で大々的な成功を収めた。だが今回のMWCで、グーグルは新発売の機器の多くにAIアシスタントを搭載すると発表、アレクサはモトローラの新型携帯電話に搭載される予定だ。また、テレフォニカ(Telefonica)も AIアシスタントの自社開発を計画している。
一方で、データ接続を高速な通信規格である4Gからさらに猛烈な速さの5Gに高速化するため、携帯電話業界は本腰を入れており、中国のスマホメーカーZTEはギガビット通信の性能を実演する試作機を披露する予定だ。理論上、4Kの映像をスマホで見られるが、 フィナンシャル・タイムズ紙の記事 (ペイウォール)にあるとおり、ギガビット通信の実用化にはまだ時間がかかりそうだ。
初出展のイノベーションは他にもたくさんある。オッポ(Oppo)は、一般的の携帯電話本体にズームレンズを組み込める光学技術の粋を集めたテクノロジーを出展した。ソニーの携帯電話と組み合わせて使うプロジェクターはノートPCを持ち歩かなくてもあらゆるものの表面をタッチスクリーンに変えられる。アルカテル(Alcatel)は部品交換型設計のスマホに関する新たなコンセプトを展示した。
しかし一方で、ある種の「テクノロジーへの反乱」現象も進行している。昨年ノキアとライセンス契約を交わし、ブランドを引き継いだHMD Globalは、ノキアブランドでアンドロイドベースの一般的な形状のスマホ3種と、伝説的モデル「3310」の復刻版の発売を発表した。BBCの報道によると、同モデルは全盛期には1億2600万台を売り上げた。3310のオリジナルモデルが初めて購入した携帯電話だった人も多いだろう。今回販売される復刻版も従来通りシンプルな製品だ。3G通信は非対応で、AIはもちろんタッチスクリーンもない。しかし「スネーク」で遊べるしバッテリーは1カ月持つ。
レトロモデル復刻は他にもある。中国のスマホメーカーTCLコミュニケーションは、ブラックベリーがハードウェア市場から撤退したのを受け、製品名のライセンスを取得し、タッチスクリーンのキーボード入力がいまだに苦手な企業幹部の向けの新モデルを製造する。アンドロイド搭載の新しいブラックベリー「BlackBerry KEYone」にはボタン式のキーボードがついているのだ。
復刻版モデルがユーザーのノスタルジーを掻き立てるのは間違いない。しかし、特に復刻版ノキアにいえるのは、こうした製品が中高年世代やより平穏な生活を求めてモバイル・インターネットに見切りをつける熱心な「デジタル・デトックス」実践者だけでなく、大衆市場に広く訴えるとは考えにくい。
一方で、別のトレンドも注目されている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事によれば、LGはガジェットに新機能を搭載し続ける従来の携帯電話産業のあり方から距離を置き、高画質画面やバッテリー持続時間など、実用面での機能性を優先課題に据える方針に切り替えることにした。IT系メディアザ・バージがLGの新型スマホ「G6」 を「頑丈で驚くほど使いやすい」と評したのも頷ける。
LGの新方針はスマホ業界の頭打ち状態を示している。スマホが何で、どんなことができて、何をしてくれるのか、ユーザーはもう知り尽くしている。昨年発表された新型iPhoneでさえ例外ではなく、ハードウェアの進歩で答えが大きく変わることはもうない。そこでLGは目新しい機能をひけらかすのはやめて、ありふれた、実用的なニーズを完璧に満たすことに専念しようじゃないか、と考えたのだ。
この方針が携帯電話の販売戦略として適切かはまだわからないが、消費者のポケットにある携帯電話を、最先端ではないが、改善はできる、シンプルかつ爽快なアイデアでありそうなことは確かだ。
(関連記事: Wall Street Journal, Guardian, Reuters, “米国「5G」戦略で映像ビジネスの覇権維持,” “When Smartphones Become Too Addictive Stylish Dumb Phones Offer a Respite,” “Google’s New Pixel Phone Matters (But You’re Not Going to Buy It),” “2016年、テック関連最大のヒット商品はAIアシスタントだ(ただし日本語では使えない)”)
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- ジェイミー コンドリフ [Jamie Condliffe]米国版 ニュース・解説担当副編集長
- MIT Technology Reviewのニュース・解説担当副編集長。ロンドンを拠点に、日刊ニュースレター「ザ・ダウンロード」を米国版編集部がある米国ボストンが朝を迎える前に用意するのが仕事です。前職はニューサイエンティスト誌とGizmodoでした。オックスフォード大学で学んだ工学博士です。