チャットGPTは破壊者か?
それとも変革者か?
揺れる教育現場
チャットGPTの登場は、教育現場に混乱を引き起こしている。米国では悪用を懸念し、校内での利用を禁止する学校もあるが、教育をより良いものにしていくために有効な存在だと考える関係者も多い。(4月24日初出掲載) by Will Douglas Heaven2023.06.09
学校や大学の対応はすばやく、断固たるものだった。
2022年11月下旬、オープンAI(OpenAI)がチャットGPT(ChatGPT)を公開すると、わずか数日のうちに大きな批判を受けることになった。馬鹿馬鹿しいほど簡単に課題の不正ができてしまう、これは無料のエッセー執筆・試験対策ツールだ、といった声が殺到したのだ。
米国で2番目に大きな学区であるロサンゼルス統一学区は、すぐに学区内の学校のネットワークからオープンAIのWebサイトへのアクセスをブロックした。他の学区もまもなくそれに続いた。1月までに、米国のワシントン州、ニューヨーク州、アラバマ州、ヴァージニア州からオーストラリアのクイーンズランド州やニューサウスウェールズ州にいたるまで、英語圏の各学区がチャットGPTを禁止し始めた。
インペリアル・カレッジ・ロンドン、ケンブリッジ大学をはじめとする英国トップクラスの複数の大学は、学生たちにチャットGPTを使った不正行為をしないよう警告する声明を出した。
「チャットGPTは問いに対してすばやく簡単に答えを出せるかもしれませんが、批判的思考力や問題解決能力といった、学問的な成功や、生涯にわたる成功に不可欠な能力を育むことはできません」。ニューヨーク市教育局の広報担当者であるジェナ・ライルは、1月上旬にワシントンポスト紙に対してこう語った。
教育界が陥ったこうした当初のパニックは、理解できるものだった。Webアプリとして一般に公開されているチャットGPTは、弦理論からシェイクスピアにいたるまで、ほぼあらゆる話題に関する問いに答えられる。生成された数千語のテキストはしっかりした構成で、しかも洗練されている。チャットGPTが生み出すエッセーは固有のもので、まったく同じプロンプトを与えても異なる結果を出力するため、書き手を見破ることは(実質的に)不可能だ。「学生が学んだことをテストする」という行為は教育の根幹の1つだが、チャットGPTはまるでそのあり方を壊してしまうかのように思われた。
だがそれから3カ月が経ち、見通しはそれほど暗いものではなくなってきた。記者は、チャットGPTのようなチャットボットが子どもたちへの教育にどのような意味をもたらすのか、見直しを始めている数多くの教師や教育者から話を聞いた。今や多くの教師たちが、チャットGPTは不正行為を働く者のための夢の機械などではなく、教育をより良いものにしていくために有効な存在ではないかと考え始めている。
高度なチャットボットには、授業の双方向性を高め、生徒たちにメディアリテラシーを教え、各生徒に合わせた個別の授業計画を作り出し、教師たちの事務作業の時間を減らすなど、強力な授業支援ツールとして利用できる可能性がある。
デュオリンゴ(Duolingo)やクイズレット(Quizlet)など、全米の高校生の半数が利用しているデジタル単語カードや練習ドリルを作成している教育テック企業は、すでにオープンAIのチャットボットをアプリに組み込んでいる。また、オープンAIは、教育関係者と協働してチャットGPTが学校に与える可能性のある影響について、ファクトシートを作成している。オープンAIは、チャットボットが書いたテキストを見分けるための無料ツール(その精度は限定的ではあるが)を開発する際、教育者らに助言を求めたと述べている。
「新たなテクノロジーの利用に関しては、各学区や学校にとって何が最善かを教育政策の専門家が判断すべきだと私たちは考えています」。オープンAIの広報担当者であるニコ・フェリックスは話す。「私たちは全国の教育関係者たちに接触し、彼らにチャットGPTの可能性を伝えています。これは彼らに人工知能(AI)の恩恵と悪用の可能性を知ってもらい、それをどのように授業に応用できるか理解してもらうための重要な対話なのです」。
だが、この方法で教育関係者たちがイノベーションを起こすためには、時間とリソースがかかるだろう。教育関係者の多くは、過重労働、リソース不足、厳密な成果評価といった制約を抱えており、チャットボットがもたらすチャンスを活かすことは難しいからだ。
チャットGPTが登場してからまだ1学期も経っていない中で、チャットGPTがもたらす持続的な影響について語るのは早すぎる。確かなのは、このエッセー執筆チャットボットがこれから普及していく、ということだ。チャットボットは今後さらに精度が高まり、見破ることが難しくなっていく。課題の期限が迫った学生たちの肩代わりをする能力に関しては向上していく一方だろう。チャットボットの禁止は無益などころか、逆効果にさえなりかねない。「私たちは若者、学習者を、そう遠くないうちにやってくる未来の世界に向けて準備させるために、何が必要なのかを問うべきです」。国際教育技術協会(ISTE)のリチャード・キュラッタ最高経営責任者(CEO)はそう語る。ISTEは教育におけるテクノロジーの活用を提唱する非営利組織だ。
これまでも、学校に革命を起こすとされるテクノロジーの力は大げさに喧伝されてきたし、変革をもたらす可能性を持つチャットGPTを取り巻く興奮には、夢中になりやすい。だが、これはそれ以上に大きなものに感じられる。AIはいずれにせよ、授業に採り入れられることになるだろう。私たちがそれを正しく理解することが極めて重要だ。
ABCからGPTへ
チャットGPTを取り巻く大げさな盛り上がりの大半は、それがいかにテストで良い成績を残せるか、という点に基づくものだ。実際のところ、オープンAIがチャットGPTに採用している大規模言語モデルの最新版であるGPT-4を3月に公開した際のポイントもそこにあった。司法試験に合格できる! 大学進学適性試験(SAT)で1410点を取った! 生物学、美術史、環境科学、マクロ経済学、心理学、米国史などのAP試験で見事な成績を残した! 「すごい!」「やばい!」といった反応だ。
一部の学区が完全にパニックになってしまったのも、無理はない。
だが後から冷静に考えると、学校でチャットGPTを禁止しようという声が即座に上がったのは、極めてスマートなソフトウェアに対する愚かな反応だった。「皆がパニックを起こしました」。ボルティモア大学の教育・学習担当部長であるジェシカ・スタンズベリーは話す。「私たちはそこで『よし、こんなものが出てきたぞ。どう使えばいいんだろう?』と考えるのではなく、間違った対話をしていたのです」。
「大騒ぎしていたのです」と話すのは、英国シェフィールド・ハラム大学のデヴィッド・スミス教授(生物科学教育学)だ。多くの学生たちはチャットGPTを不正に利用するどころか、スミス教授が話題にするまで耳にしたことさえなかったという。「チャットGPTが出始めたころに学生たちに聞いてみると、彼らは『すみません、それは何ですか?』といった調子でした」。
それでも、このテクノロジーが大変革をもたらすかもしれないと教師たちが考えているのは正しい。オ …
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