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バッテリーを買わない・所有しないEVという選択肢
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
Why some companies want you to rent the battery in your EV

バッテリーを買わない・所有しないEVという選択肢

電気自動車(EV)の動力源であるバッテリーは通常、自宅や充電ステーションで充電する必要がある。だが一部のEVメーカーは、バッテリー交換式のEVを推進している。そのメリットはどこにあるのだろうか。 by Casey Crownhart2023.06.27

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

最近私は、常に新たなサブスクリプション・サービスを契約しているような気がする。ネットフリックス、パラマウント・プラス、そして当然ながら『メディア王~華麗なる一族~』の最新シーズンに夢中なので、HBOマックスの契約も再開している。

そして近いうちに私は、検討すべきサブスクリプションのリストに電気自動車(EV)のバッテリーを加えることになるかもしれない。一部企業はEVの動力源であるバッテリーとの関係を私たちが見直すことを望んでいる。私たちがバッテリーを所有する形ではなく、サービスとしてバッテリーを提供する形を推し進めようとしている。毎月の料金を支払うと、車の動力源になっているバッテリーの充電をほぼ使い切ったら、いつでも交換ステーションで充電済みのバッテリーと取り替えられるサービスだ。

一部の企業はバッテリー交換サービスの実現に取り組んでいる。交換式EVを推進する企業の動きを記事にまとめたので、こちらでチェックしてみてほしい。今回は、バッテリー交換サービスに取り組む企業が未来に向けて掲げるビジョンが提起する問題を掘り下げてみたい。私の頭から離れないその問題とは、「私たちは自分のバッテリーを所有すべきか?」というものである。

バッテリー交換式EVのビジョン

こんな場面を想像してみてほしい。時は2030年、あなたは車での長旅の途中で、乗っているEVの充電残量が少なくなってきた。あなたは初めて訪れる街に立ち寄り、車に充電プラグを差し込むのではなくバッテリー交換ステーションに車を停める。スマートフォンアプリのボタンを押すと、交換ステーションのプラットフォームが車を持ち上げ、動力源になっているバッテリーを取り外し、代わりに新しいバッテリーを取り付ける。5分とかからず充電残量はほぼゼロから100%になり、また旅を続けられるようになる。

この自動車旅行の次の行程の動力源として、新しく取り付けたバッテリーは、あなたのものではない。そして、取り外された方のバッテリーもあなたのものではない。

これが一部の企業が掲げるビジョンだ。その1つが、中国に拠点を置く自動車メーカーのニオ(Nio:上海蔚来汽車)だ。現在、ニオが販売した30万台の車両が路上を走っている。そして、自社のバッテリー交換ステーションは約1400カ所で稼働中だ。

ニオの車を購入するときは、バッテリーを購入するかどうかをオプションで選択できる。購入しない場合は、ニオの共用電池のサブスクリプション・サービスを契約し、バッテリー交換ネットワークの利用権を得ることも可能だ。

最近ニオは、事業をノルウェーに拡大した。ノルウェーでの料金を例に、バッテリーを購入した場合と、バッテリー交換ネットワークを利用する場合とで、金額がどのように変化するのか見てみることにしよう(2023年5月の為替相場を基に、米ドルに変換している)。

ノルウェーでニオのSUV「ES8」を購入すると決め、最も容量の小さい75キロワット時のバッテリーを選んだとしよう。

バッテリーを自分で所有したい、バッテリー交換ネットワークを使いたくない場合、価格はおよそ5万8500ドルだ。一方、バッテリー交換ネットワークの利用を希望する場合は、5万ドル弱の前金に加えて、月額135ドルを支払うことになる(100キロワット時のバッテリーを選ぶと全体的にこれより高くなるが、考え方は同じだ)。この月額料金を支払うことで、毎月数回のバッテリー交換、または一定量の急速充電が可能となる。

車両だけ購入して、バッテリー交換ネットワークを利用することを選ぶと、5年強が経過する頃に、車両価格と月額利用料の積算額が、車両とバッテリーを一括で購入した場合の価格を上回り始める。そして、現在市販されているEVの大半はバッテリーの保証期間を8~10年としている。

これが示唆すること

私はバッテリーの所有権が移動する可能性に興味を引かれている。もしバッテリー交換ネットワークが実現したら、多くの恩恵を得られる可能性があるのだ。

バッテリーを貸し出し方式にすれば、ドライバーはバッテリーの劣化を気にするストレスが減ると、ニオの動力管理部門で副社長を務めるフェイ・シェンは言う。「いつでも好きなときに交換できるので、ドライバーが劣化を心配する必要はまったくありません」。

ニオにとっての利点もある。バッテリー追跡や補修が容易になるのだ。「何か潜在的な問題が見つかったら、そのバッテリーを交換ステーションにとどめ置いて、整備することもできます」とシェン副社長は言う。さらにシェン副社長は、バッテリーが寿命を迎えてリサイクルのために回収するときも、同じような手順で対応できると付け加える。

さらにはカスタマイズの可能性もある。たとえば、ドライバーは容量が少なめのバッテリーを選んでおいて、長旅の前にだけアップグレードすることもできる。こうすることでコストを削減できるだけでなく、EV向けバッテリーの生産に必要な材料の総量を減らせる可能性もある。

だが一方で、EVの専門家の中には、バッテリー交換方式がそこまでうまくいくのか、疑問を感じている者もいる。

常に質の良いバッテリーをストックしておくことは、サービスを提供する企業の考えよりも難しいかもしれないと話すのは、カリフォルニア大学デイヴィス校のプラグインハイブリッド・電気自動車研究センター(Plug-in Hybrid and Electric-vehicle Research Center)で所長を務めているギル・タルである。ストックされているバッテリーによっては、「より質の低いバッテリーに当たるかもしれないし、質の高いバッテリーに当たるかもしれません」とタル所長は話す。

さらにタル所長は、人々が希望するバッテリーを利用できるという可能性に賭けようと考えるかどうかについても懐疑的だ。「うまくいかないでしょう。皆が同時に大容量のバッテリーを求めることになります」。嵐の日に空港でレンタカーを借りたり、大きなイベントの際にシティ・バイク(Citi Bike:ニューヨークの繁華街で利用できるレンタル自転車サービス)の駐輪スポットを見つけようとした経験はあるだろうか? このような物流面の問題を解決するのは、一般企業には難しいことかもしれない。

EVのバッテリー交換に関しては数多くの興味深い不確定要素があり、単に私たちのバッテリーとの関係が変わる可能性がある、というだけの話ではない。さらなる詳細、そしてそれを本当に実現するには何が必要かといったことについては、こちらの記事をチェックしてみてほしい。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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