KADOKAWA Technology Review
×
「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集中!
新型コロナ対策の失敗を
中国はエムポックスでも
繰り返すのか?
Kevin Frayer/Getty Images
生物工学/医療 無料会員限定
China is suddenly dealing with another public health crisis: mpox

新型コロナ対策の失敗を
中国はエムポックスでも
繰り返すのか?

エムポックス(サル痘)の感染者数が今年になってからアジア諸国で増加している。新型コロナに比べ規模は小さいものの、中国政府の対策は新型コロナウイルス感染症の教訓を活かしているとは言い難い。 by Zeyi Yang2023.08.17

防護服、PCR検査、隔離、接触者追跡——。中国疾病予防管理センター(中国CDC)が先月、ある病気のアウトブレイク(集団発生)の封じ込めに向けて新たな指針を発表した際、既視感を感じずにはいられなかった。

だが、実際に起こったのは、新型コロナウイルス感染症の新たな感染の波ではなかった。中国政府は新型コロナではなく、公衆衛生にとって潜在的かつ重大な懸念であるエムポックス(以前はサル痘と呼ばれていた)への対処を進めていたのだ。世界保健機関(WHO)の報告によると、中国では現在、エムポックスの感染者数が世界で最も早いペースで増加しており、中国は感染拡大防止に向けて迅速に対応する必要があるとしている。

南北アメリカ大陸や欧州でエムポックスのアウトブレイクが始まったのは2022年半ばで、今ではその大部分を封じ込めることに成功したが、新たな感染流行地域としてアジアが浮上している。日本、韓国、タイでは昨年感染者が確認され、その際はいずれも海外から持ち込まれたことによる散発的な事例であったが、2023年には1週間当たりの新規感染者数がしばしば2桁に達している(日本版注:日本国内ではこれまでに194人の感染が確認されている)。これは、国内での市中感染が広がっていることの証左だ。しかし、WHOへ報告された最新のデータによると、中国の感染者数は他のどの国よりも多く、過去3カ月間で315人の感染者が確認されたという。とはいえ、中国政府による感染者数の報告は不定期で、現時点でどの程度まで感染が拡大しているかを把握することは不可能だ。

エムポックスウイルスは新型コロナウイルスよりも感染力は低いが、2022年以降に8万8000人以上が感染しており、強い痛みや人によっては衰弱の症状が見られることもある。また、150人以上がエムポックスで死亡している。国内でのエムポックスの感染拡大防止に成功している国もあるが、おそらくはワクチン接種キャンペーンなどの対策を積極的に推し進めたことが大きく貢献している。

だが、中国政府の動きは鈍い。

米外交問題評議会(CFR)で国際保健担当上級研究員を務めるホワン・ヤンヂョンは次のように語る。「(中国政府の)エムポックスへの対応は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応と比べて著しく異なっていることは明らかです。(エムポックスが)中国で大規模なアウトブレイクに発展する可能性は低いですが、エムポックスの感染拡大防止キャンペーンをより積極的に進めずに、楽観視しすぎると感染リスクの高い人々の間で感染が拡大する恐れがあります」。

現在の感染状況

WHOは5月、昨年大規模なアウトブレイクが発生した国々(主に南北アメリカ大陸や欧州)での感染者数が急激に減少したことを受け、エムポックスに対する「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)」の宣言を解除すると発表した。西アフリカや中央アフリカでは、エムポックスは数十年にわたってエンデミック(地域常在化)状態にあり、現在もその状態は続いている。

感染症内科医で、米国感染症学会の国際保健委員会で副議長を務めるクルティカ・クッパリは「総合的に判断すると、現在の感染状況は昨年と比較して異なる段階にあることは明らかです。感染者数は大幅に減少していますが、世界中の様々な場所でアウトブレイクが散発的に発生しています」と指摘する。

実際に、WHOがPHEICの宣言を解除する頃には、アジアの多くの国々ではすでに感染拡大が始まっていた。日本では3月にエムポックス感染者が急増したが、これはアジアでは初となる事例だった。5月、日本の研究者たちが報告書を公表し、日本とアジア諸国との間に往来があること、そしてアジア地域ではエムポックスワクチンの接種率が低いことを理由に、エムポックスがアジア全体に急速に拡大する可能性があると警鐘を鳴らした。報告書は、欧米と同じレベルまでアウトブレイクが拡大した場合、エムポックスの封じ込めに成功するまでに日本だけで1万人以上が感染する恐れがあると指摘している。

中国で今何が起こっているのか。真相は不透明だ。WHOが収集したデータによると、中国は5月から7月にかけて新たに315人がエムポックスに感染したと報告している。新規感染者数がこれほど多いということは、旅行や渡航とは無関係の感染例がある可能性を示している。

しかしながら、新型コロナへの対応を想起させるこの状況においても、中国政府はエムポックスに関するデータを他の国ほど開示しておらず、1週間当たりの新規感染者数も公表していない。それどころか、6月に確認されたエムポックス感染者の数は106人という数字を一度出しただけだ。中国政府は5月のデータを開示しておらず、7月の感染者数に関するデータもいまだに公表していない。

このような状況でもWHOは、独自の政府とCDCを持つ台湾の感染者数や、香港の感染者数を「中国の感染者数」として一括りに扱っている。一般人がそのデータを国・地域毎に分離する手立てはない。つまり、「315人」という数字には、中国政府が6月に確認した106人の感染者に加え、台湾と香港で5〜7月に確認された感染者の数も含まれている。

感染症がアウトブレイクした際には、可能な限り速やかに状況を把握・コントロールすることが重要 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. AI can make you more creative—but it has limits 生成AIは人間の創造性を高めるか? 新研究で限界が明らかに
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2024 「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集のお知らせ
  3. Interview with Prof. Masayuki Ohzeki: The Future of Quantum Computer Commercialization and the Qualities of Innovators 量子技術を最速で社会へ、大関真之教授が考えるイノベーターの条件
  4. AI companies are finally being forced to cough up for training data 「訓練データはタダではない」音楽業界が問う生成AIの根本的問題
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る