CATLの新型電池でEV充電高速に、10分で400キロ走行
中国の電池メーカーCATLが8月、新しい急速充電池を発表した。従来の2倍の速度での充電が可能だといい、充電時間や航続距離に対する消費者の懸念を払拭し、EVの普及を加速させる可能性がある。 by Casey Crownhart2023.09.06
中国の大手電池メーカーCATL(寧徳時代新能源科技)は8月16日、電気自動車(EV)用の新しい急速充電池を発表した。同社によると、10分間の充電で最長400キロメートルの走行が可能という。事実上、現在のあらゆるEVよりも高速充電が可能になる。
CATLは2023年末までに商業生産を計画しているこの新しい電池セルが、「EVの超急速充電時代の幕開け」になると主張している。ただし、同社が約束している通りの電池容量、寿命、コストを満たす完成品に仕上がればの話だ。
世界の新車販売におけるEVの占める割合は拡大しており、2022年は14%だった。だが依然として多くのドライバーは現在の電池テクノロジーによる航続距離の制限に懸念を抱いており、たとえ急速充電ステーションを利用しても充電に30分以上必要な点に二の足を踏んでいる。EVの導入を促進するには、電池材料のイノベーションと充電インフラの進捗を合致させ、ガソリン車の利便性を再現する必要があるだろう。
CATLは、世界最大のEV向け電池メーカーで、テスラ、メルセデス、フォルクスワーゲンといった主要自動車メーカーに電池を供給している。同社は、航空機用の高密度エネルギー凝縮型電池の製造や、リチウムの代わりにナトリウムを使った新しいEVバッテリーの量産を計画しているが、今回の発表は大注目の最新ニュースとなる。
エネルギー調査会社ブルームバーグNEFのアナリスト、ジアヤン・シーは、CATLの新型急速充電池は競合他社の2倍もの速さで充電できるという。テスラの急速充電は、15分の充電で航続距離は最大約320キロメートルだ。
エネルギー貯蔵分野に投資するベンチャーキャピタル、ボルタ・エナジー・テクノロジーズ(Volta Energy Technologies)のデヴィッド・シュローダー最高技術責任者(CTO)は、商用化されているバッテリーの中には、すでにCATLが発表した充電速度を実現しているものもあると言う。しかし、それらはもっぱら定置型のエネルギー貯蔵に使われており、この種の急速充電池をEVに搭載するのはCATLが初となる。
リチウムイオン電池は、エネルギー貯蔵量と充電速度の間で、厄介なトレードオフが発生する傾向がある。こうした電池は一般的に、「エネルギー電池」と「パワー電池」の2つのカテゴリーに分類される。エネルギー電池はできるだけ多くのエネルギーを蓄えることを優先しており、大きくし過ぎることなくEVの航続距離を延ばすのに役立つ。一方、パワー電池は急速な充電と放電を優先する傾向にあり、送電網を安定させる定置型エネルギー貯蔵用などで効果的だ。
現在のパワー電池は急速充電が可能だが、自動車で使うにはかさばる上に、おそらく数十万キロメートルの使用には耐えられないだろう。急速充電が可能で、かつ小型・軽量、長寿命を兼ね備えた電池は、一歩進歩となるはずだ。
大容量と急速充電のトレードオフは、イオンと呼ばれる帯電した分子が電池内でどのように動き回るかに行き着く。電池は充電されるとき、電流によってリチウムイオンが電池の片側から反対側へ押し出される。そのイオンは、電池のアノード(負極)と呼ばれる電池内の空間に行き着き、そこに蓄えられる。最終的にデバイスに電力を供給するために電池を使うと、イオンは貯め込んだ電気を放出しながら一気に元の場所に戻る。
電池の総容量を増やす場合、このアノードをより厚みのある素材の層で作る。つまり、イオンが送り込まれ蓄えられる空間を大きくする。しかし、アノードが厚い電池はイオン貯蔵空間の一部は素材層の深い位置になるため、イオンの移動距離が長くなり、充電プロセスが遅くなる。充電を高速化するためには、電池メーカーはこの層を薄くして、イオンの移動距離を短くする必要がある。
材料のイノベーションにより、このトレードオフを回避できる可能性がある。CATLは急速充電池の発表において、イオンの経路を短縮化し、充電を高速化するため、(素材の)グラファイト表面の改良や多層設計など、アノードの複数の変更に言及している。
エネルギー・コンサルタント企業であるウッド・マッケンジー(Wood Mackenzie)のケビン・シャン上級リサーチ・アナリストは、CATLの急速充電池はアノードだけでなく、電池のあらゆる要素が充電の高速化に寄与しているようだと話す。例えば、CATLのリリースによると、導電率を改善する新たな電解質(電池内でイオンはこの液体の中を移動する)の効果も認められる。同社のような電池大手は新製品を開発する際、必ずしも1つのイノベーションに頼っているわけではなく、数多くの研究開発の取り組みを積み重ね、それらを組み合わせて1つの製品しているとシャン上級リサーチ・アナリストは述べる。
だが、CATLが発表した急速充電池と、それが自動車にとってどのような意味を持つのかについては、依然として疑問が残るとシャン上級リサーチ・アナリストは言う。この電池を搭載した車の最大航続距離は約700キロメートルだとするCATLの発表は、高いエネルギー密度を示すものだ。だが、それだけの航続距離を実現するために必要な車や電池の大きさについては不明だ。
さらに高い充電率は、一般的に寿命の短縮や価格が高くなる可能性があるとシュローダーCTOは話す。MITテクノロジーレビューがCATLに今回の新しい急速充電池に関して文書で質問したところ、同社から次のような回答があった。「急速充電か否かにかかわらず、当社製品の保証は変わりません」(CATLのWebサイトによると、現在の保証は8年間または走行距離80万キロメートル)。また「コスト効率を改善した」とも述べたが、電池のコストについての詳細は明らかにされなかった。
結局のところ、電池の充電速度はその設計のみならず、利用可能な充電インフラによっても制限される。中国は充電器の設置において世界をリードしているが、高まりつつある需要を満たすには、現在よりもはるかに多くのEV用充電器が必要になる。また、CATLの新しい電池の充電速度を実現するためには、新しい充電器が必要となり、さらなるインフラ整備が要求される。
進歩に関する電池メーカーの発表は「常に良いニュース」であり、「私たちはそれを歓迎しています」とシャン上級リサーチ・アナリストは言う。問題は、企業が約束したことを本当に実現できるかどうかにかかっている。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。