容量から充電速度へシフトしたEVバッテリー競争
電気自動車(EV)の購入を考える人にとって、大きな問題となるのが充電速度だ。中国の大手電池メーカーCATLの発表によって、EV充電の新時代が到来するかもしれない。 by Casey Crownhart2023.09.08
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
私が初めて電気自動車(EV)でドライブに出かけたとき、充電のことはあまり気にならなかった。急いでいなかったし、立ち寄った急速充電器の近くにはイン・アンド・アウト・バーガー(ファーストフード店)があったからだ。フライドポテトを食べ終わる頃には、車はほぼ出発する準備ができていた。
だが、誰もがファスト・フードだけをそんなに食べることはできない。もし私の旅がもっと長く、途中で2回以上の充電が必要だったなら、不便に感じたかもしれない。特に、ガソリン車と比べればなおさらだろう。ガソリン車なら、ガソリンスタンドに立ち寄ってわずか数分で道路に戻れるのだから。
だが、EVの急速充電は近い将来、もっと速くなるかもしれない。8月中旬、世界最大のEV用バッテリー・メーカーが、競合製品のおよそ2倍の速さで充電できる新しい電池セルの製造計画を発表した。最近の記事に書いたように、これは大きな出来事になるかもしれない。だが、充電に関係するのはバッテリーだけではない。そこで、急速充電について詳しく見てみよう。なぜ急速充電がそれほど重要なのか? そして、高速化には何が必要なのだろうか?
充電速度はEV普及のカギ
充電速度はEVを普及させる上で「非常に重要」だ。エネルギー調査会社ブルームバーグNEFのアナリスト、ジアヤン・シーは、EVがガソリン車に代わって市場で台頭し始めている時期ならなおさらだ、と言う。
しかし、その重要な役割にもかかわらず、充電をめぐる状況はあまり順調ではない。国際エネルギー機関(IEA)によれば、信頼できる充電インフラの不足がEV普及の主な障害の1つになっている。
米国や欧州のようなEVの主要市場に限らず、世界の多くの地域に当てはまることだが、稼働中の充電ステーションの数がまだあまりに少ないのだ。特に、急速充電器(30分未満で車の航続可能距離の80%まで充電できる)の状況はお粗末だ。
IEAによると、米国では2022年に約6300基の急速充電器が新たに設置され、合計で約2万8000基となった。大きな数字だが、決して十分ではない。S&Pグローバルの報告書によると、EVの今後の普及によって拡大する需要を満たすには、米国では2025年までに充電器(急速充電器と低速充電器の両方)の合計設置台数を2022年の4倍に増やす必要があるという。
世界の他の地域では状況は改善しつつある。世界全体では、2022年に約33万台の急速充電器が新たに設置された。その増加分のほぼすべてが、中国に設置されたものだ。
しかし、現時点で最速の充電器でさえ、まだガソリン・スタンドに匹敵するスピードには近づけていない。そのため、より多くのインフラを整備し、充電器を安定的に稼働させ続けることに加え、充電速度をさらに上げたいと考えている企業も存在する。
スピード・アップ
では、実際のところ充電はどのくらい速くなる可能性があるのだろうか。興味をひかれるのは、それが充電器テクノロジーと電池テクノロジーが絡み合う、ちょっとしたダンスのようなものだというところだ。実際のところ、充電時間を短縮するには、その両方が必要なのだ。
米国で最も確立されているテスラの「スーパーチャージャー(Supercharger)」ネットワークを例に考えてみよう(私は2016年に数カ月間、テスラでインターンをした経験があるが、現在同社とは一切関係がないことを明記しておく)。
現在設置されているテスラのスーパーチャージャーの最大出力は、250キロワットに達する。充電は非常に速く、車種によっては15分で約320キロメートル分の充電が可能だ。
テスラの4つ目のバージョンの充電器は、最大出力がさらに上がり、350キロワットに達すると伝えられている。しかし、より高出力な充電器が、必ずしもより高速な充電を実現できるわけではない。米国の高級EVメーカーであるルシード・モータース(Lucid Motors)が販売する「ルシード・エア(Lucid Air)」のように、350キロワットで充電できる車両はすでに道路を走っている。テスラには、少なくともまだ今のところは、350キロワット充電に対応する車種がない。
バッテリーの充電速度を管理することは、単により大きな電力を供給するプラグを接続するような、単純なことではまったくない。充電中、電池の内部ではリチウム・イオンが動き回っている。例えば電池内で、イオンが電極に到達する速度よりも、イオンが速く動いていると、イオンがリチウム金属に変化し始め、電池の蓄電容量を急速に劣化させ、寿命を縮めてしまう。
つまり、急速充電の実現は、充電インフラの問題であるのと同じくらい、電池化学の問題でもあるのだ。エネルギー関連のコンサルタント会社であるウッド・マッケンジー(Wood Mackenzie)の上級リサーチ・アナリスト、ケビン・シャンは、これまでの多くの研究開発や技術発表が、エネルギー密度(一定の重量と大きさの電池に詰め込めるエネルギーの量)を高めることに集中していたが、最近では充電速度への注目が高まっていると言う。
触れておきたいのが、中国の大手電池メーカーであるCATL(寧徳時代新能源科技)の最近のニュースだ。CATLは8月中旬、テスラの現行バッテリーに比べておよそ2倍の速度で充電できる新しい電池を発表した。
今回の発表では、まだ明らかになっていない詳細がたくさんある。価格、エネルギー密度、寿命がどのようになるのかは、まだ分からない。だが、もしCATLが、年末までにこの超急速充電バッテリーを量産するという約束を果たせれば、それはEV充電の新時代を意味するのかもしれない。詳細はこちらの記事を読んでいただきたい。
MITテクノロジーレビューの関連記事
この記事に書いたように、米国がEV需要の高まりを加速させるには、まだ多くの充電器を設置する必要がある。
米国では長らくEV用充電器のテクノロジーが対立してきたが、テスラは競合他社を買収しながら、自社技術を事実上の標準として確立しつつある。
一部の企業はまだ、ユーザーに充電させることを完全に避け、バッテリーの交換を選択すれば、EVのさらなる普及につながると考えている。
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- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。