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溶融塩だけじゃない、次世代原子炉技術の現在
Kairos Power
The next generation of nuclear reactors is getting more advanced. Here's how.

溶融塩だけじゃない、次世代原子炉技術の現在

二酸化炭素を排出しない原子力発電は、気候問題の解決策の一つとなる。原子炉を動かしたり、冷却したり、建設したりするのに従来とは異なる方法を使う次世代の原子力技術は現在、どうなっているのだろうか。 by Casey Crownhart2024.02.08

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

原子力発電所の仕組みにはいつも魅了される。巨大で、技術的に複雑で、ちょっと魔法のようにも感じられる(原子を分裂させるとは、何という考えだろう)。しかし最近、私の熱中は新たなレベルに達した。というのも、この1週間ほど、次世代原子力技術について詳しく調べたからだ。

次世代原子力技術はあいまいなカテゴリーである。基本的には、現在稼働中の商業用原子炉とは異なるものすべてが含まれる。現在稼働中の原子炉は、基本的に同じ一般的な方式に従っているためだ。そして次世代原子力技術のカテゴリーには、あらゆる可能性が存在する。

私はある記事を書くため、主にケイロス・パワー(Kairos Power)が開発している技術に注目した(まだ読んでいないなら、ぜひチェックしてほしい)。しかし、将来の原子力発電所の選択肢となる可能性があるその他の技術についても、いくつか詳しく調べてみた。この記事では、次世代原子力技術の選択肢には現在、どのようなものがあるのか覗いてみよう。 

基本

高度な話に入る前に、基本をおさらいしておこう。

原子力発電所は、核分裂反応を通じて電力を作り出す。 原子を分裂させ、分裂した原子が熱や放射線の形で放出するエネルギーを利用するのだ。分裂の際には中性子も放出され、その中性子が他の原子と衝突することで、それらの原子も分裂し、連鎖反応が生まれる。

今日の原子力発電所には、基本的に2つの絶対不可欠な部分がある。まず、反応をもたらすための燃料だ(これが重要な理由はかなり明白である)。2つ目は、制御された方法で連鎖反応を起こすための仕組みである。連鎖反応を制御できなければ、核メルトダウンの領域に入ってしまう可能性があるからだ。つまり、原子力発電所のもう1つの絶対不可欠な部分は、装置全体の過熱を防いで問題が起こらないようにする冷却システムである。(減速材など、他にも非常に多くの部分があるが、この記事を一日中読んでいなくてもすむように、2つに絞ろう。)

現在の送電網上に存在する大半の原子炉において、この2つの部分は同じ一般的な方式が使われている。燃料は濃縮ウランだ。濃縮ウランはセラミック製のペレットに詰められて金属製のパイプに装填され、炉心の中に配置される。冷却システムは、ポンプで原子炉の周囲に加圧水を送り込み、制御された状態に温度を維持する。

しかし、多くの理由で、各企業はこの実証済みの方式に変更を加えることに取り組み始めている。米国には次世代原子炉の設計に取り組んでいる企業がおよそ70社あり、そのうち6~7社は規制当局との調整段階に入れるほどの進展を見せていると、核エネルギーの利用を提唱する政策研究団体「グッド・エナジー・コレクティブ(Good Energy Collective)」の共同設立者兼共同エグゼクティブディレクター、ジェシカ・ロベリング博士は言う。

それらのいわゆる次世代技術の多くは、50年以上前に発明され、実証もされたものだ。業界は現在、標準的な水冷のプラント設計に収束している。しかし今、代替的な原子炉を稼働させることに再び関心が集まっている。新たな設計は、安全性や効率性の向上、さらにはコストの改善にもつながる可能性がある。 

冷却材

代替となる冷却材は、水ベースの設計よりも安全性を向上させられる。必ずしも高圧に保つ必要がないためだ。また、より高温に達することができるものも多く、原子炉運転の効率性を上げられる。

溶融塩は代替冷却材の有力候補の1つである。ケイロス・パワー、テレストリアル・エナジー(Terrestrial Energy)モルテックス・エナジー(Moltex Energy)の設計で採用されている。それらの設計は使用する燃料を減らすことができ、廃棄物の管理もより簡単である。

ナトリウムや鉛などの液体金属に注目している企業もある。現在、ロシアを中心に数基のナトリウム冷却炉が稼働している。ロシアは、鉛冷却炉の開発でも先頭に立つ。液体金属冷却炉は、安全性の点で、溶融塩設計が持つ潜在的な利点の多くを共有している。ヘリウムなどのガスも使用でき、水冷システムよりも高い温度まで上げることが可能だ。エックスエナジー(X-energy)は、ヘリウムを使った高温ガス冷却炉の設計に取り組んでいる。

燃料

代替冷却材を使用する原子炉のほとんどは、代替燃料も使用している。

TRISO(三構造等方性)粒子燃料は、最も一般的な選択肢の1つである。TRISO粒子はウランを含み、セラミックの層と炭素ベースの層に囲まれている。それらの層が燃料を包み込むことで、核分裂反応の生成物をすべて内部に閉じ込めると共に、燃料が腐食や溶融に耐えられるようにしている。ケイロスとエックスエナジーのどちらも、それぞれの原子炉にTRISO燃料を使用する予定だ。

他の原子炉は、HALEU高純度低濃縮ウラン)を使用する。商業用原子炉で使用されているほとんどの核燃料には、3%から5%のウラン235が含まれる。一方、HALEUには5%から20%のウラン235が含まれており、より小さなスペースの原子炉でより大きな出力を得ることができる。

サイズ

2つだけにすると言ったが、特別にもう1つカテゴリーを追加しよう。燃料や冷却材などの仕様変更に加え、多くの企業がさまざまな(主により小さな)サイズの原子炉を作ることに取り組んでいる。

現在、送電網に導入される原子炉のほとんどは1000メガワット以上の巨大なものであり、数十万世帯分の電力をまかなうことができる。そのような巨大プロジェクトの建設には長い時間がかかり、それぞれにカスタムメイドのプロセスが必要になる。小型モジュール炉(SMR)は、手順が共通しているため巨大な組立ラインのようなもので製造することができ、建設が容易になる可能性がある。

ニュースケール(NuScale)は、この分野をリードしてきた企業の1つである。同社の原子炉設計は商業用燃料と水の冷却材を使用しているが、全体としては小型化されている。しかし、ここ数カ月はあまりうまくいっていない。最初のプロジェクトはほとんど頓挫し、1月上旬には従業員の30%近くを解雇した。他の企業はまだ小型モジュール炉の設計に取り組んでおり、多くは代替燃料や代替冷却材の使用も目指している。

次世代原子力のニュースをもっとたくさん読みたいなら、ケイロス・パワーに関する私の記事をご覧いただきたい。また、アーカイブでも最近の記事をいくつかチェックできる。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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